新しい道具は、思考法や行動様式も変える

別稿「手を使って書き写すことの大切さ」で書いた通り、デジタル機器の普及で、手を使って書く機会はめっきり減りました。その影響は、手を使っての筆記が、キーボードやタッチバット、音声認識に置き換えられるという行動面での変化に止まりません。思考のありかたや、物事を考え出すときの手順そのものも変わっていきます。

普段の生活の中で使うことができる道具は、教室での学びやテストの場に持ち込んでこそ、時代が必要としている思考を育むことができるし、正しい評価も出来るようになると考えた方が合理的な気がします。

2016/03/15 公開の記事をアップデートしました。


❏ 道具の進化によって行動様式は変わるもの

ここ数年を思い出してみても、たいていはパソコンのキーボード。手で書いたのは打ち合わせ先でとったメモと、講演で使ったホワイトボードぐらいです。おかげで、すっかり漢字が出てこなくなりましたが…。

ワープロソフトのアウトライン機能を使うようになって、断片化していた発想や気づきに構造付けてひとつの考えにまとめる/書き出すときの効率は、以前の比ではありません。

構想を十分に練ってから書き始めるのではなく、思いついたことをランダムに入力してから順番を入れ替え構造化して、まとまったものに編み上げるというスタイルに変わりました。

私自身の極めて私的な体験ですが、道具が変わると行動やときには思考法も変わることの一例だと思います。


❏ 書くことに限らず、知的作業の進め方全般に変化が

電子書籍で本を読むときも、余白に書き込むことができないことに不便を感じることがありますが、しおりやブックマークが今よりもっと直観的な操作でできるようになったら、今感じている不便さなんて思い出すこともなくなるような気がします。

単語や用語を調べることもそうです。昔は辞書を片手で繰りながら、狙った頁を一発で開けるのを自慢にしていましたが、電子辞書が普通になった今では…。

用途別の辞書を持ち歩くのは、もはや筋トレ以上の価値はなくなりつつあるのかもしれません。

知識も蓄えておくことよりも、探し方や信頼性を評価するスキルに重きが移ってくるのではないでしょうか。


❏ 新しい道具を使ってこその可能性

道具の進化で、人がやることが変わるのは当然のこと。ある時期まで必要とされていた手技は、ある日を境に顧みられなくなります。

新しい道具に昔のスタイルとなじまない部分があると、情緒的な反応も相まって、昔からの方法の良さを過度に強調することもありますが、そんな部分は技術の進歩でやがて解消されていきます。

昔からの方法にこだわったり、情緒的に過度な価値を与え/美化したりするよりも、新しい道具を積極的に使う中で、今までは到達できなかったところを目指す方が建設的ではないでしょうか。

教室で統計やプログラミングまで学ばせている今、紙と鉛筆だけでは生徒が獲得しているものを学びに活かしきれませんよね。


❏ 問題の解決方法も変わっていく

関数をグラフ化できるソフトを用いれば、パラメータを変更しながらグラフの変化を確かめられますよね。

あれこれといじくりまわすうちに、「もしかしたら、こういうこと?」という気づきに至ることもあるでしょう。

紙に書いてじっと見つめているのとは、違った問題解決へのアプローチが生まれる瞬間かもしれません。

ノートの代わりにタブレットを用いるようになれば、従来とは異なる思考法を獲得する必要が生まれてくるということだと思います。


❏ 過渡期ゆえのむずかしさ

デジタル機器が全国の教室にくまなく普及し、機器の故障やネットワークトラブルから先生や生徒が開放されるのもそう遠くはなさそうです。

しかしながら、今の段階では、教室の中はまだまだ手を使って書く場面が大半であり、大学入試もいずれはコンピューター上で回答するのが普通になるでしょうが、まだ少し先かと思います。

タブレットやスマホを使って可能になる思考法と、紙の上で生徒が再現できる思考法との両方を考慮して指導と評価を考えなければならない状況が暫くは続きそうです。

過渡期ゆえのむずかしさにどう折り合いをつけていけば良いか、中々答えが見つかりませんが、ノート持ち込み可の定期考査という試みも見られるようになりました。

以前からのルールやしきたりに、本当にこだわる必要があるのか、冷静に考えないといけないような気がします。

≫ 「道具が変わっても必要であり続けること」に続く。

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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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