知識の拡充 vs 情報整理手法の獲得(その1)

知識の整理と拡充を図る場面でよく用いられている方法に、蛍光ペンでマークアップさせたり、サブノート式のプリントを用意したりといったものがあります。

限られた授業時間の中で、必要な知識をピックアップして漏らさず伝えていくには、一見したところ合理的で効率的なやり方にも見えますが、弊害も少なくなさそうです。


❏ 参考書や教科書にマーカーで色を塗らせるだけでは…

口頭で説明を行いながら、大切な箇所に到達するたびにマーカーで色を塗らせるという方法は、遠く昭和の時代から良く見かけるものです。

この方法が抱える最大の問題点は、マークアップした後、色をつけた部分にしか生徒の視線が向かなくなることです。

マークアップするときにも、対象となる文字列を見つけたら、生徒はその直前・直後にすら目線を走らせないのが普通です。

どれほど重要な意味をもつ語句も、文脈や体系から切り離されては、他との関連性のない「ただの丸暗記」の対象になってしまいます。


❏ お手軽&省エネが、記銘の効果を弱くする

別稿で書いた、"学習者が投じるエネルギー∽記憶に残る度合い" という関係に照らしてみれば、マークアップだけという手軽さが、記憶への記銘を弱いものにしているリスクにも思い当たるはずです。

マーカーを走らせるだけでは大したエネルギーを使っておらず、強い印象も残りません。

記銘を深く行おうと思えば、生徒も先生も、何度も繰り返して覚える反復方策(別名「根性方策」)に頼るしかなくなります。

それくらいなら、"教科書をきちんと読ませるでも書いた通り、該当箇所の音読を経て、先生からの問い掛けによって、ポイントとなるところをピックアップさせた方が、生徒はよほど頭とエネルギーを使います。


❏ マークアップは、重要度より情報のカテゴリーを基準に

大事なところを強調(ハイライトする)と言っても、それだけでは整理されない知識を詰め込んでいるだけです。

整理は、分類と構造化によってなされますので、まずはカテゴリー分けに習熟させましょう。

下のサンプルでは、黄色と緑のマーカーと、赤ペンでマークアップさせたものですが、筋肉の名称を黄色、機能的分類名を緑で、さらには仕組みとして理解すべき部分は赤ペンで波線を引かせています。

画像

自力でこんなマークアップができているなら、文章をしっかりと読み込んで、個々の情報の位置づけや相互の関連性を把握できているということ。しっかり褒めてあげたいところです。

そうでない生徒は、教員から一つひとつ指定してあげないと、色分けするわけでもなく、ただ紙面をカラフルにしていくだけです。

重要度がそれほど高くないものまで色をつけまくり、もはやどこがポイントかも判然としなくなっているケースだって少なくありません。


❏ 最初のうちは、板書でしっかりモデルを示す

情報をカテゴリーで分けるというのは、ある種の知的活動であり、その方法を学ぶ前から的確にできるものではありません。

最初のうちは、先生からしっかりモデルを見せ、どのような基準でカテゴリーを分けているか明確に伝える必要があります。

モデルを示し真似させるのは、学び方における守破離の入り口です。

前提として、先生ご自身が、板書を行うときの「色分け」や「記号の使い分け」に明確で一貫した基準を持っていないとこの指導はできません。併せて、こちらの記事もご参照ください。


❏ 情報を分類する視点とスキルの涵養は指導目標の一つ

カテゴリー分けに生徒が習熟してきたら、少しずつ生徒自身に判断させる場を作りましょう。

いつまでたっても先生がガイドしていては、生徒は自分でできるようにもならず、自力でできることの必要性も認識しません。

判断の根拠を尋ねて、その答えを言葉にさせることを繰り返すうちに、生徒は明確な基準を自分の中に持つようになります。

そうなれば、どこを、どうマークアップするか、口頭でいちいち説明・指示する必要はなくなり、貴重な授業時間のより多くを、課題解決や対話的な学びに投じる余裕も生まれるのではないでしょうか。


その2に続く
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一


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