考査問題の妥当性評価

考査問題で何を測るかは、授業で何を教えるかと「ほぼ同義」 です。教える側には、意識しているか否かに拘らず、「学力観」「教科観」 が頭の中にあり、それが一方でテスト問題に、他方で授業実践にも現れます。

出どころが同じだけに、それが表出した両者が互いに近いものになるのは当然です。考査問題を拝見すると、作成された先生がどんな授業をするかおよその見当がつくことも少なくありません。

さて、そのテスト問題。きちんと「知識・技能」 を測定しているでしょうか。また、今後比重が高まる「思考力・判断力・表現力」 を正しく点数に置き換える機能を備えているでしょうか。

もし、テストに何らかの“ゆがみ”があるなら、授業そのものも改めるべき部分を抱えているはずです。


❏ ゆがみを作っている原因~測定する学力の違い

次稿(その2)で紹介するような形で、生徒ごとに、
  • 考査での成績や評定(=教室でのパフォーマンス)と
  • 模試の成績や外部検定やセンター試験等の得点(教室外で示した学力)
との相関をとってみると、相関係数が著しく低いことが少なくありません。

散布図上の近似線から大きく離れるところに分布が多い(=相関が低い)ということは、考査が図る学力=教室で求めている学びと、模試や外部検定で求められている学力とが一致していないということです。

教えたことをきちんと覚えて答案上に再現できることと、教えたことを使って新たな課題を解決することとは似て非なるもの。考査が前者に偏り、後者を十分に測定できていなければ、後者が欠落した分だけ相関が低くなります。


❏ 配点の不備も、学力を点数に変換する機能をゆがめる

個々の知識の有無で1点、複数の知識を組み合わせる問題も1点、題意の把握や使う知識の選択に周辺知識も動員したり、書き上げた答えを吟味したりといった工程を踏んでもやっと2点、…こんな考査も少なくありません。

要求された知識ひとつ当たりの配点を考えると、最初のタイプは1点、次のは1/2とか1/3でしょうか、最後のタイプなら(配点)/(動員する全知識)なので2/7だったり、3/17だったり…。国政選挙だったら違憲判決が出そうです。

教科書を教えるという意識が前面に出過ぎると、「教えたことはすべて出題し、網羅的に点検する」 という作問になりがちですが、それが如上の問題を生み出している根底ではないでしょうか。

生徒が所持している知識は、その領域内で一定以上のサンプリングをするだけで、全体の定着率も実効ある精度で推定できます。


❏ テストに合わせた勉強を重ねる中で、学びのスタイルが決まる

生徒は、テスト問題に合わせて学習します。前回までの考査を受験した体験から、「こうやって勉強すれば良い」 という戦術を考えだし、それを繰り返すうちにいつしか学習のスタイルとして固定します。

もし、如上のようにテストで測定している事柄が「知識・技能」 に偏り、「思考・判断・表現の力」 があまり求められない状態が続くとしたら、3年間の学びそのものが、方向違いになるリスクをはらみます。好ましいこととは思えません。

高大接続改革を持ち出すまでもなく、思考・判断・表現の力はこれからますます重要になります。生徒が自分の学びのスタイルを作っていく上でのモデルとしての機能を持つ定期考査問題も、新しい学力観を反映したものであるべきです。


❏ 知識・技能を測る機能に欠けそうな別の一例

これに限らず、「この出題で本当に良いの?」 と疑問を感じる出題には、様々な場面で出くわします。

夏休みにサイドリーダーを読ませ、その履行状況を確かめるために行った課題テストで、「次のセリフを言ったのは誰か、次の中から選びなさい」 という問いがありましたが、一体、どんな学力を測定しているのでしょうか。

英文をまったく読んでいなかったとしても、あらすじを知っていれば大方は正解できそうです。サイドリーダーを通じて得た知識や技能はおろか、読んだかどうかの履行確認にも隙だらけです。

こうした出題が行われている背景には、サイドリーダーを読ませることで、どんな知識や技能を身につけさせようとしているか意図が曖昧であったことも疑われます。

英文を読ませること(指示をきちんと守らせること?)ではなく、それを通じて何を身につけさせるかに意識を向ければ、違った点検方法になると思います。

それくらいなら、課題研究などで興味を持ったテーマの英文を自分で探させ、要約させるほうが、はるかにましという気がします。


❏ テストの妥当性とは、ゴールとの距離を測る機能

どんなテストが好ましいのかは、出口で保証しようとする学力像によって異なります。

資格試験取得のために一定の知識を確保することが重視される場面と、高大接続答申が謳う学力の三要素をバランスよく調えることが求められる場面とでは、望ましいテストのあり方も違って当然。

評価は育成のために行うものであり、ゴールにどれだけ接近したかを正確に測るのがテストの役割です。ゴールの場所が異なれば、テストのあるべき姿も変わるということです。

別稿でお伝えしたように、年度内に実施された定期考査問題をずらりと並べて点検することを通じて、3年間/6年間を通じて、学力形成の中間検証が継続的に正しく行われているか確かめておきたいものです。


❏ テスト問題の改善を通じて、授業観の更新と共有を図る

授業は、時間の経過とともにどんどん進行します。立ち止まったり、その場面を切り取って、改善のための協議を行ったりするのは容易ではありません。

(ビデオに撮っておき、あとで大盤解説的に協議を行うことは可能であり、改善効果も確認できていますが…)

その代わりに用いることができる材料が、教える側の頭の中に存在する「学力観」「教科観」という授業を作るときの発想(授業観)と根っこを同じくするテスト。

考査問題を題材に、どのような学力を、どのようにして測るかを検討・協議することは、あるべき授業像を考えることにほかなりません。

テスト問題の改善を図り、そこでのゆがみを取れば、それが授業のあり方、指導主眼の置き方も変えます。

考査問題の妥当性を高める協働(作問や改善協議)を通して、授業観のブラッシュアップと共有が図れるということです。相互参観や研究授業ももちろん大切ですが、紙の上での共同研究にも力と時間をかけていきましょう。

その2に続く


教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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