活動させるのは観察のため~「観察の窓」を開く

授業の中で、生徒は様々な活動に取り組みます。生徒を活動させることには、自ら考えて行動する中で体験を知識や理解に再構成する機会を持たせることや、理解や思考の結果を言語化する中で学びをより確かなものにすること、対話による気づきの交換の中で思考を拡充し正しい判断を行うための広い視野を得ることなど、様々な目的があります。

教える側/学ばせる側である先生方にとっても、生徒が活動する場を整えることでしか、生徒の頭の中で起きていることを観察・把握する機会を持ちえません。活動させるのは「観察の窓」を開くためです。

授業内での活動性を高めることには、苦手意識を抑制する効果もあります。生徒が話し合ったり、行動したりする場を持ち、その様子を観察することで躓きや誤解をいち早く察知し、後手を踏まない対応が取れることが、その理由であると考えられます。

2016/04/12 公開の記事をアップデートしました。

❏ 問いや課題を与え、考えを言葉にさせてみる

先生の説明を黙って聞いている生徒の姿を見ているだけでは、どこまでわかっているのかも、どこに疑問が生じているのかも把握は困難です。

問いを投げかけたり、課題を与えてみたりすることで、生徒を動かし、観察の場を持ちましょう。

学習内容を正しく理解したかを、与えた問いにどんな答えを導き出すかで把握するという作戦です。

仕掛けてみないことには、相手の胸の内/頭の中はわかりません。対人競技ではフェイント(誘い)をかけて相手の動きを見て、どこを狙っているかを探ったりしますが、それと同じようなものです。


❏ ペアワークやワークシートへの記入が観察のチャンス

隣同士で互いに考えたことを話し合わせてみれば、そのやり取りに耳を傾けることで、理解の様子や思考の進み方もかなりのところまで把握ができるはずです。

ノートやワークシートに考えたことを書き出させてみれば、手元を覗き込んでみることで同様の観察ができます。口頭でのやり取りだけでは、じっくり考え表現するのが困難な「ちょっとヘビーなタスク」なら、書かせて覗き込むというやり方に分がありそうです。

なお、ワークシートをその場で覗き込まず、後で回収してからチェックというやり方では、理解の確認や思考の把握のタイミングを逸します。別稿でも申し上げた通り、理解確認の鉄則の一つは「その場で」です。

タブレットに答えを書き込ませるようにすれば、先生が教室内を歩き回る必要すらなくなりますし、その方法に慣れておけば、オンラインでのリモート授業でも生徒の理解確認に苦労することも減るはずです。


❏ 評価の機会を作るにも、生徒の活動は不可欠

今後、「読んで理解したことをもとに考え、その結果を表現する力」の育成はこれまで以上に重要な課題ですが、生徒がどこまでその力を身につけているかも、行動させてみないことには観察も評価もできません。

例えば、理科の実験や家庭科の実習などで手順を説明書にまとめて生徒に自力で読ませたとしましょう。

正しく理解した生徒は、こちらの想定通りに行動を組み立てて見せてくれるでしょうが、中にはトンチンカンなことをする生徒もいるかもしれませんし、注意点を見落としてドジを踏む生徒もいそうです。

指示書を自力で読んで正しく理解し、それに基づいて行動を自ら考えるというタスクを課すことは、そこで必要な力を養うことにも、その獲得状況を把握して事後の指導を最適化するにも欠かせません。

手順を一つひとつ先生が丁寧に説明し、失敗させないようにがっちりガード、というやり方では、これらの要請に応えるのは困難に思えます。


❏ せっかくの観察チャンスを逃さないために(留意点)

・生徒一人ひとりが十分に思考を巡らせる間を確保

せっかく発問しても、間をおかずに一人の生徒を指名しては、他の生徒の様子を探るチャンスを逃します。そもそも他の生徒が指名されたら、たいていの生徒はそこで自分の思考をとめてしまいます。

生徒を指名するのは、クラス全体に問いを投げかけ、生徒を動かし、じっくり観察してからです。(cf. 生徒を指名して発言させるとき

・活動に取り組めるだけの前提条件をきちんと整備

タスクを与えて取り組ませるにも、前提となる知識や理解が確保できていない、目指すべきところの把握などができていない状態では、生徒は行動を起こしようがありません。

固まられてしまったら、「観察の窓」も閉ざされたままですよね。

ただし、前提を確保するにも、先生が一から十まで教えては生徒の頭で思考は動き出しませんし、行動に現れるのも「従った結果」だけです。

タスクの実行に必要な道具立てを、生徒がアクセスできるところ(教科書、副教材、相談できる周囲のチームなど)に確保することと、何を目指しての活動なのか、到達点を明示することなどがここでの要件です。

  • 必要な道具立てを整え、使いこなす力も「適応型学習力」の一つとして、生徒に獲得を目指させるべきものです。先生が不用意に肩代わりして、トレーニングの機会を奪わないようにしましょう。

  • ゴールがイメージできてこそ、どうやってそこに到達するべきかを考えることができ、そのトレーニングもできれば、実際に取った行動を観察することで、工程を考える力も評価できます。

到達点の把握は、タスクが「解くべき問い」なら、その答えを導き出すことがゴールなので、追加の対処は特に必要ありませんが、取るべき/期待される行動、習熟すべき技量などが到達目標である場合、チェックリストやルーブリックなども上手に活用する必要がありそうです。

 ■ チェックリストを用いた目標提示と達成検証
 ■ ルーブリック評価の作成と運用

・活動させているときは観察に集中

せっかく生徒が活動しているのに先生は教卓で次の手順の準備中という場面も見かけなくはありません。ちょっともったいない気がします。

観察の窓は、開きっぱなしではなく、観察のチャンスは貴重です。生徒に活動させているときは、観察することに意識を集中させましょう。

誰を指名して発言させるかを選び出すにも、観察は不可欠です。生徒同士のやり取りにしっかり耳を傾ける/何を書いているか手元を覗き込むようにしましょう。



生徒が集中して話を聞いている/真面目に考えている様子であっても、こちらの意図した通りに思考が働いているとは限りません。外から様子を見ているだけでは頭の中を探りようもなく、相手が動くように仕掛ける以外に観察の窓を開く手はなさそうです。

将来、科学技術が進歩して、非接触型の脳波センサーみたいなやつで、相手の考えが正確に把握できる時代も来るかもしれませんが…。(それはそれで「いやだな」と思うのは、個人的感想です)

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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