互恵意識で結ぶ学びのコミュニティ

一人ひとりが意欲をもって学び、生徒が互いを支え合う、互恵意識で結ばれた学びのコミュニティを作り上げることは、ホームルームの担任に限らず、各教科の授業担当者としても切なる目標の一つだと思います。

新学期スタート後の数週間は、好ましい学びのコミュニティを作れるかどうかを決める大切な期間です。どんな手立てと見通しでコミュニティ作りを進めていくかしっかり戦略を立ててから新年度を迎えましょう。

互恵という言葉が含意するところは広範ですが、教室での学びに絞って定義を試みるなら、「叩き台」はこんなところではないでしょうか。
  • 対話などを通し、生徒が互いの学びに好ましい作用を及ぼし合う。
  • 互いの意思や努力を尊重し、邪魔しない/助けとなる行動を取る。

難しい概念ですので、先生が言って聞かせるだけで最初から生徒が言葉の意味を正しくイメージできるとは限りませんが、実際に互恵が働く場をある程度経験させつつ、折あるごとに言葉の定義を試みる活動などに取り組ませていけば、互恵の意識も徐々に根付いていくと思います。

2016/06/02 公開の記事をアップデートしました。

❏ 対話的な学びは、生徒間の互恵で成立する

新課程が求める「深い学び」の実現には、発想や知識などの交換を通した気づきの拡充、対話的な学びの要素が不可欠です。

一人ひとりが持てる知識を総動員し、思考を尽くし、課題解決に向けた協働に積極的に関わろうとすることで、交換される気づきの量は大きくなり、そこでの学びはより広く、深いものになるはずです。

対話的な学びそのものが、生徒間の「互恵」の産物ということです。

共に学んでいるとの意識を欠き、他のメンバーの成果に乗っかるだけのフリーライダーは、チームに何の貢献もしないばかりか、ときには場をしらけさせるだけの存在にもなりかねません。

生徒が自分事として向き合える適切な課題を用意し、導入フェイズの仕掛けで学ぶことへの自分の理由を見出させるのが先生方のお仕事です。

また、わからないでいる生徒が周囲にいたとき、関心を向けることもなく、何の手も差し伸べないでいたら、対話への参加者が減り、その後の学び/対話で交換される発想も細っていくばかりです。

学びの場に生徒一人ひとりが積極的に関わろうとすることで、学びの場での「互恵」は(たとえ生徒が意識しなくても)より強く働くようになり、コミュニティ全体の学びをより大きく深いものにすると考えます。

自らの頑張りで、コミュニティに貢献できたという「快体験」は、また次回も貢献を果たしたいとの欲求を生徒の内面に生み出し、互恵意識を強化するサイクルを作り出していくと思います。


❏ 教え合い・学び合いは「互恵」の一形態

互いの学びにプラスを生じるという意味では、「教え合い・学び合い」は最も単純な形での互恵ということができるかもしれません。

必要な知識が欠落している事態なら、既に理解している生徒がわからないでいる生徒に教えてあげれば解消できますし、時と場所を変えて立場が入れ替わることもあるでしょう。

教える側に回ったときは、自分の中にある理解を他者に伝える形に整理し直して適切な表現を与えようとする中で理解の深まりを体験します。プラスの作用は双方向に働いていますので、まさに「互恵」ですね。

課題解決に協働で取り組む中で、互いの発想や考えに触れて、それぞれが自らの内に新たな考えを構成していく「学び合い」もまた、学びの場での互恵の一形態です。

教える役割を担うものがいないところ/教えるべきこと(正解など)が存在していないところでも、協働で解決すべき課題と、共にそれに取り組むメンバーが存在すれば、相互作用の中でそれぞれが新たな知を獲得し、理解を深めていくところに「学び合い」が生まれています。

