クラス内で生じた学力・学欲差への対処法(その3)

授業の成立を難しくさせるのは、科目の総合的な学力における個人差ではなく、新しく学ぶ単元の前提知識における差の大きさであり、事前に打つべき対策があるというのが、前稿までにお伝えしたことです。

しかしながら、実際に授業を始めると、スタート時点での差に加え、新しいことを理解する速さや課題を処理するのに要する時間における個人差が問題になってきます。この差に対処するにも「クラス内の学力差を逆手に取って積極的に利用してしまう」という発想が役立ちそうです。

2014/11/10 公開の記事をアップデートしました。

❏ 早く完答できた生徒を先生役に

クラス全体になんらかの課題を与えて一斉にスタートさせると、あっという間に仕上げてしまう生徒もいれば、時間が掛かったり躓いて先に進めなくなる生徒も出てくるのは当たり前です。

遅い生徒の仕上がりを待っていては早い生徒が退屈し、早い生徒に合わせては遅い生徒が置いてきぼり。こうしたジレンマを解消する最も手っ取り早い方法は、早く仕上がった生徒を先生役にしてしまうことです。

生徒に課題を与えて取り組みが始まったら、机間指導で様子を見ながら丸つけをしていきます。この場面で優先すべきは、個々の生徒の不明や疑問に応じることより、「早く完答した生徒」を見つけることです。

一人をケアしている間、躓いている他の生徒は順番待ちです。完答者を早く見つけて先生役を増やしていきましょう。

完答できた生徒を見つけたら起立してもらって、「先生役」に指名してしまえば、他の生徒は「先生役」に質問したり、教えてもらったりできるという寸法です。


❏ 専門家である先生がベストティーチャーとは限らない

先生の説明が一番わかりやすいとも限りません。ベストティーチャーは先生方ではなく、同じクラスで学ぶ他の生徒かもしれません。

専門家である先生の言葉より、同じような生徒が一度かみ砕いた言葉の方が呑み込みやすいことがあるのは、容易に想像ができるのではないでしょうか。

先生役第一号の生徒は、最初のうちはモジモジしているかもしれませんが、友達に訊かれたら教えるしかありません。そのうち二人、三人と増えるにしたがって、衒いも戸惑いもなくなってきます。

やがてクラスの方々で、自然発生的にミニ教室が生まれ、教え合い・学び合いの輪が広がっていきます。

以前に覗かせてもらった教室では、先生役の生徒が「指導法の協議」を始める姿が見られました。生徒の可能性は全くもって侮れません。


❏ 教えることを通した言語化と学びの深化

正解できたけど説明できないという生徒は、別の機会に似たような問題に出会ったときにまた正解できるとは限りません。正解に至るプロセスを意図して描けてなかったり、題意を読み解く着眼点、手順選択の根拠などが直観的、場当たり的だったりするからです。

他の生徒に教えようとなれば、自分の頭の中で考えたことを言語化する必要が生じますが、この工程が思考や着想を客体化し、理解をより確かなものにしてくれます。

また、言語化された情報は、感覚でしか認識されていないものに比べて想起できなくなった時の再構築も容易になります。再記銘の機会がなかった記憶が保持されず、想起できなくなったとしても、改めて考え出せますし、もしかしたらより良いものに改作されるかもしれません。

他の生徒に教えるという行為は、思考の言語化のプロセスを踏むことであり、教える側に理解も深まり、記憶への定着も進むというメリットを備えます。時には教えながら新たな気づきを得ることだってあります。


❏ 余力を残す生徒に挑ませる任意課題を用意

理解するのが早い生徒にいつも先生役をやらせておくのでは、学びの重ね塗りはできますが、さらに先に学びを進めさせることはできません。

キャッチアップが必要な生徒のケアを先生方が引き受けているうちに、早く解き終えて手空き時間が生じた生徒にはよりチャレンジングな課題を与えてより深い学びに挑ませましょう。

クラス全体に挑ませ、確実な達成を目指すべき「必達課題」の上に、余力がある生徒が挑む「上位課題」、上級学校に進んでもさらに学びたいという意欲を持つ生徒に与える「挑戦課題」といった具合に、ハードルを何段かにセットしておくのが好適です。

副教材として傍用問題集を持たせているなら、「手が空いたらどんどん進めなさい」という指示だけでOK。実に簡単ですよね。

先生がピックアップした「挑戦すべき問題」をプリントにしておき、教卓の上に置いて、挑戦したい生徒が取りに行くのでも良いと思います。

先生方が出題研究で見つけた良問を、必達/上位課題に生徒が挑んでいる隙にすっと板書しておくという手もあります。

問題を解き終えて顔をあげた生徒は、黒板に書いてある問題を目にすれば、学力上位者だけに「どう解くんだろう」と考え始めてくれるはずです。もし、手を動かすそぶりが見えなければ、声をかけるか、アイコンタクトで「何で解かないの?」と促すようにしましょう。


❏ 挑戦課題に取り組んだ生徒間で働かせたい相互啓発

挑んだ生徒が仕上げた答案は、先生方が添削して返してあげるのでもかまいませんが、それだけでは挑戦課題に意欲的に取り組んだ生徒間に相互啓発を働かせることはできません。

最上位課題に取り組んだぐらいですから、その科目には自信もあるでしょうし、一度手を付けた問題ですので、授業終了のチャイムが鳴っても答えを完成させたいという欲求を持っているはずです。

休み時間になってもやりかけの問題に取り組み続ける生徒が現れたり、先生を捕まえて質問する姿が見られるようになったら心強いですよね。

自宅に持ち帰っても良いから答えを仕上げるように指示し、出来上がったらタブレットから共有サーバーにアップさせてみるのもお奨めです。他の生徒の答案も見れるようにしておけば、わざわざ先生が答え合わせをせずとも、生徒は互いの答案を見て正誤を判定できます。

好適な答案をピックアップして「この答案のどこが優れているのか」を説明してあげるとか、答案の書き方などのテクニカルな部分に注意を与えるとかいった場面では先生の介入も必要ですが、生徒同士で片のつくところは放置した方が、学びのコミュニティ作りには好適です。

教えなければ学ばせていることにはならないという思い込みから少し離れると、学ばせ方にも様々なバリエーションが生まれます。


❏ 上位生が自分で進める間に、遅れている生徒のケア

上位生が任意課題に挑んでいる間、先生方は完成が遅れている生徒へのケアに集中できます。

個別に面倒を見るのでは、他の生徒を待たせるばかりですよね。これでは効率的とは言えません。「ここまで解けた生徒は問題集を進めておきなさい。教え合っても良いよ」と手綱を放し、まだ解けていない生徒のキャッチアップを助ける授業に切り替えましょう。

ここで解き方を解説したところで、生徒はそれを書き写して再現するだけです。「ここに着目した?」「どの公式を使いたい場面?」「それならどうする?」と問いを重ねて生徒自身に気づかせていきましょう。

ある問題を解けなかった理由に気づかせ、一つひとつを意識上でできるようにさせることが次の機会で解けるようにすることだと思います。

必達問題を解けたかどうかで条件分岐を行い、同じ教室の中で複数のタスクを並行させていくというやり方です。行ってみればクラス内習熟度別授業ですよね。このやり方は、集団を分けて固定することのデメリットもなく、より広範な学力の生徒に対応できる可能性を持っています。

その4に続く

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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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