新たな取り組みを始めるときの鉄則

学校に限ったことではありませんが、新しいことを導入しようとしたときには、きちんと踏んでおきたい手順というものがあるように思えます。目的の確認や効果の検証も不十分なまま、新しい取り組みの手順と方法だけ決めて拙速に「全生徒を対象にいっぺんに実施」というのでは乱暴にすぎるのではないでしょうか。

拙稿「マニュアルありきでの指導にはリスクあり」でも書いた通り、
  1. 目的とするところの確認
  2. 効果測定の方法を決定
  3. それぞれが工夫を凝らし最善と思う方法で試行
  4. 効果測定の結果を比較し優良実践を抽出
  5. そこでの手法をベースに更なるブラッシュアップ
という順番をきちんと守ることが重要ではないでしょうか。

2016/06/28 公開の記事を更新しました。


❏ 方法だけを先に決めるのは賢明とは言えない

決めた手順を実施することは目的ではありませんよね。その手順や方法を導入することで目指しているものがあるはずです。

例えば、成績の振るわない生徒を対象に、既習事項の再習熟をはかり、授業について行きやすい状態に戻そうという場合、補習をするとか、課題を与えてやらせるというアイデア(行動計画)が出てきたとします。

当たり前ですが、目的とするところは「既習事項の再習熟を図り、新しいことを学べるレディネスを整え直すこと」であり、それを実現する方法には様々なものがあって然るべきです。

忘れているなら再記銘を図ることになるし、もともと理解していない生徒には理解させる場面を作る必要がありますが、こうした問題の切り分けもせずに、「○点以外の生徒を対象にのべ4時間の補習を実施!」 というのでは、合理的と言えません。


❏ 目的を共有し、各々が最善と思う方法で実現を目指す

「既習事項の習熟不足で授業について行く上で支障があるから、これを解消したい」 という目的をはっきり共有した上で、それぞれの先生方がその時点で最善と考える方法を担当クラスで試してみるべきです。

様々な方法を試したのちに指導の成果(指導前と指導後の変化=差分)を比べてみると、最も効果をあげた方法が見つかります。

その方法を共有し、効果をあげた理由の特定を図り、協議の中でさらなるブラッシュアップを図ることで、より良い方法にバージョンアップしていくことも出来るはずです。

何かの取組をするときに、効果検証をしないのでは、こうした優良実践を抽出することも、その後の協議や更なる工夫で効果をより高めていくこともできません。

手順を決めるより先に、目的をしっかりと共有し、効果検証の方法を定めておく方がよほど大切ということです。


❏ 過去のデータを使って、実験を待たずに候補を絞る

過去のデータから、同じ目的に照らして比較検討できるならば、こうした「実験」 をするまでもなく、効果をあげた指導の所在は探れます。

そのクラスを担当した先生にヒアリングを行い、どんな取り組みをしていたのか、何が奏功しのかを尋ねてみれば、試行錯誤の「錯誤」 をいくつかよけて先に進めることもできるのではないでしょうか。

普段から、様々な場面を想定し、仮説を立てたり、その検証をおこなったりできるだけのデータを揃えておくことが重要です。

様々なデータを取ったときに、整理したりまとめたりした「加工済み」 の状態で持っているのでは、如上の使い方はできません。未加工のロ―データも、併せて保存しておく必要があるのはこのためです。

お時間が許すときに、"作成・保存されているデータの"たな卸し"からもご高覧いただければ光栄です。


❏ 効果が見えたら、対象を広げて方法をさらに磨く

こうしたテストやデータの検証をを重ねた結果、「効果が期待できる方法」が絞れて来たら、今度はさらに多くの発想と智恵を「アタリが期待できるポイント」に集中すべく、全員でその方法を実施します。

最善と思う方法での初期試行で効果を得た方法に、他の先生の経験や知識や観察の目を加えることで、新たな"化学変化"も期待できますし、気づきの範囲も広がります。

目的に照らして生徒の変化を観察をしていると、指導の方法に修正すべき点などが見えてきますから、その情報も共有して「さらに良い方法」 を探していきたいものですよね。

会議とか、そう大袈裟にする必要はありません。職員室でのちょっとした会話の中で情報交換をしてみたり、メーリングリストで意見を交換したり、相談を交わしたりすれば十分なことが多いはずです。


❏ うまくいかないときは作戦ミスと実行ミスの切り分け

試行には失敗がつきものです。効果を上げた先行例をベースにした方法を他のクラスに採り入れても上手くいかないこともあります。

そんな場面に遭遇したときに、問題の切り分けもしないまま、その方法を「だめ」と決めつけてしまっては先に進むチャンスを逃します。

履行が徹底できなかっただけということもあれば、先生自身の指導スキルに足りないものがあり、その解消を図らなかったからという「指導側のレディネス不足」が失敗の原因であることも少なくありません。

作戦ミスと実行ミスとの切り分けは、しっかりと行いたいところです。もしかしたら、世の中の失敗の多くは後者かもしれません。

問題の切り分けをしても、なおかつ作戦(方法)そのものに不備があるとしか思えないなら、ダメなルートを一つ棄却できたということ。その分、成功に近づく可能性が高まったと考えるのが健全です。



追記:

自分が所属する組織(学年や教科)に何か提案するときも、新しい取り組みをする前の昨年度のデータと、取り組みを行ってみた今年のデータとを照らし合わせた資料があれば、説得力も増すはずです。

エビデンスのないものには、感情や主観でしか反応できず、意見の対立を浮き彫りにするだけの結果も避けられません。

"指導案の優劣を論じるときも"に続く。

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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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