参照型教材を徹底して使い倒す(その5)

演習(拡張)期、受験(仕上げ)期を待たずに、導入期のうちに基本事項を網羅的に学ばせることには、前稿までの考察の通り、あまり大きなメリットはなさそうです。

必要な知識を最初に仕込み切ってしまうという戦略には、「教えられたこと」と「覚えたこと」のギャップを拡大し、生徒にゴールを遠くに感じさせてしまうリスクの方が大きいのではないでしょうか。


❏ やり残しが増えるとやる気がなくなる

もう少し頑張れば終わる/何とかなると思える状態ならば、「もうひと頑張りしてみよう」という気持ちにもなりますが、いくら頑張ってもゴールが近づいてくる気がしないのでは、やる気も維持できません。

導入期に必要な知識を整えさせるという戦略では、与えた量(=要求量)と生徒がこなせた量(覚えられた量/達成量)のギャップが急激に拡大し、演習期を迎えるときに最大化します。

絵にしてみると、このようなイメージでしょうか。

画像


❏ 導入期指導が演習期のレディネスを作れないのでは…

上の図では、演習期に入った瞬間に要求量と達成量の差は最大となっています。ここで何が起きているかというと…
  • 生徒の多くは、つらさが先行して半ばあきらめモード
  • 先生は前提知識を生徒が備えていないことに右往左往…
という事態が想定されます。これでは何のために苦労して知識を詰め込んだかわかりませんよね。

与えられながらこなせていないものが膨らんで、一定の水準を超えたときに生じるのは「展望の喪失」であり、モチベーションの低下です。

参照型教材を、徹底して使い倒していないうちに覚えることに使わせては、その科目の学びそのものが「酸っぱい葡萄」になりかねません。

教える側はそのリスクをしっかりと認識しておくべきだと思います。


❏ 知識量の増加を後半で加速させる

生徒は、覚えることを通して「覚え方」も身につけていきます。

既に学んだ関連事項が記銘のアンカー/想起のトリガーになりますから、学びが進んでからの方が効率よく覚えられます。

また、課題解決を通して理解の軸をしっかり作れば、それが幹や大枝になって、個々の知識という枝葉をつけるのは容易になるはずです。

諦めさせずに学び続ける姿勢を維持さえすれば単位時間で覚えられる量は自ずと増えてくることを踏まえれば、導入期に覚えることに過度なエネルギーを使わせることが最善策ではないとい結論になるはずです。

再び上図ですが、達成量カーブの後半における傾斜を大きくするには、
  • モチベーションを失わせないよう達成感を与え続ける
  • 課題解決を通して、理解の軸をしっかり作っておく
という二大要件をしっかり充足するような導入期指導が必要です。


❏ 先取り学習でも同じ問題が起こりえる

同じ問題は、数学や英語で見られる「先取り学習」でも起こります。

単元を速く進めて、短い期間に一通りの勉強を済ませることが、要求量と達成量のギャップを拡大するのは容易に想像できるはずです。

また、速く進むことで、枝葉を繋ぎとめるべき幹や大枝に相当する理解の軸を不確かなものになるリスクも抱えます。

生徒の資質や能力によって、早く進む余裕があるなら、ときにはぐっと立ち止まって、理解を掘り下げ深く思考させることに時間を費やしても良いのではないでしょうか。

出題研究で見つけた良問に挑ませたり、別アプローチでの解法を考えさせたり、やるべきこと/やらせてみたいことは山ほどあるはずです。


❏ 学び直しを通して、参照型教材をより深く使う

関連する既習単元に立ち戻った学び直し/学びの重ね塗りに、浮いた時間を使うことも検討しましょう。

既習内容を学び直そうとするとき、先生が改めて教え直したところで、生徒は退屈するばかりです。

適当な課題や問いを与えて、生徒自身が教科書やノート、参照型教材に当たりながら、自力で解を導く場面を作れば十分です。

わからないことがあれば、それこそ参照型教材の該当ページを開けば良い話です。

使い倒すほど頻繁に参照させることで、参照型教材の使い方に習熟させておけば、生徒は必要な情報と知識を自分で探し出す力を得ているはずです。

もし、そのような場面で生徒が参照型教材を手にしようとしないようなら、そこまでの指導には大いに反省すべき点がありそうです。


ご参考記事:

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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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