生徒の答案をシェアして作る学び(相互啓発)なども、直接的な対話は必ずしも必要としない形での「学び合い」と言えるはずです。


❏ 協働性の獲得は、協働を体験させてこそ

学び合いという形の互恵は、たとえメンバーがコミュニティへの貢献をことさら意識していなくても、周囲と協力して課題を解決しようとする姿勢を持ちさえすれば生まれ出てくるものです。

建設的で効果的な対話を実現するには、グループを構成するメンバーが相応の協働性(協働の場で求められる姿勢や資質)を備えている必要もありますが、その姿勢や資質もまた、生徒が協働での課題解決を経験する中で、徐々に獲得が進むものだと思います。

目の前におかれた課題に解決策を導き出すという共通の目的を持ち、互いに協力し合って努力する中で、生徒は協働の場での好ましいふるまいも身につけていくでしょうし、その楽しさも学んでいくはずです。

日々の教科学習指導でも、学級における係の仕事などでも、生徒が協力し合って取り組むタスクを与えることが、協働性や互恵意識の涵養に繋がることを常に意識して日々の教育活動の設計に当たりましょう。

ただし、場を作るだけで「後は成り行き任せ」では、資質や姿勢の獲得も不確かなものになり、学びの場での互恵が十分に働かなくなることもあります。生徒の活動を注意深く観察するとともに、評価や助言を通した「方向修正」を怠りなく行いたいところです。


❏ 互恵が働くのを妨げる要素を取り除く

生徒が互恵を働かせる学びの場の創出に力を入れると同時に、その発動を阻害する要因はできるだけ取り除いていきたいところです。

相手の立場を考え、その意思や努力を尊重することの大切さをしっかりと伝えつつ、一人ひとりのふるまいが、良きにつけ悪しきにつけ、共に学ぶ周囲に影響を及ぼすという意識を生徒に持たせましょう。

相手の頑張りをないがしろにしたり、(意図せずとも)邪魔したりしては、互いの学びにマイナスの作用を及ぼすばかりですし、場のルールを守らなければ互恵を妨害することになります。

学びの場(=教室)で守るべきルールも、「与えて守らせる」だけでなく、なぜそのルールが必要なのかを考えさせることが大切です。根源的な目的を理解していることは、様々な状況下で互いの学びや努力を尊重するのにどんな行動が望ましいのか判断できるための前提です。

 ■ 生徒に考えさせる授業規律授業規律VS学ぶことへの自分の理由

また、先生を「扇の要」とする、生徒と先生の一対一の関係が過度にきっちりと作られてしまうと、不明が生じたときに生徒は「先生に質問する」以外の選択肢を持たなくなり、互恵が働く機会を減らします。

不明の解消を図るときにも、質問に丁寧に答えることより、自ら調べて新たに知を編む力を育んだり、共に学ぶ仲間に相談させることで生徒間の学びの互恵を働かせることに注力したりすることを優先しましょう。

 ■ 自力で学ぶ力を育むのに重要な、最初に選ぶ”対話の相手”
 ■ 質問に答えて不明を解消してあげる前にやるべきこと

専門家である先生の言葉より、共に学ぶ仲間が理解/咀嚼したものを自分の言葉で表現し直したときの方が理解しやすいことだってあります。生徒にとって先生がベストティーチャーとは限りませんし、互恵で生徒を結ぶことを優先するなら「介入は最小限に」ではないでしょうか。

先生がすべてを担うという考えから離れ、生徒同士の支え合い・学び合いを積極的に利用させることが、互恵意識や相互啓発の働く「望ましい学びの場」を作り得ると考えます。



成長の場には、生徒相互の刺激/啓発が不可欠です。教科学習指導の場に限らず、ホームルーム活動や学校行事、部活動などあらゆる教育活動を「生徒を互恵意識で結び、相互啓発を働かせる場」にしましょう。

 ■ 海外も注目している日本の”トッカツ”

生徒が互いに刺激し合い、ともに成長するクラスを実現すれば、各教科の学習指導の成果がより大きなものになるのは、別稿「教科学習指導の土台はホームルーム経営」でデータを使ってお示しした通りです。

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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