参照型教材を徹底して使い倒す(その1)

例えば古典の授業では、まとまりのある文章を題材にした読解指導に入る前に、文法をひと通り勉強させるという手順を採ることがあります。ある程度の体系的な理解を作ってからでないと読解に入ってからも躓きが多くてスムーズに進めないという事情からの選択でしょう。

英語でも、主教材と切り離して単語集や例文集を個々に覚えさせていくのは「普通」ですし、概説書をひと通り学び終えてから演習に入るのは大学の授業や資格試験などの勉強などでもよくあるパターンです。

でも、この方法が本当に成果をあげているのか、リスク以上の効果が本当に期待できるのか、いちど立ち止まってじっくりと振り返り、考え直してみる必要もありそうです。


❏ 課題解決に活用する場面を持たないと

文法学習を先行させるケースでは、学習目標を正しく認識するための「解くべき課題」もなく、また作品の面白さによる支えもないまま、生徒は教わったことを覚えるのにエネルギーの大半を投じます。

また、次から次へと新しいことに学習が移っていく中、前に覚えた事柄の記憶が新しく学んだものに上書きされたり混ざったりします。

せっかく獲得した知識も、課題解決に活用する場面なしでは、それを理解しておくことが後になってどう役立つのか実感できせんよね。

解くべき課題があるからこそ、そこで用いる知識の必要性もわかりますし、使い方を含めたその項目の深い理解も形成できます。

単発の知識は記憶を繋ぎとめるアンカーを持たないだけに覚えた端から忘れていきますので、学びが積み上がる実感にも乏しいはずです。


❏ 覚えることが自己目的化するとつらいばかり

この段階の生徒は、先生が進める授業を信頼する以外に学ぶ意義を持てません。これで面白味を感じろ、というのも無理な注文です。

面白味もないところで覚える負担ばかり増えて、しかもなかなか覚えられないときたら、生徒の中でつらさだけが膨らんでいくのも道理です。

勉強が先に進めば、興味を持てる場があったとしても、その前の段階で科目に対してネガティブな印象が固まれば、学びから遠ざかろうという負のモチベーションが生まれてしまいます。

序盤での指導が、その意図に反して学びへの意欲を損ねていないか、改めてリスク評価をしてみるべきです。


❏ "反復"はほかに手段がないときの手段

使ってみる機会がない知識は、意味の拡張(=こういう使い方もできるんだ、こんなところでも役立つんだという認識を広げること)が図られないため、どうしても断片的なものになりがちです。

その結果、記憶を定着させるためには、「反復」(別名「根性方策」)に頼ることが多くなります。

どんな場面で役に立つのかもわからない状態で、言われるがままに覚える――それって楽しいですか?

勉強を好きにさせる学ばせ方にも書きましたが、「何がわかっていないか確かめながら勉強する」 ことが重要ですが、反復はこの要素を欠き、「覚えたかどうか」だけに終始しがちです。


❏ 教室で行使できる強制力は切り札~できるだけ使わない

この状態では、小テストや再テストといった何らかの強制力に頼らなければ、学習を継続させることは難しいはずです。

結果として、生徒の側では「やらされている」 という感覚(=やらされ感)ばかりが強調されるのも、無理からぬものを感じます。

強制してでもやらせなければならない場面があるのは承知しています。でも、切り札は、最後まで手の内に残しておいてこそのもの。

ほかに方法があるときに使ってしまっては、ここぞというときカードが手札に残っていないという事態が待っています。


❏ 実際の文脈においてこそ、知識の使い分けも理解できる

課題解決と切り離された体系的・網羅的な学習には、項目があらかじめ意図的に配列されていることに起因するもうひとつ見落としがちな罠があります。

実際の文章を読みながら学んでいく場合、あるいは課題に解を導こうとする場合、目に見えるものを着眼点に問題文を観察し、どの知識を利用する場面かを判別する必要があります。

これに対して、文法などを項目順に学ぶだけの場合、この工程がまるごと省かれてしまいますよね。

あらかじめ体系化された教材で、ひとつひとつを順番に進めているだけでは、できない学びがあるということです。


❏ ひとつの機会で複合的に学ぶことが効率化に

どの知識を用いるか判断の方法を学ぶ機会は、後で演習を重ねるときに用意しているから問題ない、との反論もあろうかと思います。

しかしながら、理解していない知識を無理に覚えても記憶には残りにくいもの。演習期に入ってももう一度覚えるところに立ち戻るケースが増えるばかりだとしたら、効率的なカリキュラムとは言えません。

ちゃんと覚えた生徒とそうでない生徒の学力差だけが拡大しているかもしれませんよね。

学習内容は減らず、思考力・判断力・表現力、主体性・協働性・多様性を身につけていくには、カリキュラムの効率化が欠かせません。

主教材を進めながら知識の体系化と拡充を図る。そのためには参照型教材を日々の授業の中で使い倒すという戦略が最も有力だと考えますが、いかがでしょうか。


その2に続く
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一


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