分業で行う出題研究のフィルタリング(その5)
フィルタリングを通じてせっかく良問を選んだのですから、きちんと授業内外の課題として使う場面を設けましょう。教科書で進行する単元と、出題の中心テーマが一致するタイミングで使えば良いというものではありません。
❏ 「S評価」 が確定した問題はマイルストーンに
教科会などでの協議を通じて「S評価」 が確定した問題は、どこかのタイミングで生徒に解かせる(活用機会として付与する)場面を確保しましょう。
良問を見つけたら、その場で指導カレンダーに落とし込んでしまいましょう。
良い問題を見つけて、「いつか生徒にやらせてみよう」 と思っていても、机の引き出しに眠ったまま生徒の卒業式を迎えてしまっては、何にもなりません。
❏ 課題ありきでの授業設計&指導計画
時期を熟慮することなく単元名の一致だけで教室に持ち込むのは危険です。
「正解を導けた経験」 から生まれる様々なメリットを生徒に還元するどころか、「解けない自分に向き合わせる」 だけの結果になりかねません。
諦めさせない指導を目指したつもりが、意図とは裏腹に、進路希望を放棄するきっかけになっては悔やみきれません。
「いつ、この問題に挑ませるか」 を決めておけば、そこに至る指導も戦略的に設計することができるはずです。逆の言い方をするなら、「挑ませたい問題」 があってこそ、そこまでの指導が立案できるということだと思います。
❏ どこまで学びを広げてからチャレンジさせるか
設問が求めている知識や理解のうち、一定の割合を既に学んでいるタイミングなら、まだ教えていない部分が多少含まれても、問題を解くことを通じて学ばせるという発想でOKだと思います。
しかしながら、問題を解くためには、より広いものの捉え方や他の単元を通じて形成すべき思考法が必要になることも少なくありません。
そんな場合は、関連する項目を別の単元で学ぶタイミングまで待った方が、学びを深く・広くできるかもしれません。
入試問題はたいていの場合、複数の単元にまたがる融合問題ですし、少し高いところから俯瞰してみれば、様々な切り口を持っています。
❏ タイミングを外してしまうと獲得できるものが小さくなる
単元固有の知識や理解以外の学力要素は、その問題に初めて取り組むときにしか学べないこともあります。
一度解いてしまったら、解き方を再現するだけであり、解き方を考えるという要素は薄まってしまいますし、表現力を磨くにも、「初見の問題」 であることが指導効果を高めます。
せっかくの良問ですから、その問題を教材として最大限に活かすには、扱うべきタイミングをじっくりと見極める必要がある、ということです。
ひとつの問題を手掛かりに、より広い範囲に学びの領域を広げることができることもあります。あるテーマを取り上げるとき、その内容を中心的に学ぶ教科・科目の進行と併せれば、多角的に一つのことを学び、理解が及ぶ範囲を大きく広げることもできるでしょう。
英語や国語で論説を扱うときは他教科の知識が学びを膨らませますし、同じテーマであっても、地歴で学ぶのと公民視点で学ぶのとでは切り口が異なりますし、理科的な発想で考察することで違った側面が見えることもあります。
❏ 協働での学び方、汎用スキルの獲得状況なども踏まえて
学んでいる内容だけでなく、学び方(学習方策)そのものについても、生徒が身につけているものによって、授業に取り入れられる範囲が異なります。
ジグソー法でのグループ学習に使いたいと思えば、それまでに他の内容・単元で同様の学習を体験させてからの方が、よりスムーズに効果的な学びができるはずです。
調べ学習を伴うようにしたいときにも同様ですね。ググる以外の検索方法を持たない状態で調べ学習をするのと、図書館の利用に習熟させてから挑ませる調べ学習とでは全く違うものになります。
総合的な学習を通して、統計的なものの考え方などを学んでいた生徒なら、さらに深い調べと考察ができるはずです。
他のスキルや周辺知識の欠落・不足で、せっかくの良問からの学びを小さくしてしまってはもったいないのではないでしょうか。
❏ 誰を対象に課題として与えるか
平常授業で全員に取り組ませるのが良いのか、特定の集団に対象を絞って挑ませるのが良いのかも、思案を要します。
国公立大学を挑む生徒や、ある学部系統を目指している生徒には好適でも、それ以外の生徒にはあまり必要性が高くない問題もあるかもしれません。
授業で扱うより、志望校別の講習会・勉強会の教材として使用するのが最適な問題もあります。
授業内で全員に提示しながらも、提出は任意として、「答え合わせ会」 を実施してそこへの参加を促すことで、進路希望を同じくする生徒を集め、互いに支え合うコミュニティを形成するきっかけにすることもできるはずです。
