板書の技術(その6)

板書に加えて/代えて、多彩なプリントを駆使して効果的な授業を展開している先生もたくさんおられる一方、不用意なプリント使用が学びを浅いもの、断片化したものにするリスクがあります。板書の技術というシリーズですが、板書を補完するツールとしてのプリントを考えます。

プリントには様々なものがありますが、機能に着目すると以下の4タイプに分類できるのではないでしょうか。

  1. 練習問題等を配布するための問題集代用型
  2. 文献コピーや図版をメインとした参照資料型
  3. 板書やスライドと併用する、空所を設けたサブノート型
  4. 活動の成果や気づきを記録していくワークシート型

このうち、1. と 2.では、生徒が所持する主副の教材の外に生徒に消化を求めるものが加わります。消化不良を起こさせないことや増加した分に押し出されて教科書での学びが薄くなったり抜けが生じたりしないよう注意が必要です。(cf. 荷物を増やしても、学びが膨らむとは限らない

本稿で考察の対象とするのは、3. と 4.の2タイプです。生徒が書き写す手間を減らして授業の効率化を図ろうとした結果が「知識の断片化」になってはいけませんし、ワークシートも欄を埋めたら終わりという使い方では学びを浅いものに止めてしまうリスクがあります。

2014/04/21 公開の記事を再アップデートしました。

❏ 教材の増加が参照箇所を見失うリスクを招く

黒板とノートだけでシンプルに進める場合と比べ、様々な教材・教具を併用することで生徒が意識を向ける先が増え、ちょっと集中を欠いただけで、今どこを参照して話が進んでいるか見失うことも増えます。

そんな場面を重ねることで、不明を積み上げてしまったり、まごついているうちに活動を通して得られたはずのものを逃してしまったりでは、もったいないことになります。

参照箇所が変わるタイミングでは、きちんと指示を出すことに加え、新たに参照する箇所に十分な意識を向けさせる仕掛け(参照箇所を黒板に書き出す、該当箇所を読ませて書いてあることを尋ねるなど)も併せて講じるようにしましょう。


❏ 学びの記録を集約し、成果と気づきを散逸させない

また、黒板からノートに書き写すもの、プリントに書き込むもの、タブレットなどから電子的に投稿/提出したものと、学びの記録を残す先が増えれば、復習/振り返りに際しての参照が面倒&複雑になります。

関連付けて扱った事柄が、別々のところに記録されていては、復習の際に関連性を見落としたままになってしまうかもしれません。

行く行くは、デジタル教科書を用い、ノートもワークシートも、ポートフォリオもデバイスを介してシームレスに扱うようになるでしょうし、資料もクラウドに蓄積され、生徒が自分でファイルに綴じ込んでいる光景を見かけることもなくなるかもしれませんが、まだ暫く先のこと。

資料プリントやワークシートは、パーツに切り分けてノートに貼り込ませることで一括管理をさせるのも効果的です。

別のファイルにまとめて整理させざるを得ないケースでは、プリントに通し番号を付した上できちんとファイリングさせ、ノートには参照すべきプリント番号と項目名を書き込むことを習慣化させましょう。

授業中に動画や資料映像を見せたときは、クラウドにファイルをアップロードしておき、プリントに印刷したQRコードを切り取ってノートに貼り込ませることで、復習したい/もう一度見たいというニーズに応えようとしている実践もあります。

復習は、断片化した知識を頭に押し込めることではありません。学びの場とそこでの対話を思い出せる形で、個々の知識を結び付け直すことができる復習を実現させられるかどうかは、指導者側の工夫次第です。


❏ 参照箇所を見失わせない、参照記号の統一付与

プリント、黒板、ノート、スライドとあちこちに視点が動く中で、今どこをやっているのかわからなくなったり、どこに書き込めばよいか判断がつかなくなったりするのは前述の通りです。

そんな状況に陥れば、生徒も焦るばかり、もたついている姿を見る先生も内心がっかりですが、プリントで項目ごとに通し番号を振り、空所に記号を表示しておくだけでも、こうした事態は回避しやすくなります。

