記憶に格納する知識、外部参照する知識(その2)

脱ゆとり路線を維持しつつ、主体的、対話的で深い学びを実現し、思考力・判断力・表現力とともに主体性・多様性・協働性を獲得させるという課題に、これ以上授業時間を増やす余地がないという状況下で挑むには、何をどこで学ばせるのかを戦略的に判断する必要があります。
  • 無駄を省く(効率を高める/重なりをうまく利用する)
  • 授業の外に持ち出す(家庭学習)
  • やるべきことに軽重をつける(取捨選択)
といった対策を組み合わせることになりますが、その際の前提のひとつが、記憶に格納する知識と外部参照する知識の線引きです。

2016/05/16 に公開した記事をアップデートしました。


❏ 外部の知識を参照する力、情報を素早く集約する力

記憶に格納する分だけで、すべての課題の解決に必要な知識や理解をカバーするという発想そのものに無理と矛盾があります。

課題解決のプロセスの中で、その場の必要に応じて外部のソースを参照して補うというスタンスで臨むのが好適です。

大学入学共通テストで求められる読解力でも書きましたが、新テストの試行問題を見ると、細かな知識の有無よりむしろ、
  • 設問文や資料/本文を素早く読んで情報を集約する力
  • 正解を導く上でどの情報を参照すべきか判断する力
を試すことに比重を置いた出題が随所に見られます。

導いた結論が何かよりも、どうやってその結論を導くかに焦点を当てた問いも、思考力や判断力を試そうとの意図の中で、今後の増加が見込まれます。

資料集など様々なソースに当たらせ、眼前の問いに答えを導くのに必要な情報は何かを判断させる練習の必要性は、確実に高まりそうです。

普段の授業の中でも、資料を読ませたり、必要なデータを探させたり、あるいは参照型教材を徹底して使い倒すことを生徒に求めていくことが、大学受験への対応力を高めることにも繋がります。


❏ 知識と情報を組み合わせて作り出す新たな"知識"

記憶に格納するもの、外部を参照するものという2つのタイプに加えて、課題解決に必要な道具(知識・理解)の拡張を図るにはもう一つ、「その場で導き出す」というアプローチもあります。

記憶の中に格納しておいた知識と外部参照で入手した知識を組み合わせて新たに生成される理解もまた、仮説として検証されれば、それは新たな“知識”になります。

知識という言葉を当てるのに違和感もあろうかと思いますが、現在、定理や法則として知られているものも、もとをただせば、こうしたプロセスを経て得られたものではないでしょうか。

急激に社会が変化する中で、新たな知を生成する方法を学ぶ必要があるからこそ、新課程では探究的な学びの場の拡充が図られたのだと考えるべきです。

現象を観察して法則を見つけ、それを仮説として検証するという「探究のプロセス」を身につける場はプログラム化された探究活動だけに限られません。各教科の日々の学びに組み込まれた課題解決型学習もまたその大切な機会です。


❏ 知識は記憶に格納するものという固定観念から離れる

高大接続改革やその先にある本丸たる次期学習指導要領に向けて、
  1. 記憶に格納する知識
  2. 外部を参照して利用する知識
  3. 思考を通じて導き出す知識
という区分を常に念頭におくことは益々その重要性を高めるはずです。

授業をデザインするときには、それぞれに応じた適切な扱いを考えていくようにしましょう。

繰り返しで恐縮ですが、必要な知識は「すべて教えて、覚えさせる」 という考え方は、生徒にも先生にも過剰な負担を与えるだけでなく、課題発見・解決の力を高める上で障害になりかねません。

生徒に挑ませるには高いハードルに思えるかもしれませんが、やらせてみれば、案外できるものです。くれぐれも、できることはどんどんやらせる~生徒の邪魔をしないようにしたいものです。


❏ ICTの活用力を含めた総合的なコンピテンシー

高大接続改革の一環で、CBTも広く用いられるようになっていくものと思われます。紙と鉛筆を使う試験はそう遠くない未来には、すでに主流ではなくなっているかもしれません。

その先に想像されるのは、テストの最中にPC/タブレットを使って、データの収集や統計処理を行ったり、グラフを描きながら解法を考えたりする場面です。

現在でも、大学生以上ならアイデアを考え、企画をまとめるのにパソコンを使うのが当たり前です。ICT機器がこれだけ身近なものになったのに、テストの時だけ使用禁止というのは却って不自然です。

様々なガジェットを用いて先端技術も好きなだけつかったときに発揮できる能力の総体が、入試などの選抜に際して測るべき「その人の能力」と考えるのも将来的には一般的になってくるかもしれません。


❏ カリキュラム・マネジメントの実現に向けて

ひとことで「知識」と括っても、格納場所や活用方法において様々なタイプがあります。

教え込んだり、覚えさせたりすれば良いものだけでないことは、既にご理解いただいたものと思います。

各教科・科目を学ばせるときには、知識の獲得、情報の収集、それらの活用、処理や加工といった場面の切り分けをしっかり行わないと、学びのあり方を歪めてしまうリスクがあります。

タイトルにある「記憶に格納する知識」と「外部参照する知識」の区別は、その第一歩。覚えることと思考や判断に活用することのバランスを整える上でことのほか重要だと思います。

以下の拙稿も併せてお読みいただければ光栄です。
  1. 知識の獲得は個人の活動を通じて
  2. 2020年対応型の"予・復習と授業のサイクル"
  3. 知識をどこまで拡張するかは個々のニーズに合わせて


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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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