授業の中で思考力を鍛える

新しい学力観の下で、思考力を鍛えることの必要性への認識はますます高まってきています。なかなかすっきりした定義が難しい「思考力」ですが、大きく分けると「分析的な思考力」と「統合的な思考力」に分けてから考えるようにするとストンと落ちることが多いように思います。

分析的な思考力与えられた問題を分析的に思考・判断する力
統合的な思考力複数の情報を統合し、構造化して新しい考えを
まとめる思考・判断の能力

テクストを読んで理解したうえで、その中に問いを立てることは、前者に含まれるタイプの思考、問いを受け止め必要な情報をピックアップして、答えで求められている形に構成し直すことや、新たな知に編み出すこと(加えて、それらに他者の理解と共感を得るべく表現するかを考えること)は後者のタイプになろうかと思います。

2016/02/25 公開の記事をアップデートしました。

当ブログでも、これまで「思考力とは題意を分解して解に再構成する力である」 と定義してきました。

あまり定義されることもないまま使われている「思考」という言葉ですが、問題を「分解」し、解が求める形に「再構成」するために知識を利用することと仮定してみましょう。

授業終了前5分間でアウトプットを行ったり、本時に学んだことを使う活用機会としての課題を与えたりすることは、こうした分解と再構成の機会を担保する(=思考機会を与える)ためのものです。

5分間アウトプットも、授業後に取り組む学びの仕上げと拡張も、授業設計において配列すべき活動の一種と考えることが大切です。

活動を配列するときに考えるべきこと(その4)


❏ 思考力の獲得は、課題解決工程を生徒が経験してこそ

授業の中で、思考力を育てようとするなら、この分解と再構成のプロセスを生徒自身に経験させる必要があります。

所与のテクスト/問題文を読み、そこに含まれる情報を切り分けて(=分解して)、問いが求める答えの形に組み直す(=再構成する)という課題解決こそが、思考を経験する場となります。

先生が、丁寧に教えて題意の理解から、解法の立案、答えの仕上げまでを肩代わりしては、思考の過程を生徒は自ら体験したことにはならず、与えられた答えを覚えるだけになってしまいます。

問題を与えて、解き方/答えにたどり着くまでの工程から生徒自身に考えさせる学び(=PBL:課題解決型学習)を指導計画の中にしっかり設定しているかどうかは、生徒が思考力を獲得できるかを左右します。

とはいえ、学習者としてのステージが初期段階にあるときから、「さあ、考えてみよう」では生徒もどうしてよいものか戸惑うばかりです。

最初のうちは、問題文に書かれている(=生徒の目に見えている)ことを起点に一つずつ問いを立て、考える手順を見せていく場も必要です。

解決までの工程を小さなステップに分けて、思考を重ねる方法を学ばせることが目的ですから、くれぐれも「正解ありき」で教えてしまうことのないようにしたいものです。


❏ やらせてみないことには、育成も評価もできない

生徒が自力で何とかなりそうなら、まずはやらせてみましょう。やれせてみもしないうちに、生徒の可能性を低く見積もってはいけません。

 ■ できない? やらない? やらせてない?

例えば、
  • 例題とその解説を読んで、理解できたら類題を解きなさい。
  • 教科書と資料集を読んで、○○とは何か80字で説明しなさい。
といった指示を出すだけでも、生徒は思いのほか動いてくれます。

英語や古文、現代文でも、先生が本文を説明してくれるのを待っているだけでは、生徒には「自ら思考する機会」が持てません。説明して理解させる前に、いきなり本文に問いを立てて、答えを考えさせるというやり方だってあるはずです。

問いがあれば、教科書や資料を読むにしても、目的意識が生まれます。

自力で教科書や資料を読んで答えを考えてみることで解消したい不明や掘り下げたい興味を見つければ、それ自体が「本時の内容を学ぶことへの自分の理由」になるのではないでしょうか。

一生懸命に考えてもわからなかったら周囲で相談OKというルールにしておけば、「わからない」という壁の前に立ち止まり、科目への自己効力感をすり減らすだけの無為な時間を過ごさせることも減ります。


❏ 解決の糸口を見つけ、考える材料を揃えたら…

課題解決に挑ませ、周囲との教え合い・学び合いやディスカッション、先生との問答を助けに、生徒が答えに至るプロセスを想像できたら、今度は答えの仕上げに個人のタスクとして取り組ませましょう。

協働で課題に取り組むと、なんとなく答えらしきものが空間に浮かび上がってきていますが、この段階にとどまっては自力で思考を辿ることができるかどうか定かではありません。

授業を通して得た知識や気づきを携え、一人になって課題に立ち戻り、答えをじっくり仕上げることで、思考を自分のものにさせましょう。

答えの仕上げに取り組むことで、解決に至る思考のプロセスをたどり直すことは、思考の方法と手順の定着を図ることにほかなりません。答えを仕上げる中で学びは深まるものです。

生徒が個人でできることを教室での学びと切り離すことは限られた授業時間を有効に使うにも有効かつ不可欠ですが、見方を変えれば、個人でできることを教室での学びで肩代わりしては、生徒自身の学びを確実なものにする(=生きて働く知識・技能や思考力などの獲得)ことの妨げにもなるということです。

教え合い・学び合い、話し合いは、いつまでもだらだらと引っ張らず、生徒が一定の気づきを得た段階で切り上げ、仕上げという個人のタスクに切り替えるようにしましょう。

対話の盛り上がりで満足してしまったり、「ダラダラやってもおしりを伸ばしてもらえる」と思わせてしまったらアウトです。


❏ 思考力を鍛えるのは、あくまでも教える前が勝負

思考力を鍛えようとするなら、答えを教える前が勝負です。単元内容を説明し始める前の導入フェイズで問いを与えることや、模範解答を示してしまう前に、授業で得た知識や気づきを携えて課題に向き合い直すことが、とても重要な意味を持ちます。

繰り返しになりますが、考えさせてこそ、考える力(思考力)が身につくのは当たりまえのこと。教えて身につくものではありません。

いかに先回りせずに、生徒がやるべきことを肩代わりしないようにするかが、新しい学力観の下での授業立案での重要な課題ということです。

■ご参照記事:
  1. 結論を出さずに終える授業
  2. 答えを仕上げる中で学びは深まる
  3. 授業を終えてからの学びの「仕上げ」と「拡張」
  4. 生徒の答案をシェアして作る学び(相互啓発)
  5. プロセスに焦点を当てた問い


教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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