新たな箇所を参照するに当たり、該当箇所の番号・記号を板書してみせれば、該当箇所は一発で特定できます。

ただし、番号や記号が連続したものでなければ、かえって混乱のもと。切り貼りで安易に作ったプリントで同じ記号がいくども登場しては、番号を伝えたところで生徒は別の個所を見ているかもしれません。

あちこちのソースからコピーしてきたのか、様々な番号・記号が混在しているプリントを見ると、生徒が気の毒になります。中には用紙サイズや縦横もバラバラというケースもあります。確かに中身は一緒でも、これでは、学習者に対する配慮が足りないと言わざるを得ません。


❏ 穴埋めだけでは知識・理解の断片化を助長する

プリントを用いた授業では、効率的に授業を進めることを優先するばかりに、空所に補う語句だけを板書しているケースが少なくありません。

せっかく情報に構造付けをしたプリントを作ったのに、生徒の意識は空所を埋めることにしか向かず、用語を文脈や構造から切り離して知識を断片化させてしまっていることがあります。

どれほど効率良く授業を進められたとしても、これでは単元内容の深い理解は難しくなります。別稿でもご提案した通り、学びの活動に生徒のエネルギーをしっかり投じさせるようにしましょう。

空所に補う語句だけでなく周辺を含めた全体を板書し、そこで表現されていることを生徒自身に言語化させる活動も組み合わせるべきです。

生徒のアウトプット(理解したことや思考の結果を言語化したもの)を材料に、「板書の断片化」が生じていないか常に点検しましょう。

ちなみに、断片化の反対語は構造化です。補った語句の羅列では項目間の関連付けや全体理解の構造化への取り込みはできません。また別稿で触れた「振り返りながらの加筆で、学びを深める」ことも「情報の整理や構造化のプロセスを見せて学ばせる」ことも困難になります。


❏ パワーポイントを使うときのハンドアウト

パワーポイントで作ったプレゼンテーション(スライド)を使って授業を進めるときは、映写したスライドをベースにしたハンドアウトを用意するのが好適です。スライドがあるのに、わざわざサブノート式のプリントを別に作っては、先生の手間は増えるし、生徒の混乱も増えます。

映写用のスライドを先に作っておき、空所にしたい部分に図形描画で枠を描いてマスクしたものを生徒に配布するハンドアウトに転用すれば、元が同じなので、やっているところを見失うこともありません。

アニメーションの設定で、クリックのたびにマスクが消えて空所が開かれるようにしておけば、リズムよく説明を進められます。

なお、書き込ませるのは空所に補った用語だけでなく、資料を読んで理解したことや問いに触発されて思考した結果、更には学びの振り返りを通した気づきなども含まれます。

ハンドアウトの中にこれらすべてを収めようとすると、プリントの量も増えますし、作る手間も膨大です。

前述とも重なりますが、スライドベースで作成したハンドアウトは、授業を進めながら/終えたときにハサミでパーツに切り分けて、ノートに貼り込ませて整理させた方が、復習に際して授業の流れを再現しやすく学びの統合が容易なノートを残せます。

また、細かい点で誠に恐縮ですが、以下の2点についても気になることがしばしばです。該当するケースがないか振り返ってみましょう。

  1. ハンドアウトを印刷するときカラーモードのままモノクロプリンタに出力すると、中間色のグラデーションがつぶれたり、文字が図版に埋もれたりして読みにくくなります。印刷設定で「単純白黒」 を選べば文字ははっきりとした黒で印字されます。

  2. 出力紙の枚数を節約するために6枚のスライドを1ページに印刷するのも考えものです。読みにくいうえ、書き込みも大変です。用紙を横置きに設定して4枚のスライドを1ページに収める設定ぐらいが、見やすさを保ちつつコストを抑える落としどころでしょう。



ICT機器も普及が進んできた中でのコロナ禍は、教育のデジタル化が一気に加速しそうです。YouTubeにアップした解説/授業動画やオンラインでの課題提出など、これまでになかったものが「日常」になりつつあります。当然ながら、板書やノート、プリントといった教具の使い方にも大きな変化が押し寄せてきそうです。これまでの発想を離れて、今の技術でできることを本気で考えて行く必要がありそうです。

 ■ 学びを軸にICT活用を考える(全3編)
 ■ コミュニケーション・ツールとしてのICT

その7に続く(未更新)

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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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