表現力を高める指導

表現力は、思考力・判断力とともに、学力の第2要素を構成します。高大接続改革では、思考力・判断力・表現力を正しく評価することがこれまで以上に求められますので、その指導機会の充実と方法の改善は現場で頑張る先生方にとっても喫緊の課題です。


❏ 記述・論述問題の添削指導を繰り返す前に

これまでも受験直前期を迎えると、個人添削に力を入れて実地の場面で表現力を鍛えていく方法が採られてきました。

指導の効果は確かに大きく、国公立大学を目指す生徒には欠かせない指導の一つです。

自分が書き上げた答案に朱入れをしてもらうなか、個々の答案のどこが良くて、どこをどう直せば良いかを学んでいくだけに、出題傾向がある程度定まっている場合には特に、進歩も早く効率的です。

でも、これから先、求められるようになるのは、記述論述問題での答案作成法だけではありません。

国公立大学受験者以外を対象に含み、様々な場面・様態での表現が求められていくことを念頭に、指導のあり方を考えていく必要がありそうです。


❏ 言語化(=表現力の発揮)の機会はあらゆる場面で設ける

他人に教えることが記憶の定着、理解の深化を図る上で有効とされるのは、様々な研究でも明らかになっているようです。

説明を聞いたり調べたりする中で理解したことを、言葉にして表現する「言語化」 は、理解や思考の過程での見落としに気づくために欠かせません。また、獲得した知識・理解の定着にも大きく貢献します。

普段の授業の中でも、隣同士で説明し合う場面、意見を述べあう場面を継続的に経験させることは、今後ますます重要になりそうです。


❏ 口に出す言語化は、文字に起こすことで補完を

如上の場面は、多くの教室でペアワーク、グループワークという形で実現されていますよね。

でも、口頭で表現したものは時間の経過の中で姿を消していくだけに、点検・評価には向かないことを、教える側は常に認識しておく必要があります。

言語化の機会は十分に整えているのに、表現力の向上があまり見られないときは、そうした点検・評価がうまく働いていないことが疑われます。

文字に書き起こすことで自分の考えを客体化できます。また、時間をかけて吟味・推敲することで、表現の質は大きく高まります。

大人でも、前もって文字に起こす工程を挟んだときと、いきなり口頭で話をするときとでは大違いですよね。

文字に起こして点検する工程を挟むことで、まとまり具合や論理性など発表の質が大きく変われば、生徒は自信を深め、確かな達成感を味わうことで表現へのモチベーションを持つようになるのではないでしょうか。

逆にうまく表現できなかった体験を重ねるだけでは、表現機会から遠ざかろうとしてもやむを得ないところ…。

隣同士で説明し合う場面の前に、少しの時間を採って、手元でアイデアを文字にさせることで、好適な循環を作りたいものです。


❏ 公開添削で、答案を客体化・相対化する能力と姿勢を

冒頭で、個別添削が効果的であることに触れましたが、公開添削には別の大きな効果が期待できます。

良いところと改めるべきところを併せ持った答案を選び、板書やプロジェクタで生徒全員に見せながら、朱入れをしていきましょう。

なぜ、その部分に朱を入れるのか理由を添えて具体的な直し方を見せていくことで、生徒は徐々に推敲の方法や着眼点を学んでいきます。

ただし、先生から一方的に「正しい朱入れ」 を示すだけでは不十分ですよね。

生徒に問い掛け、改めるべき箇所に気づかせ、なぜ好ましくないのか理由を考えさせなければ、生徒自身ができるようにはなりません。

できるようになってもらいたいことは、やらせるしかないのはあらゆる場面で共通です。

良い答案と悪い答案を見比べさせる機会も整えていきましょう。ひとつの答案を見ているだけでは、相対化ができません。

特に、学習者としてのステージが初期にある場合は、比べることが良い点・悪い点を捉える上で欠かせないきっかけになります。


❏ 採点基準を適用する練習も積極的に

小論文や総合問題だけでなく、各教科のテストでも、答えが1つに決まらない問題が出題されることが予想されます。

こうした問題には、正解/模範解答との異同で減点していくという手法が取れません。
  • 主張が明確に示されているか
  • 論証は十分か
  • 客観的事実に論拠をもっているか
  • 反証を予想できているか
などの観点を定め、それぞれに段階的充足表見を規準として書き出した「採点ルーブリック」 を用いた採点に切り替えが進みます。

生徒が自己採点できるのは、正解と同じか違うかという水準に止まることが多く、如上の採点基準を適用できるようにするには、そうした場面を実地に経験させるしかありません。

前述の公開添削を機会として、採点基準の適用を経験させていきましょう。先生からの問い掛けで、生徒自身に考えさせ、他の生徒の発言などからも刺激と啓発を受けていく中で、基準・規準を理解して適用する力を養う唯一の方法になるのではないでしょうか。


❏ 先生がすべての工程を肩代わりしては、成長の機会を奪う

如上の指導機会を通じて、どうしてそのような規準が必要なのか合理的な説明を生徒自身ができる状態を最終的には目指したいところ。

ここまで到達できないければ、初見の問題に対して、求められているものを把握することはできません。

問題の趣旨を生徒に代わって説明して上げたり、生徒が書きあげたものを丁寧に添削して上げるだけでは、獲得させたい能力に近づく機会を生徒が持てないということです。

これは表現力の育成に限ったことではありません。生徒にやらせるべきことを不用意に肩代わりしないことを常に念頭において指導を計画したいものです。


教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一


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