やりきらせる責任(その2)

知識の獲得・拡充を図る場面でも、獲得した知識を活用して課題に解を導く場面でも「適切な支援を行って完遂に導くこと」は指導者が果たすべき責任です。やりきらない/仕上げきれないことを習慣化させたときに生じる弊害は小さくありません。

努力や工夫を重ねて物事を完遂した達成感は、生徒に自信を与えるとともに、その過程で様々な学びの方策を身につけさせていきますが、それと逆に、挑んでみて壁に跳ね返される体験を重ねさせては、生徒にとって面白いはずもなく、学ぶ意欲や姿勢を失わせていくばかりです。

課題に挑むだけのレディネスを整えているか、やりきるだけの時間が確保できるかを見極めて指導を進めていく必要もありますし、根本に立ち戻り、やらせることに本当に価値があるのかも冷静に判断すべきです。

2016/01/12 公開の記事をアップデートしました。

❏ レディネスを確かめ、「酸っぱい葡萄」を作らない

できない経験を積ませていうるうちに、生徒に自己効力感を失わせ、目指すべき目標を「酸っぱい葡萄」にさせてしまっては一大事です。

予習・復習を指示するにしても、宿題を与えるにしても、生徒が教室を離れる前に、それらに取り組めるだけのレディネス(知識理解、学びの方策など)が備わっているか、しっかりと確認するようにしましょう。

 ■ 課題解決の場を整えたら、挑ませる前に理解の確認

レディネスが整わないうちにチャレンジを求めるのでは、達成可能性は担保されず、生徒が返り討ちに合うリスクをコントロールできません。

できない自分を突き付けられて「こんなことを勉強しても仕方がない」とうそぶいたり、正面から課題に取り組むのを避ける(≒ズルをする)態度が身についてしまったら、後になっての修正は困難です。


❏ 宿題・課題・指示をこなせる状態か、きちんと確認

わからない単語は辞書で調べておきなさいという単純なことでも、品詞の概念もあやふや、構造把握も覚束ないという生徒には簡単にこなせる課題ではありません。辞書をいくら引いても正しい日本語/現代語訳が作れない自分に嫌気がさしてしまうことだってあり得ます。

習ったことを用いれば答えられる「はず」の問いを宿題に課しても、授業内容の理解度や既得知識の量と質は、生徒ごとにまちまちです。

そこまでの理解や知識の蓄積が十分か、不足する知識があればそれを補うすべ(調べ方や参照型副教材の使い方)を身につけているかの確認を怠れば、先生方が期待した通りの結果になるとは限りません。

また、最初のトライで失敗した生徒がそこで立ち止まらないようにさせることも大切です。次のアクション(不足するものを補い、作戦を見直して再トライ)をきちんと取らせましょう。

課題を仕上げてこそ、学びは深く確かなものになりますし、仕上げらないことを常態化させない上でも欠かせないことです。

当然ながら、再トライができるだけの時間的余裕も確保しなければなりませんので、クラス全体に与える課題はやや抑えめにして、学力に余裕のある生徒には、全体課題をクリアした上でチャレンジする発展課題を用意して先に進ませる「複線的なゴールの設定」が合理的です。

 ■ ひとつの課題から複線的なハードルを作る
 ■ 知識をどこまで拡張するかは個々のニーズに合わせて

振り返りを通じて、メタ認知・適応的学習力を高めていく必要もありますので、その分の時間も確保すべきであるのは言うまでもありません。


❏ こなせる量を超えないように与える量を調整

タスクの内容が十分にこなせるものであっても、持ち時間に収まらないような課題が与えられ続ければ、生徒の手は回らなくなります。

やらずに放置することはなかったとしても、十分に仕上げるだけの時間がなければ、生徒には「形だけ整えて期限に間に合わせる」という選択しか残りません。これが習慣化するうちに、きちんとやり切ろう/仕上げきろうとの意欲は削られていくばかりではないでしょうか。

生徒は、一つの教科・科目だけを学んでいるわけではありませんから、他教科でどのくらいのタスクが課されているかの把握も必要です。

各教科の学習以外にも、学校行事の準備や振り返り、進路指導の中で与えている様々なタスクなどにも生徒は取り組まなければなりません。

それらをすべてこなすのに必要な時間が、生徒の持ち時間を超過したときに、「やりきることができないこと」が発生します。


❏ 生徒が抱える課題の量をリアルタイムに把握

ある学校では、生徒が今どれだけのタスクを抱えているかを、学年の指導に関わる先生方が把握できるよう、職員室のホワイトボードに現時点で与えているタスクを見込み所要時間を添えて書き出していました。

自教科だけ突出して他教科・領域の指導を圧迫しないよう、課題量を加減したり、時期を互いにずらすなどの工夫が自然に生まれたそうです。

ただし、課題量の調整といっても、減らす方向ばかりでは、生徒が時間や能力を余し、成長にブレーキをかける一因になります。

余裕があるときに与えるプラスアルファの課題を用意しておいたり、期限に余裕を持たせた課題を「調整弁」として働かせるのも好適です。

簡単にこなせる量しか与えられなければ、生徒はタスクマネジメントの必要性も感じないはず。少々きつさを感じつつ、知恵を働かせ、頑張るからこそ、生徒はそれまでの限界を超えて成長していけます。


❏ 効果測定を怠らず、与える課題を取捨選択

如上の調整には、個々の課題の必要性や優先順位を明確にしておく必要がありますが、課題ごとにその効果を常に確かめておかないと、選択を誤るリスクを抱え込むことになります。

ある課題をきちんとこなした生徒が、それ以外の生徒と比べて、その後の学習でより良いパフォーマンスや取り組みを示していないようなら、その課題を与える必要があったのかどうか疑ってみるべきでしょう。

課題を与える(=指導を計画する)側は、つねに俯瞰的に「その宿題、本当に必要ですか?」「副教材、こなしきれていますか?」を自問し、個々の課題の要否を冷静に判断する必要があるはずです。

 ■ 荷物を増やしても、学びが膨らむとは限らない

不要な負担を強いてしまったり、必要なタスクを与え損ねたりしては、学びの成果は大きくなり得ません。

学習評価は多様なツールを組み合わせて多面的・総合的に行う必要があるのは今さら言うまでもありませんが、評価の過程で得られたデータを用いてこそ、生徒に与えた課題や取り組ませた学習活動の一つひとつが生徒の学力形成にどこまで貢献したのか見極められるはずです。


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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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