記憶に格納する知識、外部参照する知識(その1)

教育の強靭(じん)化に向けてと題する文部科学大臣メッセージが発信されたのは平成28年5月10日のことでした。「討論や発表などを増やすことが結果的に覚える知識量の減少につながる」といった各方面からの懸念に対し「脱ゆとり」路線の再確認を行う必要があったためです。

そこでは、「人工知能(AI)の進化など情報化・グローバル化が急激に進展する不透明な時代をたくましく、しなやかに生きていく人材を育てる」という主旨のもと、
  • 知識と思考力の双方をバランスよく、確実に育む
  • 学習内容/知識の量を削減しない
という学習指導要領改訂のポイントが示されています。

2016/05/13 に公開した記事をアップデートしました。


❏ 効率化と“残業”以外の解決策を

科目の新設(「歴史総合」「地理総合」「公共」「理数」)や再編、総合的な探究の時間など、やることが増える一方で、それらを扱う授業時間はこれ以上増やせる状態にはありません。

 cf. 高等学校学習指導要領の改訂のポイント(文科省HP)

単純に考えると、解決策は
  1. 無駄を省く(効率を高める/重なりをうまく利用する)
  2. 授業の外に持ち出す(家庭学習)
  3. やるべきことに軽重をつける(取捨選択)
の3つでしょうか。

カリキュラム・マネジメントは、指導計画のみならず、日々の授業をデザインする中でも求められ、その巧拙が3ヵ年/6ヵ年の指導成果を大きく左右することになりそうです。


❏ 知識を2つのタイプに分けて考える

各科目の年間指導計画を練ったり、日々の授業をデザインするときに必要な発想は「知識には2つのタイプがある」ということだと思います。

1つは、個人の記憶の中に格納されているもの

こちらは「認知の網」の大きさと密度を決めるものであり、外部参照の手段を上手に使うためにも欠かせません。

人の脳は、理解しているものしか認識しませんから、一定水準の知識は、きちんと理解させた上で、その定着も図らなければならないのは、厳然たる事実でしょう。

ブレークスルーを起こすのは、蓄えられた知識と発想ですので、対話的な学びで発想の拡充を図る一方で、知識の充填も欠かせません。

2つめは、必要に応じて外部を参照して利用するもの

なんでもかんでも覚えれば良いというのもではありませんし、覚えてしまえばそれでOKという訳でもありません。

科学の進歩、学問の進展、社会の変化で、知識は加速度的に増えていきます。とても覚えきれるものではありません。

知識は増大すると同時に、日々更新されていますので、覚えた端から古くなることだってあります。つねに最新の情報・知識を利用できることの方が大切ではないでしょうか。


❏ 外部参照を使うには「記憶に格納した知識」 が必要

現代でもスマホやタブレットを使えば、WEB上の膨大なデータベースを持ち歩いているようなものです。

少し時代が進めば、体に埋め込んだチップひとつですべてのデータベースと通信ができるようになるかもしれません。

解決すべき課題を目の前に適切な外部参照を行うには、頭の中に参照の糸口となる知識や理解が欠かせません。

課題に含まれる情報を「記憶に格納された知識」 に照らして分解し、理解の及ぶ範囲で情報を検索していくときに、それまでに学んでいたことが土台となるのは言うまでもありません。

すべての教科をかっちり学んで認知の網を張っておくことが、書籍やWEB上のデータを有効に利用するための土台です。


❏ 外部参照のきっかけを作るのは解決すべき課題の存在

知識や情報を、文献やWEB上のデータベースに求めようとするのは、何か解決しなければならない課題を抱えているときですよね。

暇つぶしに図書館に行って書架の前をふらふらするのも楽しいのですが、忙しい高校生に「暇を作って図書館でつぶして来い」 といっても中々動いてはくれません。

課題解決に向けたプロセスを踏む中で、外部の知識・情報を参照しなければならない場面に遭遇させることが大切です。

玉石混交、真偽不明の情報の塊から、信頼に足る情報、眼前の課題を改善し得るものを選び出す力を身につけるのも、そうした機会を通してのことです。

情報を参照/評価/選択するスキルがどれだけ身につくかは、課題解決の場を作り、どれだけ思考に向かわせるかにかかっています。PBL(Project Based Learning「問題発見・解決型学習」)の要素を授業に採り込む必要があるのは、そのためです。

 ■ 教え込むより、調べさせて気づかせる
 ■ 学習方策は課題解決を通して身につく


❏ 参照頻度の高いものは、覚えてしまった方が効率的

参照して手に入れた知識を繰り返して用いる必要があるなら、いちいち調べる手間をかけるよりも、覚えてしまった方が効率に優れます。

こうした、使用頻度が高く、様々な課題に対して解決の道具に使える/使う必要があるものが「記憶に格納しておくべき知識」です。

覚える場面を授業内外に設ける必要がありますが、それは小テストの繰り返しでも、暗記の奨励でもないような気がします。

わざわざ覚えることにエネルギーを投じなくても、参照を繰り返せば、再記銘が図られ自ずと記憶は保持され、想起もできるようになります。

授業で一度教えた/学ばせた知識を学んだ時の記憶とともに手繰り寄せる必要を作ってあげるだけでも再記銘の機会は作れるはずです。

 ■ 既習内容の確認は、問い掛けで


その2に続く
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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