中学での経験を踏まえて考える「高校での探究活動」

中高一貫校では、6年間という長い指導期間を活かして探究型学習プログラムの整備が比較的進んでいます。

あちらこちらの学校の成果発表会などを訪ねて、その様子を拝見してみると、意欲的な取組に触れて驚かされることもしばしばです。「ん??」 という場合も少なくありませんが…。

これに対して指導期間が3年(実質的には2年半)しかない高校では、本格的なプログラムを組み込むには時間的な制約が小さくありません。

成果が確認できるまでの期間が中高一貫校の半分の3年間で済むという利点を活かし、短いサイクルの中でプログラムの改善を加速させるとともに、生徒が中学校までに経験してきたことをうまく利用して、不利を跳ね返していく必要がありそうです。

本稿は、「探究型学習を使った進路指導」 の続編として起草したものです。


❏ 出身中学で生徒が何を経験してきたか

高校に入学してきた生徒が、小学校、中学校で何を体験してきたか、意外と把握できていないものです。

指導というものはすべからく、現時点でできていることと、最終的にできるようにさせたいことの差分を埋めるために行うもの。

入学してきた生徒が、それまでに何を経験し、どんなことができるようになっているかを把握しないことには、指導の設計はできないはずです。

すでにできるようになっていることを繰り返してなぞっているだけでは、伸びるチャンスに蓋をするばかりか、退屈させてモチベーションを下げることだって考えられます。

入学時の可視化学力は同じでも、生徒により体験の質と量がまったく違うことを念頭に、その時点までの経験を探り、できるようになっていることは何かを把握する必要があるということです。

多忙な毎日の中、中学校での活動に直接触れる機会を作るのは容易ではないかもしれませんが、小中学校のホームページを覗いたり、成果発表会に足を運んでみたりするだけでも、得るものがあります。


❏ 可視化できる学力以上に大きな差が持ち込まれる

中学で経験したのと同様・同質の経験を繰り返させることは、決して無駄ではありません。様々な経験をして成長した後であれば、同じ風景を見ても感じ取り方が違うのは当然です。

しかしながら、先の経験を通して身につけてきたものに、生徒間で違いがある以上、レディネスの違いを想定した指導設計が必要であるのも事実です。

課題設定、情報収集、情報整理、調査方法の立案、実験計画、…。数え上げればきりがありませんが、汎用スキルにも大きな差があることが想定されます。

入学試験ではなかなか測定しがたい部分であるだけに、この差は、もしかしたら授業に持ち込まれる学力差以上に厄介なものかもしれません。

教科学習指導のオリエンテーションでも、勉強の仕方をあれこれ教え込む前に生徒にやらせてみてその行動を観察する必要がありますが、総合的な学習の時間や探究活動でも同じことが言えるのではないでしょうか。


❏ 入学段階で、それまでの経験を把握

差異に対応する方法を考える前に、どのような差異があるかを把握しないことには話を先に進められません。

入学してきた生徒には、アンケート調査を行って、
  • 総合的な学習の時間はどんなことをやってきたか
  • 課題研究や自由研究でどんなことに取り組んだか
  • 体験学習ではどこに出かけて何をしてきたか
などを尋ねておき、指導の設計や実施に参考としたいところです。

特に課題研究(探究活動)については、どのような取り組みをして、どんな成果を得たのか。それを通じて、自分のうちにどんな変化・成長を感じたのかは、本人に聞いてみないことにはまったくわかりませんよね。

推薦入試の願書にもあれこれ書いているかもしれませんが、入学を許可されるために書いたものだけに「よそ行き」 の表現に書き換えられています。

誰かの指導が入って、本人の力量や経験を大きく超えたことになっているかも…。字句通りに受け取るにはちょっと心許ないですね。

職業調べや職場体験などについても同様です。ちなみに、これらの体験型学習は、探究活動の入り口に当たるものです。

既に経験している生徒に対して、同じ活動を繰り返させても得るものは大きくありません。中学時代の体験を振り返らせてから、積み上げてきた気づきや深めてきた考えを把握する必要があります。

どこを深めるか、どう広げるかを考えるのは、そのあとではないでしょうか。

生徒が身につけてきたものをうまく利用し、足りないものを着実に補うように生徒に合わせた指導の最適化を図る必要があります。同じ投資に対する変化量(付加価値)を大きくしたいものです。


❏ 協働性・多様性・主体性は、それを発揮する場を作って把握

入学直後にオリエンテーション合宿を行うことも多くなっていますが、その中で、グループディスカッションなどをさせてみると、想像以上にそうした活動に慣れている様子が見て取れることがあります。

中学時代に身につけたものが、どの水準にあるかを観察しておけば、ホームルームや教科学習指導の進め方(アクティビティの置き方など)を考えるときの判断材料になるはずです。

できれば、先生方の手元に観察シートを用意しておきたいもの。

評価を記録しておけば1年後、2年後、3年後と比べたときの成長度を把握でき、その間の指導について効果測定もできるはずです。

こうした把握をしないで、従来どおりの入学者イメージを抱えたままでは、これからの生徒に効果的な指導はできないかもしれません。

繰り返しになりますが、「生徒ができるようになっていること」 に乗っかってこそ、次のステージに向けて成長させることができます。


❏ 探究テーマを決めさせるときに

探究型学習を使った進路指導」 でも書きましたが、探究活動は進路形成そのものではないでしょうか。

興味を持ったものを研究によって掘り下げ、社会が取り組む課題などに自分がどう関わっていくかを考える中に、生徒は自分の生き方を見つけます。

もちろん、18歳での決断にその後の選択が縛られる必要はありませんが、その時点でやりたいこと、面白いと思えるものを持つことが大切です。

職業調べを先行させて、もっとも自分に合いそうなものを探すアプローチは、うまくいけば最短ルートを与えてくれますが、選択肢を狭めていくという要素も持っています。

ある時期までは目いっぱい可能性を広げた方が、自分の資質や志向に合った進路と出会えるはずです。

「横断的・総合的な学習」 で視野と興味のすそ野を広げ、「探究的な学習」 で社会に自分がどう関わるかを考えさせるという考え方が、今まさに求められているのではないでしょうか。

何らかの探究をしっかりした形で経験させることが、進路意識形成には欠かせないものとなります。

おぼろげながらでも将来像を持っている生徒には、そこを掘り下げさせることで、選択に向き合う姿勢と覚悟を作らせる必要があると思います。

中学時代に何らかの探究活動・体験学習をしてきた生徒なら、そこでの活動を振り返る中で、新たなテーマ設定をさせてみても良いのではないでしょうか。

もしかしたら、中学までに経験した探究活動や課題研究の成果の中に、本人も認識していない「胸の内に静かに育ちつつある将来像」 が隠れているかもしれません。


■ご参考記事: こちらの記事もお時間の許すときに是非ともご高覧ください。

 高校生にとっての探究活動
 キャリアは選ぶものではなく重ねるもの
 カッコつきの“キャリア教育の充実!”に思うところ
 総合的な探究の時間
 異校種間での指導を繋ぐ[記事まとめ]


教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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