板書の技術(その5)

板書はその場の用を果たすたびに消されるものですが、生徒のノートに書き写されたものはその後もずっと残ります。板書のスタイルに年間を通してある程度まで統一したものがないと、生徒がノートを見直したときに、表記のバラつきはわかりにくさの原因になります。

書籍を読んでいて章ごとに組版の方式や表現が異なっていたら読みにくくて仕方ないですよね。不整合に気を取られてしまっては、仮に内容が良くても内容は頭に入って来にくいものです。

板書のスタイルは、日々の試行錯誤を重ねて確立されていくものでしょうが、自分の頭の中だけであれこれ考えているだけでは、新たな発想がもなく改善に限界があります。生徒のノートに残った他の先生の板書も参考にしながら、スタイルの確立を図っていきましょう。

2014/04/20 公開の記事を再アップデートしました。

❏ 板書はその場限りだが、ノートはあとまで残る

改めて申し上げるまでもなく、板書はその場の用が済んだら消されるもの(電子黒板での板書やオンラインで配信した授業動画中の板書なら保存は可能ですが…)であるのに対して、黒板を書き写した生徒のノートは後々まで残ります。

定期考査前に復習をしたり、先の単元に進んだときに既習内容を見返そうとしたりするとき、日付の異なるノートを串刺しにして読み直すことになりますが、色分けや記号の使い方が日ごとにバラバラでは、理解の妨げになります。

覚えるべき項目を強調するために使う色も、その場限りならば、白以外なら何でも構わないでしょうが、日付を跨いで残るノートでは統一されている方が好ましいはずです。

※印にしても、補足部分であることを示すのと、重要項目であることを示すのに混用しては混乱のもとです。強調なら「!」や「★」、補足の時に限って「※」を用いるなど、使い分けのルールを持ちましょう。同様に、丸括弧、カギ括弧、引用符もうっかりすると混用しがちです。


❏ 機能と重要度の2軸で考える黒板上の表現

表記のルールは、機能と重要度の2軸で作るとすっきりとまとまりやすくなります。機能による区別の例は以下のようなものでしょうか。

「互いに関連のある項目をまとめるときは枠で囲ってタイトルを付す」
「判断の根拠は吹き出しにして添える」
「パラレルな関係、対立などは、位置関係や表組で表現する」

一方で、その場の学びにおける重要度/意義に着目すると以下のような分類もできると思います。

「必ず覚えなければならない用語は黄色のチョークで文字を書く」
「拡張知識や、補足的な説明やコメントは赤を使う」
「既習内容の再確認は、緑のチョーク」

このほかにも、読み取るべきテクスト(本文など)と、本文から読み取った結果としての解釈と、その解釈に際して使った気づきや発想や問いなどのメタ言語とが、混同されない表記も工夫したいところです。

こうした分類に加え、前述の記号の統一などは、面倒にお感じになると思いますが、意識的に行うことを繰り返すうちに、思ったより早く習慣化し、比較的短期間で反射的にできるようになるものです。


❏ 表記のルールを決めたら生徒にも伝えて共有

先生がご自分の中で、板書における表記のルールを決めたら、生徒にもそのルールをきちんと認識させて行きたいところです。

明確な意図をもってチョークの色を分けているのに、生徒が手にしているのはシャープペン1本だけというのでは、先生が表現したはずの意図は生徒のノートに微塵も残りません。

とは言え、授業開きの時間を割いて、色分けや記号の意味をこまごまと説明しても、学びをまだ経験していないところで決まり事だけを伝えられる中にピンとくるものはなく、縛りの強さを感じるばかりです。

最初は、「授業ではチョークを3色使うから、シャープペンのほかに2色の筆記具を用意しておくと良いね」くらいに止めておき、ある程度の授業を経たタイミングで「ところで、この色のチョークはどういう場面で使っていると思う?」と問い掛けてみましょう。

先生の意図に近いところを既に見抜いている観察力の鋭い生徒もいるでしょうが、大半の生徒は、先生からの種明かしを効いて初めて「ああ、そういう意図で使い分けていたのか」と気づきます。

こうした気づきはその後の注意力を高め、先生が持つチョークの色の違いに込められた意図もより良く伝わるようになっていきます。

表記の一つひとつに込めた先生の意図をわかった上で、その先の工夫を自力でやろうとする生徒もいるはず。くれぐれもその工夫にブレーキを掛けないようにしたいもの。寧ろ、生徒の工夫に先生が学ぶべきです。


❏ 板書案作りは、継続的な改善の効果的な手段

板書における表現の工夫は、日々の授業を振り返り、新たな手法を試して継続的に改善を重ねて行きたいものです。

板書の改善を図ろうにも、教室に臨んで本番を重ねるだけではじっくりと自分の板書に向き合えません。授業準備の段階での板書案作りの中にこそ、新しいアイデアやこれまでを振り返っての気づきが生まれます。

日々の板書案はファイルなどに綴じ込み保存しておくことも重要です。ある単元の授業準備をするとき、1年前の板書案が参照できれば、時間が経過したことで客観的にそれを見ることができるので、内包している表現上の問題や改善の余地にも気づきやすくなります。

また、別の先生が他のクラスや次年度の授業で同じ単元を扱う時にも、その板書案を参考にすることができます。複数の先生のアイデアや工夫が合わさることでより良いものが生まれる可能性が高まるのは、対話による気づきの交換がもたらす効果と同じだと思います。

板書案を作るのにタブレットとOneNoteを使っている先生方が、周囲で増えていますが、既存のパーツの使いまわしが容易な上、保存に場所も取らず、他の先生との共有も楽だというのが皆さん共通のご感想です。


❏ 生徒の工夫や他の先生の発想を、ノート点検で学ぶ

別稿「生徒のノートは授業改善への優れた教材 」の通り、生徒のノートには、板書法の改善を図るときのヒントが沢山詰まっています。

周囲の先生(同じ教科でも、別の教科でも)が点検で回収してきた生徒のノートを見せてもらうと、それぞれの先生の板書の工夫や自教科にはない発想での内容や様式が見つかることも多々です。

また、自分のクラスでノート点検をするときも、生徒が真面目にノートを取っているかを点検するだけではもったいない。生徒自身による面白い工夫(生徒が塾や動画で学んだものもあるかも)がないかという視点をもって眺めてみると、そこには多くの気づきと学びがあります。

他の先生の授業に足を運んで板書法を研究した方が、前後のやり取りも観察できてベターですが、多忙を極める校務の中でそれが困難な場合、教室での50分が凝縮された生徒のノートを教材にしましょう。

様々な先生方の工夫に触れることで好適な自己研鑽の場が生まれます。

その6に続く(未更新)

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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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