■ 生徒が互いの頑張りを支え合う集団作り
その6に続く
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一
❏ 「S評価」 が確定した問題はマイルストーンに
教科会などでの協議を通じて「S評価」 が確定した問題は、どこかのタイミングで生徒に解かせる(活用機会として付与する)場面を確保しましょう。
良問を見つけたら、その場で指導カレンダーに落とし込んでしまいましょう。
良い問題を見つけて、「いつか生徒にやらせてみよう」 と思っていても、机の引き出しに眠ったまま生徒の卒業式を迎えてしまっては、何にもなりません。
❏ 課題ありきでの授業設計&指導計画
時期を熟慮することなく単元名の一致だけで教室に持ち込むのは危険です。
「正解を導けた経験」 から生まれる様々なメリットを生徒に還元するどころか、「解けない自分に向き合わせる」 だけの結果になりかねません。
諦めさせない指導を目指したつもりが、意図とは裏腹に、進路希望を放棄するきっかけになっては悔やみきれません。
「いつ、この問題に挑ませるか」 を決めておけば、そこに至る指導も戦略的に設計することができるはずです。逆の言い方をするなら、「挑ませたい問題」 があってこそ、そこまでの指導が立案できるということだと思います。
❏ どこまで学びを広げてからチャレンジさせるか
設問が求めている知識や理解のうち、一定の割合を既に学んでいるタイミングなら、まだ教えていない部分が多少含まれても、問題を解くことを通じて学ばせるという発想でOKだと思います。
しかしながら、問題を解くためには、より広いものの捉え方や他の単元を通じて形成すべき思考法が必要になることも少なくありません。
そんな場合は、関連する項目を別の単元で学ぶタイミングまで待った方が、学びを深く・広くできるかもしれません。
入試問題はたいていの場合、複数の単元にまたがる融合問題ですし、少し高いところから俯瞰してみれば、様々な切り口を持っています。
❏ タイミングを外してしまうと獲得できるものが小さくなる
単元固有の知識や理解以外の学力要素は、その問題に初めて取り組むときにしか学べないこともあります。
一度解いてしまったら、解き方を再現するだけであり、解き方を考えるという要素は薄まってしまいますし、表現力を磨くにも、「初見の問題」 であることが指導効果を高めます。
せっかくの良問ですから、その問題を教材として最大限に活かすには、扱うべきタイミングをじっくりと見極める必要がある、ということです。
ひとつの問題を手掛かりに、より広い範囲に学びの領域を広げることができることもあります。あるテーマを取り上げるとき、その内容を中心的に学ぶ教科・科目の進行と併せれば、多角的に一つのことを学び、理解が及ぶ範囲を大きく広げることもできるでしょう。
英語や国語で論説を扱うときは他教科の知識が学びを膨らませますし、同じテーマであっても、地歴で学ぶのと公民視点で学ぶのとでは切り口が異なりますし、理科的な発想で考察することで違った側面が見えることもあります。
❏ 協働での学び方、汎用スキルの獲得状況なども踏まえて
学んでいる内容だけでなく、学び方(学習方策)そのものについても、生徒が身につけているものによって、授業に取り入れられる範囲が異なります。
ジグソー法でのグループ学習に使いたいと思えば、それまでに他の内容・単元で同様の学習を体験させてからの方が、よりスムーズに効果的な学びができるはずです。
調べ学習を伴うようにしたいときにも同様ですね。ググる以外の検索方法を持たない状態で調べ学習をするのと、図書館の利用に習熟させてから挑ませる調べ学習とでは全く違うものになります。
総合的な学習を通して、統計的なものの考え方などを学んでいた生徒なら、さらに深い調べと考察ができるはずです。
他のスキルや周辺知識の欠落・不足で、せっかくの良問からの学びを小さくしてしまってはもったいないのではないでしょうか。
❏ 誰を対象に課題として与えるか
平常授業で全員に取り組ませるのが良いのか、特定の集団に対象を絞って挑ませるのが良いのかも、思案を要します。
国公立大学を挑む生徒や、ある学部系統を目指している生徒には好適でも、それ以外の生徒にはあまり必要性が高くない問題もあるかもしれません。
授業で扱うより、志望校別の講習会・勉強会の教材として使用するのが最適な問題もあります。
授業内で全員に提示しながらも、提出は任意として、「答え合わせ会」 を実施してそこへの参加を促すことで、進路希望を同じくする生徒を集め、互いに支え合うコミュニティを形成するきっかけにすることもできるはずです。
■ 生徒が互いの頑張りを支え合う集団作り
その6に続く