総合的な探究の時間
先行研究で得られた知見を活かして、より良いプログラム作りを進めるフェイズを迎えますし、既に行われている実践の中から優れた成果を上げた指導例を抽出・共有し、先生方の協働でさらにブラッシュアップしていく「指導法の改善」にむけたサイクル作りも欠かせません。
各地でのここまでの取り組みを拝見していると、探究的な学びに必要となるスキルや姿勢のピックアップや整理が十分に行われていないことに起因して、有効な指導法の開発に向けた協働がうまく機能していないケースが多いように感じます。
探究活動における評価(成果、取り組み)の方法や、成果発表会などの運営にも、大なり小なり課題が残っているのではないでしょうか。
先行導入期間を終えて新課程での正式/本格的な導入まで、残すところ1年です。プログラムの開発だけでなく、「指導者スキルの向上を目指した研修」「評価方法の開発と運用」「カリキュラム全体の中での総合的な探究の時間の位置づけ」といったところまで視点を広げ、これまでの成果を改めて点検していきましょう。
(前回更新:2018/12/11)
学習指導、進路指導、探究活動で作るスパイラル
学習指導と進路指導という二本柱をしっかり立てれば成立したのがこれまでの指導計画でしたが、次期学習指導で加わる探究活動を組み込むには、単純にもう一本の柱を立てれば済む話ではありません。三つを組み合わせたスパイラルの形成が必要です。効果測定とスクラップ&ビルドの徹底を図ると同時に、様々な教育活動・指導場面を相互に関連付けて重ね合わせを上手に利用するという発想が欠かせません。
探究から進路へのきっかけを作るプラスαの一問
探究活動のテーマ探しは、生徒にとって大仕事。興味の持てるテーマや突き詰めるべき問いが見つけられずに迷う生徒も少なくありません。自分が何に興味を持っているかなんて、実際にそれに触れてみるまでわからないものです。その機会を作り出すのは、各教科の学習指導の中で先生方が発するプラスαの一問です。 教科書内容を少しはみ出した問いをひとつ教室に投げかけてみることには大きな意味があります。
探究を軸に教科の学びをつなぐ
各教科の学習を重ねる中で、生徒は教科固有の知識や技能、考え方を学習・獲得していくだけでなく、「汎用スキル」と呼ばれるものや「学習方策」などもまた生徒の内に形成されていきます。探究で必要とする力を想定しておき、それらを各教科がそれぞれの強みを生かして授業の中で養っていくべきであり、同時に、探究を進める中で生徒がどんどん身につけていく新しいスキルを各教科の学びで利用したいものです。
探究活動を通して養う"ファクトフルネス"
思い込みを乗り越えデータを基に世界を正しく見る習慣の大切さを改めて感じることがしばしばです。大切さに気付くのに年齢制限はないでしょうが、自らの進路を考え、社会にどう関わるかを探ろうとするときまでに気づけるかどうかはその後を大きく分けそうです。探究活動や課題研究の中にそうした気づきの機会を作り出していきましょう。
調べたことの先に~新たな知と当事者としての関わり
思考力や表現力を高める様々な取り組みが進んでいます。その先にあるのは「考えたことを実際の行動に移し、その中で役割を引き受けさせること」ではないでしょうか。課題を与えてその解決策を考えさせたところで、行動プランをまとめただけでは絵に描いた餅です。当事者としての覚悟と行動に結びついてこその課題研究や探究活動だと思います。
"探究活動の作法"を学ぶ機会は整っているか
調べ学習との違いを十分に認識していなかったり、自らの進路やこれからの学びとの接点が意識されないまま、カッコつきの「探究活動」に取り組んでいる生徒がいます。探究活動の進め方や守るべき「作法」を学ぶ機会がなかったことが原因かもしれません。探究活動の方法に関する参考書を一冊持たせ頻繁に参照させたり、過年度生が残した論文を教材に作法を学ばせる指導機会を整えたりする必要がありそうです。
中学での経験を踏まえて考える「高校での探究活動」
高校に入学してきた生徒が、小学校、中学校で何を体験してきたか、意外と把握できていないもの。指導はすべからく、現時点でできていることと最終的にできるようにさせたいことの差分を埋める活動です。小学校・中学校で生徒たちが何を経験し、どんなことができるようになっているかを把握しないことには、高校での指導は設計できません。
探究活動の目的から考えるテーマ選び
探究活動が目的とするところは、生徒たちが向き合っている/向き合うことになる様々な課題を解決するのに必要な「新たな知」を生成する方法を学ぶことと、興味を深める中で新たな疑問や解くべき問い(=学ぶことへの自分の理由)を作ることです。ここに隠されているキーワードは「自分の未来を拓く力」かもしれません。生徒にテーマを選ばせるときの指導で自分の未来との関りを探らせているでしょうか。
探究型学習を使った進路指導(全6編)
探究型学習を通して、興味を持てる学問・研究や社会の取り組みを見つけ、そこから具体的な進路希望を作っていく生徒がいます。将来の職業をターゲットにして逆算的に作ったルートに乗せる指導に限界が見える中、キャリア教育を補完する、あるいはその一部を置き換えるものとして、探究型学習の可能性は大きく広がっているように思われます。
学部・学科調べに、学問探究という入り口も
学問の細分化と学際の拡大で既に学科名は3,000近くも存在します。 従来型の学部・学科研究は通用しにくくなりました。科学技術振興機構の学会名鑑では平成28年現在、学会の総数は2,009です。同名鑑からリンクを辿ると、それぞれの成り立ちが読め、どんな研究者がいるかも覗けます。様々な分野で活動を展開する研究者の営みに触れることは、社会が取り組む課題に自分がどう関わるのか考える契機になり得ます。
ジャンル別記事インデックス「探究活動、課題研究」
前回のアップデートにおける追記(再掲):
小中学校での「横断的・総合的な学習」で視野と興味のすそ野を広げ、高校での「探究的な学習」はその土台に立ち、自己の在り方、生き方と一体的で不可分な課題を自ら発見し、解決していくような学びを展開する(新学習指導要領解説「総合的な探究の時間」)ことになります。
中教審のワーキンググループが、高校の「総合的な学習の時間」の名称を「総合的な探究の時間」に変更する案をまとめたとの報道があったのは2016年6月17日のことでした。その後、2018年7月公示の学習指導要領解説でその具体的な内容が明らかになります。今回の改訂では、科目の名称が変更されただけではなく、古典探究や地理探究、日本史探究、世界史探究、理数探究基礎及び理数探究といった科目も新設されており、まさに「探究」のオンパレードです。
上記解説の p.6 には、従来の総合的な学習の時間について
- 全国学力・学習状況調査の分析等において、総合的な学習の時間で探究のプロセスを意識した学習活動に取り組んでいる児童生徒ほど各教科の正答率が高い傾向にある
- 総合的な学習の時間と各教科・科目等との関連を明らかにすることについて学校により差がある
- 探究のプロセスの中でも「整理・分析」「まとめ・表現」に対する取組が十分ではない
- 小・中学校の取組の成果の上に高等学校にふさわしい実践が十分展開されているとは言えない
2018年3月にパブリックコメント募集が終了した第3期教育振興基本計画の策定に向けた基本的な考え方にも目を通しておきたいところです。読んでの雑感を「第3期教育振興基本計画と総合的な探究の時間」に起こしました。お時間の許すときにご高覧いただければ光栄です。