やりきらせる責任(その1)

与えたものをきちんと仕上げさせることは、教える側が常に意識をしておかなければならないこと。課題を与えた以上、達成/完遂させるのは与えた側の責任です。

やりきらずに放置した経験/課題を達成できなかった体験を繰り返させるうちに、意図せず、それで良しとする意識や姿勢を「学習」させてしまっては一大事です。

生徒に与える課題には、持てる知識や思考力を使って課題解決に当たらせるタイプと、与えたものを覚えさせるタイプとがありますが、前者のタイプについては別稿などに譲ることにして、本稿では後者のタイプに焦点を当てて考えてみたいと思います。

2016/01/08 公開の記事をアップデートしました。

❏ 与えるものを増やすだけでは…(きちんと線引き)

生徒の学力を高めたい、進路希望を実現させたいとの強い思いから、教える側はついついあれもこれも与えてしまいがちですが、個々の生徒が必要とする知識の範囲は、進路希望などによって異なります。

すべての生徒のニーズをカバーする「最大の網」の中には、生徒によってはそれらを必要としない/こなしきれない部分が含まれます。

 ■ 知識をどこまで拡張するかは個々のニーズに合わせて

クラスの全員がしっかり押さえるべきところと、それをクリアした場合に押し広げるべき学びとの間にしっかりと線引きをして、個々のニーズや能力に応じた課題や負荷をかけていきたいところです。

生徒ごとのニーズやキャパの違いを忘れ、教える側が「あれもこれも教えておかなければ」という不安に流されてしまっては、生徒の手元にはこなしきれないものが積みあがっていくばかりです。

覚えることにばかり時間とエネルギーを投じさせて、各単元の学習内容の本質的な理解が疎かになったり、基礎力(言語・数量・情報の各スキル)や思考力(課題発見・解決力など)の獲得が後回しになったりしては、本末転倒だと思います。


❏ 小テストなどでの履行促進策には大きな副作用

与えた課題(例えば単語集の暗記など)を確実にこなさせることを目的に、小テストを計画的に実施しているケースもしばしば見かけます。

勉強を進めるペースを作ってあげたり、覚える練習/思い出す練習を重ねさせて「覚える力」を高めたりするのは良いことだと思います。

しかしながら、覚えきれなかった/覚えようとしなかった生徒に対する指導が、「再テスト」や評定における減点などの、ノルマやペナルティといった「外圧」に頼っていることには問題ありです。

外圧頼みでは、主体的な学びの実現に近づけませんし、そもそも小テストで合格点を取れていないことの「原因」に立ち戻り、その解消を図ることにもつながっていきません。

小テストなどで合格点をキープできない(覚えるべきものをきちんと覚えない/覚えられない)ことの背景には、覚え方のまずさ(非効率性)やきちんと覚えることに意義を見出していないことによる意欲不足などの原因があるはずです。


❏ 投資量でタスクを加減しつつ、覚え方を学ばせていく

前者のケースを放置すると、何の工夫もなしに根性頼みの反復方策だけで暗記に挑み、上手く覚えられない/すぐに忘れてしまうのを繰り返すうちに、自己効力感を弱めてやる気を失っていく生徒もいます。

クラス全員に一律のペースで「覚えるタスク」に取り組ませるのでは、暗記を苦手とする生徒ほど過重な負担を強いられ、やりきれないリスクを大きくしてしまいます。

成果量(どれだけのものを覚えるか)ではなく、投資量(どれだけの時間をかけるか)によって、個々の生徒のタスク量を調整するという方法でこの問題の解決に当たっておられる先生がいらっしゃいました。

覚える勉強には一日15分しか当ててはいけないという制限をかけて、その限られた時間の中でどれだけ覚えられるかチャレンジさせ、その日は幾つ覚えられたか記録させていく中で、「昨日までの自分を超えた」という快体験を積ませていこうという試行です。

生徒は、覚えられた数が徐々に増えていく中で、自己効力感を失うどころか、覚え方の工夫を始めたり、周囲と覚え方を教え合ったりと、以前より前向きに覚えることにチャレンジする姿を見せてくれたそうです。

暗記力は生来のものだけではありません。対象を精緻に観察して特徴を捉える力や、それまでに蓄積していた関連知識と結びつける力、理解をベースに想起できなくなった記憶を引き出す力などを、練習を通じて身につけていくことで向上が図れます。

オリエンテーションや授業の合間を使って、制限時間内に覚えるというタスクを課して、個々の生徒がどんなやり方で覚えようとしているかを観察してみる機会を持ってみるのも良いかもしれません。


❏ 覚えることに意欲を示してくれない生徒には

後者のケースには、様々な要因が絡み合い、ことはさらに複雑です。

  1. 今すぐ覚えなくても困らない状況にある(と思っている)
  2. 最初から努力するより再テストを受けた方が効率的と考えている

これ以外にも、「タスクを完遂することの喜びを、十分な経験を通して学習していない」というケースもありますが、如上の取り組みなどは、その解消にも役立ちそうです。

1. のような生徒がいるのは、ある意味、当然です。先生方は、これまでの指導経験に照らして「今のうちに、これをやっておく必要がある」と判断しますが、生徒はそうした見通しを初期状態では持っていません。

これから先の学びがどのようなものになっていくか、それぞれの時期に集中すべきは何か、それまでに何を整えておくべきか、生徒がしっかりイメージできるだけのガイダンスも必要です。

先輩学年の成功体験/失敗体験を、如上のガイダンスに説得力を与える材料に使うのも効果的かもしれません。「2年生のうちに○○を済ませていたので、3年になって〇〇に集中できた」「過去問演習を始めたときに〇〇の不足で余計な時間がかかってしまった」などです。

2. に該当する生徒が多いとしたら、再テストのやり方などに工夫が足りなかったことにも反省点があるかもしれません。再テストでは問い方や出題項目を変えるぐらいのことはしましょう。


❏ 暗記だけより、活用する機会を通した再記銘

必要な知識でも、それを暗記させるだけでは「獲得した知識」に「生きて働く場」を与えていないことになります。

単語や熟語ならそれを用いた例文の創作や収集、各単元の重要語句ならそれらを用いた事象の説明など、知識を活用する場を設けてこそ、理解を伴う記憶になっているかが確かめられます。

活用する中で対象となる知識に触れるたびに、再記銘が図れますし、想起できなくなったときに記憶を復元する手がかりも増えます。

こうしたところまでタスクを広げると、単位時間(週当たりなど)にこなせる項目数は減りますが、覚えたはしから忘れていくという非効率は解消されていくでしょうし、重要度の高い項目をしっかり押さえておけば、受験期を迎えての総ざらいで、効率的に知識の拡充も図れます。

別稿「参照型教材を徹底して使い倒す」でも書きましたが、知識を活用する場でわからないこと、忘れてしまったことに出会うたびに、調べて確認することを繰り返せば、知識の定着は着実に進むはずです。



冒頭にも書きましたが、課題を与えた以上、やり切らせるのは与えた側の責任です。生徒が課題をこなしきれない要因を一つひとつ排除しながら、やるべきことをしっかりとやり切らせていきましょう。

項目間の優先順位や重要度を考慮しながら、覚えきれる量に絞って課題を指定し、覚え方/覚える力を徐々に養っていくことが肝要です。

■関連記事:
  1. 副教材、こなしきれていますか?
  2. 課題解決を伴わない知識獲得は…
  3. 新しい学びの中で「覚える力」が持つ意義
  4. 「学びの拡張」まで考慮したカリキュラムの設計

その2に続く

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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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