進路を意識させるタイミング

今年もいくつかの大学で、卒業生を対象とするアンケートのデータを扱う機会に恵まれました。その中で気になったことが二つあります。一つは、進路を意識し始めた時期と「決定先進路」 及び「自身の就職活動」 との間に見られた相関。もう一つは、意識の芽生えと対策などの行動が始まった時期とのずれです。


❏ 就職環境の改善が満足度の向上に

新卒内定率の上昇など、就活の環境も良くなったせいか、今春、大学を卒業していく学生の満足度は、決定先進路に対しても、自分自身の就職活動に対しても昨年度を上回る良好な値を示しています。

希望を叶えることができた学生が、結果やプロセスを好意的に評価した(結果オーライ?)ことも想像され、数値上昇の一因となった可能性もありそうです。

その職場があっているかどうか、選んだ働き方が自分の価値観を満たしてくれるかは、実際に働き出してみないとわかりません。

今後、追跡調査をお手伝いする場面では、卒業生の意識がどのように変化していくか、在学中のデータとも照らして注意深く見守っていきたいと思います。


❏ 意識の高まりには「好適期」がある

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上のグラフは、「進路を意識し始めた時期」 横軸において、決定先進路、および自身の就職活動に対する満足度を尋ねる質問で「非常に満足」 と答えた学生の割合の変化を探ったものです。

決定先進路への満足度が、自身の就職活動そのものに対するよりも高い値を示す傾向は、他大学でも例外なく見られる傾向であり、2本のグラフのずれは「典型的」 なものと言えます。
cf. http://blog.kyouikujissen-ofcf.jp/201406/article_15.html

それより注目していただきたいのは、入学前や1年生のときといった、ごく早い時期から進路を意識していた学生が、必ずしも結果にもプロセスにも高い満足度を示していないことです。

考えられる理由には、
  • 早くからゴールを決め込んだことが、視野を広め内省を深める機会を損ねた

  • 進路への意識が高まっても、探索や希望実現のための行動が伴わなかった
など、様々なものがありそうです。


❏ それまでのキャリア観は一度リセットして

高校までの進路指導/キャリア教育では、将来の働き方や職業を想定させて、そこに至るルートを研究させるというアプローチを採ることが少なくありません。

しかしながら、先に進まなければ見えない世界があります。

大学での学びや経験を経て、はじめて存在に気づく世界の方がはるかに広いのに、高校のときに抱いた夢に乗っかっているだけでは、自らのキャリアの8割を決めると言われる「偶然」 との出会いをみすみす逃すことにならないでしょうか。

どんなにしっかり取り組んだとしても、高校の3年間、あるいは中高一貫校での6年を掛けて作ったに過ぎない「将来のストーリー」 は、より多くを学び/経験したあとの4年間で上書きされていくのが当然だと思います。

「定年まで勤めたい」と意識調査で応える新卒社会人もいますが、中学から大学までのたかが10年間で考えたことに縛られる必要はありませんし、その後に続く、10年、20年という長いスパンを経て、次々と夢の形が変わっていく方がよほど自然な気がします。

高校を卒業するまでに考えていたことは、とりあえず引き出しにでもしまっておいて、あらたに探索を始めた方が、世界はぐんと広く見てくるはずです。

クランボルツの計画的偶発性理論を引き出すまでもなく、一見、余計に思えることに対しても積極的に手を出していくことが大切ではないでしょうか。自分がどんな人間であるか(いわゆる自己理解)は、何かに取り組んだときに、自分がどう反応するかを見て初めてできるものです。


その2に続く

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一



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