中学での経験を踏まえて考える「高校での探究活動」

中高一貫校では、6年間という長い指導期間を活かして探究型学習プログラムの整備が比較的進んでいます。これに対して指導期間が3年(実質的には2年半)しかない高校では、本格的なプログラムを組み込むには時間的な制約が小さくありません。

成果が確認できるまでの期間が中高一貫校の半分の3年間で済むという利点を活かし、短いサイクルの中でプログラムの改善を加速させるとともに、生徒が中学校までに経験してきたことをうまく利用して、不利を跳ね返していく必要がありそうです。

※本稿は「探究型学習を使った進路指導」 の続編として起草しました。

2016/02/23 公開の記事をアップデートしました。

❏ 出身中学で生徒が何を経験してきたか

高校に入学してきた生徒が、小学校、中学校の総合的な学習の時間や体験学習などで何を体験してきたか、意外と把握できていないものです。

指導というものはすべからく、「現時点でできていること」と「最終的にできるようにさせたいこと」の差分を埋めるために行うもの。

入学してきた生徒が、それまでに何を経験し、どんなことができるようになっているかを把握しないことには指導の設計はできないはずです。

中学で経験したのと同様の経験を繰り返させることも、まったく無駄ということではないと思います。様々な経験をして成長を遂げた分、同じ経験でも、そこで再構成される学びは異なったものになるからです。

しかしながら、既にできるようになっていることを繰り返してなぞっているだけでは、伸びるチャンスに蓋をするばかりか、退屈させてモチベーションを下げることだって考えられます。

入試で測定した学力は同じであっても、それぞれが体験してきたことの質と量がまったく違うことを念頭に、これまでの経験を探って「できるようになっていることは何か」を把握する必要があるということです。


❏ 可視化できる学力以上に大きな差が持ち込まれる

入学してくるまでに経験したことや、それを通して身につけてきたものには、生徒間で大きな違いがあります。当然のことながら、レディネスの違いを想定した指導設計は不可欠です。

課題設定、情報収集、情報整理、調査方法の立案、実験計画といった探究学習に必要なスキルにも大きな差があることが想定されます。

入学試験では測定しがたい部分だけに、実際の指導を開始する前/開始した直後には、生徒一人ひとりの行動をしっかりと観察して、それぞれが何をどこまで身につけているか把握に努める必要があります。

教科学習指導のオリエンテーションでも、勉強の仕方をあれこれ教え込む前に生徒にやらせてみてその行動を観察する必要がありますが、総合的な学習の時間や探究活動でも同じことです。

総合的な探究の時間の導入フェイズ(オリエンテーション等)においても、実施計画や取り組み方を一方的に伝えるだけでなく、実際に生徒を活動させて、その様子をしっかり(=観点と規準を設けて)観察する機会を設けましょう。


❏ 入学段階で、それまでの経験を把握

多忙な毎日の中、先生方が中学校に出向いてそこでの活動に直接触れる機会を作るのは容易ではありませんが、入学してきた生徒にヒアリングを行ったり、成果発表会のプレゼン資料を見せてもらったりすることはできると思いますし、やるべきではないでしょうか。

入学してきた生徒には、アンケート調査を行って、
  • 総合的な学習の時間でどんなことをやってきたか
  • 課題研究や自由研究でどんなテーマに取り組んだか
  • 体験学習ではどこに出かけて何を学んできたか
などを尋ね、その結果を指導計画や指導方針に反映させましょう。

ひと手間増えますが、その後の指導の効率化・合理化が図れるだけに、指導に投じるエネルギーの総量は小さく抑えられるはずです。

個々の生徒の体験やそこで本人が感じたことは、本人に聞いてみないことにはまったくわかりません。

各教科の学習では、「生徒は入試に合わせて勉強する」ため、入試に込めたアドミッション・ポリシーに沿った学び方がある程度期待できますが、課題研究/探究活動ではそうした「方向性を決める要素」がほとんど機能しておらず、一から調査して把握する必要があります。

推薦入試の願書や調査書にもあれこれ書いてあるでしょうが、入学を許可されるために書いたものだけに多少の脚色が含まれているかも。疑えばキリがありませんが、誰かの指導が入って実際以上の内容になっている可能性もゼロではないような気がします。

