生徒を指名して発言させるとき(その3)

生徒に発言させることには様々な目的がありますが、その目的を達する方法は発言だけに限られるわけではなく、目的に応じた代替手段を講じた方が効果が大きいこともある、というのが前稿の趣旨です。

しかしながら、生徒に発言をさせてこそ、そこに含まれる気づきや考えをクラス全体でシェアすることができ、その先に発想の拡充や思考の深まりが期待できる場面も少なくありません。活発に発言が飛び交わないことには対話的で深い学びは実現しません。

発言させようとしても中々声が上がらないクラスでは、普段の教室で習慣にしてしまっていることや、発言を引き出す仕掛けのあり方に見直すべき点があるかもしれません。声が上がらない状態、生徒がフリーズする原因についても少し考察しておいた方が良さそうです。

2015/11/04 公開の記事をアップデートしました。


❏ 全員を発言の主体にするのが対話的な学びの前提

あちらこちらで教室を覗いてみると、生徒が活発に発言し元気いっぱいに見えるクラスを多々見かけますが、そこで一人ひとりの発言がクラス全体の学びの起点になっているか、発言が学習者の対話になっているかどうかはまた別の話です。

元気いっぱいだけど、一部の(目立ちたがり屋な?)生徒だけが発言を繰り返し、他の生徒は自分の意見を差し挟むでもなく、その生徒と先生のやり取りに興味津々というわけでもなく、という場面はそんなに珍しいものではありません。

積極的に発言しようとする生徒をむげに押しとどめるのも何ですが、この状態を放置していては、ほかの生徒が学びのための対話に参加できないという問題も生じます。

グループ討議でも、「オピニオンリーダー的」な生徒がガンガン意見を言って、他の生徒はそれを黙って聞いているだけというシーンも珍しくないように思います。傾聴しているならともかく、中にはフリーライダーを決め込んでいる生徒もいます。

これを放置しては、「発言しない/傍観者として50分を過ごす」ことを学習させてしまうようなものです。

生徒一人ひとりに、対話的な学びに参加させ、その成果を享受してもらうためには、自発的な発言に任せっきりにするのではなく、指導者の側で発言をコントロールしたり、一人ひとりが発言者という役割を担える場をプロデュースしたりする必要があるということです。

そのための手段の一つが「指名」ですよね。事前に問いを投げかけてしっかり考えさせておくことと、生徒の頭にどんな考えが浮かんだかきちんと観察しておくことが前提であるのは言うまでもありません。


❏ 声が上がらないのは、そう学習させてしまった結果

しかしながら、いざ発言させようと指名すると当の生徒はだんまり、対話がちっとも進まないことも少なくないかと思います。

普段から頻繁に発言の機会を作り、考えたことを言葉にする習慣を作っておかないと、発言すること自体に慣れていない生徒は当てられてもドギマギするばかりです。

先生が話している場面が長く続いた後、急に指名したときにも、同じようなことが起きますよね。話を聞くだけの場面が続くうちに、生徒の側では発言を用意するという意識が薄れ、いざ指名されても用意が整っていないだけにフリーズしてしまいます。

まずは、頻繁に問いを重ね、生徒に「問われる態勢を解かせない」ことが大切です。隣同士で説明し合う場を挟むなど、口をつぐんでいる時間を短くすることにも注意したいものです。

また、正解をいい当てない限り、きちんと取り上げてもらえず「ちょっと違うね」で片づけられる場面が幾度も繰り返されては、「わかりません」がもっとも無難だと学習させてしまうかもしれません。

その「ちょっと」がどこであり、どうすればより良い解に近づけるか。これこそが学ばせるべき事柄ですよね。

生徒の手元や頭の中を把握しないままランダムに指名し、しかも誤答を十分に予想できていなかったら、トンチンカンな答えに「うーむ、ちょっと違うね」としか返せないのも道理です。

本シリーズのその1でも書きましたが、順番に当てていくという方法もまた、「当てるのは先生、指名されたら答える」との誤解に生徒を導きます。思いついたことがあっても、指名されない限り手や声をあげることはなくなってしまいます。

学年が進むにつれて発言が出にくくなるのはよく見かけるパターンですが、もしかしたら教える側の無自覚な繰り返しの中で生徒に学習させてしまった悪しき行動様式/習慣なのかもしれません。


❏ 指名されて答えられなかった生徒へのフォロー

問い掛けて十分に考えさせ、しっかり観察して指名したつもりなのに、その生徒が答えを持っていなかったり、見当違いなことを考えていたりした場合にどんな対処をとるかも悩ましいところ。

「次は頑張れ」と励ますだけで放置しては対話がそこで途切れてしまいますし、あからさまなヒントを出して切り抜けるのもスマートとは言えませんよね。

発言への評価や正誤の判定をひと先ず留保して、「ほうほう、では〇〇君は?」と次の生徒に発言の順番を進めてしまい、幾人かの意見・考えを聞いた後で、最初の生徒を再指名し、「今度はどう考える?」と振り直してあげるのはどうでしょうか。

前段で説明したことを訊いて言語化させたり、何に着目してそう考えたのかを尋ねたりするなど、別の角度から問いを起こして、再び考えさせるという手もあります。

すでに教えたことであれば、黒板やノート、教科書に目線を走らせることで答えを見つけられるかもしれませんし、「どこに着目したか」「どう考えたか」なら、問いへの正解と違って必ず自分の中に答えが存在するはずです。

ここでも、同じ一人の生徒とのやり取りを続けるだけでは、本人は追い込まれ、他の生徒は傍観するだけですので、「別の角度からの問い」はクラス全体に投げかけるのが鉄則です。

最初に当てられて答えに詰まった生徒が答えられそうなら、もう一度指名しても良いでしょうし、他の生徒に発言したがっている様子が見られば、どんどん発言させましょう。

どの生徒もモジモジして発言のそぶりを見せないようなら、「隣同士で説明し合ってごらん」と、発言から話し合いに切り替えるのも柔軟でスマートな対応だと思います。話し合いに耳を傾けていれば、改めて指名して発言させるべき生徒が見つかることも少なくないはずです。

わからないときは周囲にヘルプを求めても良いというルールにしておくのも良いのではないでしょうか。

隣に訊いたとしても、発言は自分の声で行うわけで、「わかりません」としか言わなかったり、黙ったままでいたりするのと違って、少なくとも「理解したことを言葉にする機会」を持てる分だけましなはずです。

ただし、こうした対話もその場で終わりにしては、何となく出来上がった答えに安堵するだけです。深く確かな学びにはなりません。「答えを仕上げる中で学びは深まる」で申し上げた通り、授業を終えたら、問いに立ち返ってじっくりと自分の答えを仕上げさせることを習慣化させることが肝要です。

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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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