課題の仕上げは個人のタスクに(前編)

様々なアクティビティを授業内に配列し、学んだことを活用する機会を整える中で、教える側が忘れてならないのは、「仕上げは個人に戻して行わせること」です。

仕上げの作業を通じてなされる「学びの振り返り」と「成果の固定(=言語化)」が、経験したことを「学力」 という形に換えて生徒の内に固定するからです。


❏ 教科学習指導では、協働は目的ではなく学力形成の手段

ペアで助け合ったり、グループで協力したりするのは、
  • 課題の解決に足りないものを交換を通じて互いに補うこと
  • 協働を通じ、最適解が決まっていない新たな課題を解決すること
のいずれかを目的としたものです。

学校行事や委員会あるいは地域連携などでは、知識・経験・発想の交換を通じて課題を解決すること自体が目的です。

しかしながら、教科学習指導の場面では、ちょっと事情が異なります。課題そのものが、訓練のために設けられた仮のものであるためです。

教科学習指導の場で用意される課題には、既に最適解が存在しているだけに、その課題解決は「目的」ではありません。


❏ 課題解決を通してどのようなコンピテンシーを獲得したか

生徒は課題解決を通して、学力の三要素を身につけます。解決すべき課題は、コンピテンシーを高めるという目的のために用意された「機会・方法・手段」に過ぎません。

周囲との協力の中で正解を導けた、活動が盛り上がったという事実に目を奪われずに、一人ひとりがその場で何を(=どんなコンピテンシー:資質・能力を)身につけたのかにこそ焦点を当てるべきです。

卒業したら教室でチームを組んだメンバーとは離れ離れ、新しい相手とチームを組んでいくことになります。その時までに、学びの成果を自分のものにしておかないと、困ってしまうのは生徒自身です。

教室内がうまくコントロールできて、アクティビティが盛り上がったとしても、教える側の仕事は終わっていない、ということですよね。


❏ 活動を通じて導いた解を自分の言葉として書き上げさせる

課題解決の中で触れた知識や考え方、手順などは、自分で使ってみてはじめて整理がつき、記憶にも定着します。

アウトプットを通じてインプットの不備(知識の欠落・理解の不足)に気づかなければ、「わかった気になっているだけで理解できていないこと」 が積み上がるばかりです。

こうしたやり残しがどこかで飽和して、「苦手」「嫌い」になったら、処方はますます難しくなります。

理解したことを自分の言葉で表現する機会として、課題の仕上げ、すなわち解答を書き上げること(言語化によるアウトプット)が重要な意味を持ちます。

 ご参考記事: 振り返りのためのアウトプット


❏ 仕上げを通じて理解は確かなものに

また、元気よく活動に参加した50分の記憶は、放っておけばその後に行われる活動の記憶に上書きされてしまいます。

その場で学んだことの記憶は、保持されず想起できなくなるのも当然です。

しかしながら、一度きちんと理解したことであれば、後でノートや答案を見て、その場での思考そのものを思い出すことができます。

「意味を理解せずに板書を写しただけのノート」と、「耳目から入った情報をいちど頭で理解してから書き起こしたノート」 との違いと同じです。

答えを導く過程を経験させるのは授業中に、答えを仕上げるのは授業終了後に自宅や自習室で、とするのが一番シンプルなやり方です。


❏ 採点基準に照らした答案評価で次に向けた課題形成

生徒が答えを書き上げたら、採点基準を示して、自己採点・自己添削をさせましょう。

回収して先生が丁寧に採点・添削してみても、生徒の多くは正誤や点数に気を取られるばかりで、
  • どこが間違っていたのか、どうして間違いになるのか
  • 正しく理解・表現できていたのはどの部分なのか
には、あまり意識を向けません。

勉強を好きにさせる学ばせ方で書いた通り、振り返りを通じたメタ認知形成は学びへの自己肯定感を高め、積極的な学習姿勢を引き出します。


❏ 振り返りを通じて、自分の学びを俯瞰する

できなかったのはなぜか、できていたのはどこかを、客観的にとらえ直させましょう。

前者は、次に向けた修正ポイントを知ることに通じ、似て非なる課題に出会ったときに、より良い答えを導く可能性を高めるために欠かせない認識です。

これが欠ければ、同じ間違いを繰り返すリスクが高まります。

後者は、自分が選択したプロセス(題意理解、手順の構築など)が正しかったことを確かめる場として機能します。

こちらが欠ければ、今回できたことが次にもできる保証はありません。

部分的にでも進歩があったのにその後の学びの中に再現できないのでは、進歩は着実なものになりません。

後編に続く


教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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