クラス内で生じた学力・学欲差への対処法(その4)

クラス内に学力差が生じているときは、躓きが起こる箇所の違いが大きくなるということです。学びは前段の理解を土台の上に積み上げるものですから、理解が形成できているか頻繁に把握することと、躓きからのリカバリーを即座に図れることが、学力差による悪影響を小さく抑えるときのポイントになります。


❏ わからずに止まっている時間が差を広げる

答えを導き出すのにいくつもの工程を踏まなければならない問いを、クラス全体に投げかけたとしましょう。

考えるだけの前提が整っていた生徒は手と頭を使い始めますが、既習事項への習熟が足りない生徒、解法の手掛かりを見つけられない生徒は、手も頭も動きません。

スタート時点で先行していた生徒が歩を進め、後列にいた生徒がその場に立ち止まったままでは、差が拡大するだけです。


❏ スモールステップで進め、不明を解消する機会を作る

一度に投げかけるものは、小さく分割しておいた方が、こうしたリスクは小さくできます。

問いを小さく分割した上で、ワンステップずつ、クラス全体に投げかけましょう。

問われれば、答えるために知識や発想を動員します。その時に、「解を導くのに足りていないパーツ」 に気づけば、「わからない」 という表情が現れます。

不明の発生に気づけば、教科書やノートのページを開いて調べさせることもできますし、隣同士で説明し合う場を作って相互に補わせることもできます。

生徒を動かしてみれば、観察の窓 が開けますので、待てば自力で超えてこれるのか、こちらから手を差し伸べないと立ち上がれないかの判断もできます。


❏ 生徒が自力で超えられない溝や壁は…

わざわざ立ち止まるまでもない小さな躓きなら、わかっていそうな生徒を指名して発言させて、それをクラス全体で確認して先に進むこともできるはずです。

なお、そこで確認した「絶対に押さえておかなければならないポイント」 は、黒板の隅にでも書き出して、生徒の視野に固定しておきましょう。

耳で聞いてわかったつもりでも、しばらくするとまた思い出せなくなります。書き出しておくのは、そのリスクへの対策です。

逆にクラスの大半が前提知識を欠いていたり、着想を持てずにいたりする場合は、問いの分割/焦点の置き直しなど、改めて問い掛けをやり直しましょう。

正解を教えてしまうことで、その場を通過することを優先すると、生徒から思考を鍛える場、不明を解消する方策を獲得する場面を奪ってしまうことになりかねません。 思考力を鍛えるのは、教える前が勝負 です。


❏ タスクを分割することで、観察とリカバーの機会を確保

このように、わかっていないことに気づいてあげられれば、違う角度から問い直したり、そこまでの学びで欠落しているものを補ったりすることもできますよね。

課題解決のプロセスを小さく分割してスモールステップで進めることの意味は、
  • 不明の発生を、遅れることなく気づける態勢を整える
  • 生徒自身が躓きから立ち上がり、不明を解消できるチャンスを作る
という2点にあるのだと思います。

これは、課題を与えるとき、問い掛けをするとき、さらには板書しながら説明をするときにも共通する、「教え方の鉄則」 のひとつだと思います。


❏ 用語集などの参照型副教材を徹底的に使い倒す

教師が与えた情報に一度触れるだけで、知識が積み上げられ、理解を作り上げられていくなら誰も苦労しません。

記銘を繰り返すことで、記憶は保持され、想起できるようになります。また、個々の知識の使い方を少しずつ拡張していくには、様々な文脈でその知識にアクセスする機会が必要です。

生徒一人ひとりで飲み込むスピードが違いますので、全体に幾度も「見せて聞かせる」 のでは上位生も退屈でしょう。

ここで頼りになるのが、用語集や参考書といった、参照型の副教材です。

常に参照できる情報源を一元的に整え、「そこを見ればなんとかなる」 という状況を作って、授業内で積極的に参照機会を作っていきましょう。

いつでも使える「知識の倉庫」 が、既習内容の習熟度の差や知識の有無から生じる問題を小さくしてくれます。


❏ 参照する機会を多く持てば、受験期を迎える準備にも

授業で使いながら、補足を書き込んだり、マークアップさせたりしていけば、受験準備期に入って、全体を覚えなおす場面でも、かなりの部分を「学習済み」の状態にしておくことができます。

初めて開く単語集を見て、1ページに20の単語があったとして、20語を丸ごと一から覚えなければならない状態では、なかなか先に進めません。

進みの遅さに徒労感が募って、やがてほっぽり出してしまいます。

これに対して、授業内で継続的に使っておけば、虫食いのように残った未習部分を効率的に埋めていくことができますし、既に目を通した部分も、授業で行ったことや解いた問題との連想から、想起しやすい状態にあるはずです。

授業中に参照箇所を開かせたら、教科書やノートにページや項目の番号を書き込ませておきましょう。あとで復習するときにも足りない情報を集めやすくなりますよね。


その5に続く

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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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