参照型教材を徹底して使い倒す(その4)

学習はその場で完結するものではありません。次のステップに進むための準備(レディネス)を整えることもまた重要な指導目標です。

知識・技能がその先の内容を理解するための前提になることはもちろんですが、ある単元を学ぶことで身につけた学び方もまた、次の単元を学んでいくときの重要な土台です。

不明点があるとき、先生が教えてくれるのを待つのではなく、参照型教材を使って自力で不明を解消したり、興味を起点にそれまで知らなかったことを知る姿勢と方法を獲得した生徒はスムーズに学びを進めます。

教科固有の知識・技能を学ぶ中で身につけていくべき事柄のひとつは、参照型教材を徹底的に使い倒すことで得られるものだとお考え下さい。


❏ 導入期ならではの学習者の特性を踏まえる

指導期間を、導入期、拡張期、仕上げ期に分けてみると、時期によって学習者の置かれた状態やその特性が異なることは容易に想像できると思います。

導入期において、どんな科目・単元にも共通するのは、「生徒は多少の前提理解は持っていたとしても、周辺も含めた体系的な知識を所持していない」ということです。

新たに学んだことをひとつひとつ積み重ねていくしかなく、関連づける先の知識・理解が乏しいままま、断片的な知識を獲得していかざるを得ません。

記銘のアンカー/想起のトリガーを持たないことで、覚えるときの負担も他の時期に比べてかなり大きくなりがちです。


❏ 活用機会と切り離した勉強が問題に拍車をかける

これに加えて、活用の場面と切り離して、知識の獲得だけを求めることが問題に拍車を掛けます。

意味の拡張(※)を伴わず、学ぶことの意義も見いだせないところに、覚えることだけを強いられたら、その科目・単元の面白味を見出す前に、嫌になってしまうのではないでしょうか。

意味の拡張個々の知識について、ある側面だけの限定的な理解に止まる初期の状態から進んで、「こういう使い方もできるんだ」、「こんなところでも役立つんだ」、「ここに繋がっていくのか」と、多面的にその意味を捉えられるようになること。

深く学んでいないだけに、理解をもとに記憶の再構築を図ることも難しそうです。再記銘の機会は演習期を待たなければならないという状態でそれまで記憶が保持できたとしたら、それはそれでミラクルです。


❏ 次のステージの前に「負のモチベーション」を作らない

次の段階に進む前に、「苦手」「嫌い」という意識を持たせないことも大切です。

対象から遠ざかろうという負のモチベーションを作ってしまえば、その対処に多大な負担が生じ、それを引き受けるのは先生ご自身です。

教える側がよく使う、「先に進めば、今やっていることの大切さがわかる」といのは、学びをひと通り終えた人の論理であり、これから学ぶ生徒にとってはピンと来るものではありません。

先生がこれだけ力説する以上、きっとなにか大事なことなのだろうと推測するのが精一杯――信頼関係だけに頼った学びの維持というところでしょうか。

面白くなる前に苦手を作ってしまったら、後でどんな学びを用意していたとしても、生徒がその機会を積極的に活用してくれる見込みは薄くなりそうです。


❏ 小テストの繰り返しより、じっくり課題に取り組む時間

ここまでお読みいただければ、単語集を1冊買わせてページの順番通りに小テストを重ねて覚えさせるというやり方には大きなリスクがあることは容易に想像がつくと思います。

知識の断片化、覚えにくさ・忘れやすさというマイナス要因を、根性だけでどうにかしようとするのは合理的ではありません。

そもそも、小テストの実施やそれに向けた勉強は、それ自体が授業時間や家庭学習という貴重な教育リソースを消費します。

学ばせ方の転換で、家庭学習の充実が求められることを考えると、そのリソースは、授業で学んだことを元にじっくり課題に取り組むことに投じるべきではないでしょうか。


❏ 段階を踏んでいけば、直前期の仕上げもスムーズに

演習(拡張)期、受験(仕上げ)期を迎えた時点で、既に覚えていることが多ければ、確かに予習の負担も軽くなり、効率よく学びを進められると思います。

しかしながら、「覚えさせたこと」が「覚えていること」とイコールではない以上、予めできるだけ多く覚えさせておくという戦略がうまく行くとは思えません。

意味の拡張、活用の機会を重ねて深い理解を形成しながら、主教材を進める中で重要度に応じた頻度での反復を経験していくのが、自然な形であり、かつ効率的ではないでしょうか。

繰り返しになりますが、入学から受験期を迎えるまで参照型教材として使い倒してきたら、仕上げ期に入って残っている未習箇所はそれほど多くないはずです。

その5に続く
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一


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