負荷の高め方(その3)

適正な負荷をしっかりとかけ続けるることは、生徒の学力を最大限に伸ばす上で欠かせませんし、乗り越えるのがそうそう容易でないハードルに挑む中でこそ、生徒の側での学び方への工夫も生まれ、結果的に学習方策の獲得も進みます。

中長期の指導に亘って適正な負荷を維持するには、生徒が感じる課題の難度や得意/苦手の意識の変化などを常に把握しておく必要があることは申し上げるまでもありませんが、生徒に合わせるだけでは、より高い次元に向かわせるチャンスを逸するリスクもあります。

アンケートなども利用しながら、生徒の認識の変化を継続的に観察してこまめに負荷を調整することに加えて、苦手意識に繋がる要素を断ち切る「予防策」も並行して講じていきましょう。

2015/02/19 公開の記事をアップデートしました。

❏ 負荷を上げる前に、学習方策の確立を

単元が進み、学習内容が高度化すれば、課題の難易度は自ずと高まりますので、それをクリアするのに必要な学習方策を、それまでの指導を通じて予め身につけさせておくべきであるのは言うまでもありません。

中高での各教科の学習に限ったことではありませんが、指導を計画する上では「次に進んだときの学習をイメージ」しておくことが重要です。

知識・技能などの「結果学力」だけではなく「学び方」にも、3年間/6年間を見渡して段階的に身につけさせていく計画性が求められます。
何ができるようにして次の段階に進ませるか、どう手放していくか(学び方における守破離)は、指導者が常に意識しておくべきことです。

生徒にも、半年後、1年後の学びの姿を伝えて、それまでに何が出来るようになっている必要があるのかを認識させておきましょう。先を見通して学びのスタイルを作ることに意識を向けさせないと、生徒の側での自覚を持った取り組みは期待できません。

前の校種/学年では丁寧に教えてもらえ、そのガイドに沿ってついていくだけで良かったのに、進学/進級したら急に自立的な学習者であることを求められるようになったら、生徒も戸惑うばかりです。


❏ 参照型副教材を徹底的に使わせる

授業評価アンケートのデータを見ていると、「先生の説明のわかりやすさ」と「授業を通して得る学力向上感」の相関が過度に強固なケースが見受けられます。

わからなければ出来るようにならないのは半ば当然ですが、先生の説明がわからないときに、何の手立ても打てずに「わからない、(当然のごとく)出来るようにならない」という状態に甘んじるのでは、あまりにも学習者としての自立に程遠いのではないでしょうか。

わからないことがあったら、手元にある教科書や副教材をサッと開いて自分で調べ、不明を解消するという状態にはいて欲しいところです。

とはいえ、「わからないことがあったらこれで調べればいいんだよ」と言って聞かせるだけで生徒の行動バターンが変わることはありません。

日々の授業の中で、教えていないこと/忘れている生徒が多いことは、先生が説明をしてしまう前に、副教材を開かせ、そこに何が書いてあるか生徒自身の言葉で説明させることを繰り返しましょう。

こうした行動の反復の中で、理解を形成する上で必要でありながら現時点で不足している知識を自力で獲得する方法に習熟させ、その姿勢を養っていくことは、「負荷の上昇に備えた準備」の中でも特に重要なことの一つではないでしょうか。


❏ リカバー可能な小さな失敗で耐性を身につけさせる

何かの課題に取り組んで解決できなかった、挑戦したけどできなかったという失敗の経験を重ねるだけでは、その科目を学ぶことに対する自己効力感を失い、苦手意識を膨らませて行きがちです。

かといって、失敗させないことに指導者が気を回し過ぎると、生徒は失敗から立ち上がる方法を学ぶ場を奪われていることになります。

先生方の目が届くところで失敗をさせて、生徒に自力でリカバーする経験を積ませていくことも重要です。

一度や二度のトライでうまくできなかったことも、冷静に振り返り作戦を立てて臨めばなんとなることがあるということを学習させることは、
失敗への耐性(=苦手意識との折り合いのつけ方)を高めます。

どうしてできなかったか、どうすれば上手く行くか考える練習は、生徒を学習者としての自立に向かわせるはずですし、失敗を肯定的に捉えられるようになれば、チャレンジする心も育ってきます。

必ずしも「失敗=否定的なもの」「できなかったこと=悪いこと」ではなく、失敗からしか学べないものもあります。失敗させないことではなく、失敗した結果を放置しないことにこそ意識を向けるべきです。


❏ 成果のたな卸しと次に向けた課題形成

学習内容が高度化したり、難易度などの負荷が高まると、それまでと違って学びが上手く行かないことが増え、生徒の気持ちが諦める方向に向かってしまうこともありますが、その対策として欠かせないのが、振り返りにより「成果のたな卸し」と「次の機会でのより良いパフォーマンスに向けた課題形成」です。

ある課題にチャレンジして仮に正解/完成にたどり着けなかかったとしても、部分的にはできていた箇所もあれば、ちょっと攻め方を変えれば攻略できたこともあるはずです。

この状態から何もせずに、「失敗した」「できなかった」で意識を固定してしまっては何にもなりません。ある課題に挑んで完遂できなかったときこそ、学習者としての成長のチャンスです。

課題に歯が立たなかったと全否定してしまうのと、解決までの道順を分解的に捉える中で「ここまではできていた。ここで躓いたのはこれを見落としたからだ。ここでアプローチを間違えたのか。」と客観的に状況を把握して展望を立て直すのとでは大違いです。

最初のトライで返り討ちにあった課題も、打つべき手さえ見つけられれば「できれば避けたい対象」から「挑戦してみたい対象」に転じます。

教育現場ではポートフォリオの導入が進み始めましたが、形だけにならないようにしたいものです。成果のたな卸しと課題形成という2つの要素をきちんと満たした振り返りは、学習者としての成長を促すとともに大きな負荷にもあきらめない姿勢を持たせることに繋がります。

 ■ 振り返りを経てこそ次への課題形成
 ■ 言語化を通じて育む「振り返りのための相対化スキル」
 ■ 模試の結果を正しく振り返る(学習行動の改善)



追記: 様々な場面で必要になる「汎用的な学習方策」の獲得は、ある教科・科目に閉じて行うより、学年団と学年教科がスクラムを組んで、時期ごとにテーマを決めて教科横断的に学年共通指導として推進する方が効果的であることが少なくありません。

ある科目の学習で生徒が身につけた技術や考え方は、他教科の学習でも生きるでしょうし、ノートにメモを取ることや教え合い・学び合いといった習慣や姿勢は、様々な場面で複合的に育む方が効率に勝ります。また、模擬試験などをターゲットに自分の課題に応じた学びの計画作りやその結果を踏まえた次に向けた作戦立てなどは、複数の教科で足並みを揃えた方が偏りない指導が行えますし、その効果も大きいはずです。


教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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