黒板を写すと活動が低下?

「板書を増やすと、生徒は写することばかりに気を取られ、学びの姿勢が受け身になる」―― 昔からよく言われることであり、納得できる部分もなくはありませんが、板書が多いこと自体が思考を妨げる、というのは短絡的に過ぎるのではないでしょうか。

受け身の姿勢が強調されたり、自ら考えようとしなくなったりする要因は、板書の多さではなく、板書の仕方、板書に至るまでの進め方に求めるべきです。

実際、問い掛けと組み合わせながら板書を行っている授業や、生徒の発言を拾い上げて板書で共有し、そこから学びを展開させている授業では、板書の充実が生徒の活動・能動性をよく引き出していることすらあります。


❏ 見たものを写す VS 理解したことを文字や図に起こす

先生が黒板に書いたものを、そのまま写すだけなら、たとえ授業を聞いていなくてもできてしまいます。発問を十分に挟まず、一方的に説明を進めながら板書していては、生徒も機械的に写しているだけです。

そのような授業で、板書が忠実に再現されただけのノートを見て「よく勉強している」 と評価するのは迂闊に過ぎますよね。

問いを受けて考えて、そこで気づいたこと/理解したことを、改めてノートに描き起こすのであれば、そこに思考も介在しますし、思い出しやすく忘れにくい記憶にもなります。

頭に一度インプットし、アウトプットとしてノートの上に再構成する――言うほどには簡単ではありません。生徒の方でも、何のトレーニングもなしに、そんなことをいきなり求められても面食らってしまいます。

考えながらノートを取るという習慣と技術を、どうやって身につけさせるか。これこそが教える側での知恵の使いどころだと思います。


❏ 問い掛けて、考えさせてから板書

生徒が板書をみてノートに写すまでの工程に、考えるというステップを挟めないのは、そうしたタイミングを先生が作っていないからではないでしょうか。

板書する前に、きちんと問い掛けを行って、「考える段階」 を先に踏ませてしまいましょう。

問い掛けによって、次に答えとして与えられる情報を受け取る態勢を取らせることが大切です。

A: 先生が説明した→黒板に書き出した→ノートに写す
B: 問い掛けられた→自分の頭で考えた→答えと照らして自分の理解を確認


問い掛けなしで行われる、先生からの説明(一方的な講義)はAの流れです。

この中では、生徒側で思考は生まれません。単に写しただけであり、きちんと理解できている保証もありませんよね。

Aの第一段階(下線部)を、Bに置き換えてから板書をするようにすることで、生徒の学びは「説明を聞いた」 から「自分で考え理解した」 に変化し、能動性が加わります。


❏ 説明と板書に入る前に、仮の答えを書かせる

もう一歩進めるなら、仮の答えを生徒に書かせて、それから説明と板書を始めるという手もあります。

これから説明して解いていく問題を板書して、「さて、現時点で自分で書いた答えをノートに書きなさい」 と指示します。

記号選択の問題では面白くありませんから、文章で書かせる説明問題などが好適です。

仮の答えを書かさせることで、わからないと感じる部分も出てきます。それが「学ぶことの自分の理由」 になり、これから始まる説明を聞く姿勢を作ります。

その後、ひと通りの説明と板書を終えたら、最初に作った仮の答えを改めてリライトして、最終的な答えに仕上げさせれば、両者の違いで学びの成果を実感でき、達成感も得られます。


❏ できるだけ板書を見ないでノートを書き起こす練習

「板書するけど、できるだけ見ないで理解したことをノートに書き起こすようにしてごらん」 という指示も出していきましょう。

最初はできなくても、回数を重ねるごとに生徒もやり方に習熟し、それほど時間もかからずにできるようになります。

はなからできないと決め込んで、やらせなかったらずっとできないままです。

書き写すだけでなく、理解したことをノートの上に再構成するだけに、生徒それぞれの工夫も織り込まれていきます。

生徒のノートをのぞき込んで、優れた工夫が見られたら、教室で紹介するのもお奨めです。生徒が互いの発想を刺激し合い、より良い工夫をし始めるきっかけにもなるはずです。


❏ 情報を整理する方法を学ばせるのも板書を通じて

教科書や資料に書かれているテクスト(文字情報)を読んで、関連付けて整理したり、全体像を構造化したりする力も生徒は身につけていかなければなりません。

先生がプリントを起こして、情報整理や関連付け、構造化といった工程を予め肩代わりしてしまっては、生徒は練習する機会も得られないことになります。

わかりやすく効率よく伝えるために、多大な時間と労力を投じて行った授業準備が、却って生徒から学びの機会を奪っている可能性もあることを、常に意識しておく必要があるのではないでしょうか。

如上の過程をすべて先生が肩代わりしてしまい、「生徒は受け取るだけ、覚えれば良し」 という状態にして渡されるのでは、出来合いの惣菜を買ってきて食べているのと変わりはありませんよね。

それで料理を覚えられたら奇跡的です。自分で料理できるようにしてあげるのが教室での仕事。生徒が学びに関わる場面を、不用意に奪ってしまわないように気を付けたいものです。


以下の記事も、お時間の許すときにお読みいただければ光栄です。

  1. 学習効果に直結する活動性、それを支える視覚情報
  2. 手を使って書き写すことの大切さ
  3. 板書に残すもの(前編)
  4. 板書に残すもの(後編)
  5. 知識の拡充 vs 情報整理手法の獲得



教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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