考査問題の妥当性評価(その2)

教える側の頭の中にある教科観・学習観は、授業のあり方にも、考査問題にも表れます。考査問題を眼前に広げて客体化した上で、何を測るべきか(=何を教えるべきか)を検討し、最適化していくことは、教科観・学力観の更新に繫がり、授業改善に直結します。

知識・技能や思考・判断・表現力を測定するはずの考査という物差しがもし歪んでいたら、生徒一人ひとりの学力形成上の課題を特定するにも、今後の指導を計画するにも、判断を誤る可能性があるということです。


❏ 出口で求められている学力を考査がきちんと測っているか

学力の三要素のうち、テストでカバーできるのは「知識・技能」 と「思考・判断・表現」 ですね。

主体性・協働性・多様性の測定は、ルーブリックのような形で行動評価基準を設ける必要がありますし、、学習を通じた生徒の意識の変化や自己認識についてはアンケートなどの手法を用いて把握することになります。

知識と技能についても、活用を想定しない「丸暗記」 で済むような形で有無を試しているばかりでは、大学入試などの出口で求められるものと似て非なるものを測定していることになります。

横幅を測らなければならないときに奥行きを測って、長い短いを評価しても仕方ありません。(譬えとしてちょっと極端ですが…。)


❏ まずは、考査と模試の相関をとって確かめてみる

求められる学力を正しく測っているかどうかを確認するには、様々なやり方がありますが、最も簡便なのは考査得点と模試成績などの外部指標との相関をとることです。

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上のグラフは、横軸に校内作成実力テストでの得点、縦軸にセンター試験の自己採点結果をおいて作成した散布図です。

Microsoft Excel を使い、表の1列目に前者のデータ、2列目に後者のデータを配置しておけば、「散布図」 を選んでグラフを挿入するだけでOK。

相関係数はcorrel関数を用いて計算できますし、右クリックで近似線も描けます。統計ツールを入手すれば、無相関の検定も簡単です。


❏ 相関を下げているのは「主眼のズレ」と「ノイズの介在」

上のグラフで使ったデータの相関係数は0.7を超えており、かなり正確に出口学力を予想できる考査であったと言えます。一般的にはもっと低いことが多く、ときには無相関の検定ではじかれるケースもあります。

次の項でふれる「ノイズ」 が介在して相関を下げていることもあれば、測っているもの自体が違うことが低相関(ときに無相関)の原因となっているケースがあります。

両者の切り分けをしないと改善策は特定できません。データを出しても解釈しないことには始まりません。

相関をとるのは、改善を図るべき「悪問」 の候補を見つけるためです。相関をとっただけでより良い出題につながるわけではありませんよね。


❏ 点検を行う頻度は、改善協議の余力と相談しながら

考査と模試の相関を作業はそれほどヘビーではないとは言え、一定の手間はかかります。相関をとっても原因の特定や改善策の検討・協議が行えないなら、その手間は無駄になってしまいます。

でも、確かめてみないことには、考査の妥当性を維持・向上させるきっかけを失います。ジレンマですね。

どのくらいの頻度で相関係数のチェックを行うか、「判断」 が必要です。

総合点ではそれなりの相関が出ていても、大問ごとにみると高相関と無相関が混在しています。怪しいと気になった問題が見つかったときに、確かめてみるというのも良い判断かもしれません。


❏ 知識・理解⇔点数の変換を邪魔しているもの

知識や理解、技能を点数に変換するのを邪魔する要素を「ノイズ」と呼んでいます。ノイズを除去・抑制するための手順というのもあります。

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通常の手順では、青い点線を辿っていることが多いのではないでしょうか。

オレンジ色の線に沿って幾度も立ち戻りながら進めていくことで、生徒がその時点で持っている学力を、正確に得点に換算できる問題作りが図れます。


❏ 考査の妥当性を高める取組は、先生方の協働で

ここで紹介しているのは、生徒の学力を形成し、授業の改善を図るための評価指標として信頼に足るものを手に入れることを目指したものです。

繰り返しになりますが、学力を測る物差しを正しいものに交換し、指導の主眼をどこに置くかを最適化することが、出口学力の形成には欠かせません。

個人で行うこともできますが、チームとして先生方の協働で行うのが好適であり、必要なことだと思います。

ひとりでは思いつかない改善策も、多くの方の発想と経験を交換することにより、見いだされ、作りだされていくからです。


教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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