職業調べや職場体験などについても同様です。これらは高校での進路指導・キャリア教育を実践するときの土台ですので、中学までに何を経験したか/何を学んでいるかを知らないと、探究活動と同様に生徒が備えるレディネスと、指導で与えるものとの間にミスマッチが起きます。

生徒が体験してきたものを、高校での学びの中で再構成させたり、身につけているものをうまく利用してこそ、貴重な3年間での指導がより大きな実を結ぶ(=同じ投資で得られる付加価値が増大する)はずです。


❏ 協働性や主体性は、それを発揮する場を作って把握

入学直後のオリエンテーションでグループワークをさせてみると、想像以上にそうした協働に慣れている様子が見て取れることがあります。

中学時代に身につけたものが、どの水準にあるかを観察しておけば、ホームルームや教科学習指導の進め方(活動の配列/授業デザイン)を考えるときの判断材料になるはずです。

こうした把握をしないで、従来どおりの入学者イメージを抱えたままでは、これからの生徒に効果的な指導はできないかもしれません。

繰り返しになりますが、「生徒ができるようになっていること」 に乗っかってこそ、次のステージでの成長をより大きくできます。

先生方の手元には、評価の観点と段階的評価規準を備えたルーブリックを用意しておきたいもの。評価結果を記録しておけば1年、2年と時間が経過する中での成長を把握でき、指導の効果測定に役立てられます。


❏ 横断的・体験的な学びを土台に、社会に向き合う探究

別稿「探究型学習を使った進路指導」 でも書きましたが、探究活動は進路形成の過程で重要な役割を担います。

興味を持ったものを研究で掘り下げ、社会が取り組む課題などに自分がどう関わっていくかを考える中に、生徒は自分の生き方を見つけます。

小中学校での横断的・体験的な「総合的な学習の時間」を通して視野と興味のすそ野を広げたのちに、「総合的な探究のj時間」で社会に自分がどう関わるかを考えるという教育課程の設計思想を踏まえて、効果的な接続・展開の実現を図りましょう。

中学までの課題研究や総合的な学習の中で、社会と接点を持ちえる興味を見出した生徒には、少し範囲を広げてさらに深く掘り下げさせることで、社会と自分に向き合う姿勢と覚悟を作らせていきたいところ。

中学までの体験を通して、本人も認識していない「将来像」 が胸の内に育ちつつあるなら、これまでの取り組みをヒアリングする中での対話で内省や更なる思考を促せば、漠然とした将来像に具体的な姿を与えることができるかもしれません。

一方、指導の手法が十分に確立できているとは言いにくい小中学校(成果発表会などを見に行くと、「ん?」と思うことしばしばです)では、趣味や道楽に近い単なる興味の周辺をちょこちょこっと触っただけの経験しかしていないことも。そんな生徒も高校に入学してきます。

これまでの経験もその成果も様々。繰り返しながら、高校に入学してくるまでに、総合的な学習の時間などでの経験とそこでの気づきや考えたことを尋ね、しっかり言語化させてみることが大切です。


❏ 自由研究と探究活動の違いを認識させるための活動

中学までの総合的な学習の時間と、高校からの総合的な探究の時間は、名前が似ているだけに生徒は(ときに指導に当たる先生も)、その違いをしっかりと認識していないことが少なくありません。

横断的・体験的な学びでは、「やってみること」そのものにも小さからぬ価値がありますが、社会との関わり/接点を見いだして、主体的に学ぶ姿勢を作り出すことも目的とする「総合的な探究の時間」で同じことをやっては、目指すところは達せられないのではないでしょうか。

探究活動のテーマ選択に取り組もうとするときに、社会と自分の関わり/接点を見いだせない、しっかり意識できない生徒には、テーマ選択に臨ませる前に、一定期間の新聞購読を通して社会の営みの中に自らの関心の所在を探させる活動(別稿参照)を課してみるのも一案です。

書籍などでSDGsを学ばせ(最近は漫画も出ていてハードルは低めです)、探究テーマの選択にフレームを持たせようとの取り組みも各地で見られますが、やり方次第でかなりの効果が出ているように見えます。

また、物事を鵜呑みにせず、ひとつひとつ事実を確かめて思考する姿勢/ファクトフルネスを欠く生徒には、そうした話を聞かせたり、本を読ませてみたりすることも検討しましょう。

■関連記事:
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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