学習目標が伝わらない?(その1)

授業に臨むに当たり毎時間の目標をちゃんと伝えているつもりなのに、あるいはシラバスを通じて示しているつもりなのに、生徒や学生にアンケート調査をしてみると、目標提示の項目で思いもよらぬ低評価…。こんな経験をなさっている先生方も少なくないようです。

目標を伝えていないのではなく、生徒/学生の側でそれを受け止められるだけの前提が揃っていない可能性も疑ってみる必要があるのではないでしょうか。

本稿は、「学習目標の示し方」の続編として起しました。お時間が許すときに本編の方もご高覧いただければ光栄です。


❏ 学習目標提示における鉄則

生徒/学生に対して、学習機会ごとに明確な目標提示を行うことの重要性は当ブログでも繰り返しお伝えしてきました。

効果は、実に様々です。不足する情報を学ぶ側で補完できること、達成感が強くなること、苦手意識を抑制できること。まさにより良い授業に向けた万能薬と言えます。

しかしながら、単元名を書き出すだけではそんな効果は望めません。目標提示には、書き出し方を含めて、次のような 「鉄則」があります。
これらが確実に行われていることが、「先生は学習目標をしっかり示してくれる」というアンケートの質問文にYESを返してもらうための前提条件です。

生徒は解くべき課題を通じてしか学習目標を認識できませんし、学び終えてから目標を伝えられても「目標に照らした理解の補完」は働かなくなります。また、仕上げて達成できたことを確認しないことには、次に向けての課題形成もできませんよね。


❏ 学び終えるまでイメージできないこと

目標提示は、学びの冒頭で行わなければ、生徒/学生側での情報補完を容易にする効果は得られません。

しかしながら、その目標にこれから近づこうとしている(=これから学ぼうとしている)生徒/学生にとっては、しっかりとイメージできる場面ばかりではありません。

教える側は、科目全体をすでに十分に学んでいて関連分野を含めた全体を見渡しているのに対し、学ぶ側はその世界を入口から覗こうとしている段階。見えている世界がまったく違います。

これを踏まえておくことが、「これだけ目標を示しているのに何で?」 という迷路から抜け出すための鍵です。

教える側とこれから学ぼうとする側とで、「認知の網」 の張り方が違っていることを前提にして、目標提示法を考えていきましょう。

人の脳は、理解できること(=これまでの学習や経験のなかで知っていること)にしか反応しません。目の前にあること、耳に入ってくることを、過去の記憶や知識などのデータベースに照合して、その意味を解釈し、情報をフィルタリングしてしまいます。


❏ 教える側とこれから学ぶ生徒の認識にはギャップがある

学びを通して目指していることを生徒に伝えようとするとき、こんな言い方をすることが多いのではないでしょうか。
  • この単元を学ぶと、こんなことが英語で言えるようになる。
  • ○○大学では、これから勉強することをこんな形で出題していた。
これだけで、生徒/学生の側で、教える側が意図するものと同じイメージを持てるようなら、ややこしい策を講じる必要はありません。シンプル且つ短時間に済ませ、さっさと内容に入りましょう。

しかしながら、そう簡単にはことが進まないことが多々あります。

教えようとしていることは、そのいずれもが社会が取り組む様々な課題を解決しようという先人たちの「動機」から行われた研究の成果が知見として現代に残されてきたものでしょう。

その動機の元となった「先人たちが解決に取り組んだ課題」を、教える側は知っていたとしても、生徒がそれらを知っている可能性は高くありません。両者の間にとてつもなく大きな認識のギャップがあります。


❏ 準備学習を通して、認識のギャップを埋めておく

このギャップを埋めないままに、結果として残っている「知見」 の部分だけ教えようとしても、空回りするのは当たり前かもしれません。

元となった課題をイメージさせるための資料(図版や文章)を見せて、まずは生徒一人ひとりに考えさせた上で、生徒/学生どうしのミニ討論を行わせるのも有効です。

資料を読む部分は、前の授業で指示しておき、宿題や予習という位置づけにしても良いのではないでしょうか。

次の時間にはそれを読んだことを前提にした討論がある、となれば予習も怠りにくいものになります。

グループのメンバーにそれぞれ違う資料を渡して、パートを割り当てておくようなやり方を採れば、意欲の低い生徒/学生でもサボりにくいはずです。


その2に続く

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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