カッコつきの“キャリア教育の充実!”に思うところ

「キャリア教育の充実」という言葉があちらこちらで聞かれますが、職業調べ、職場体験などを起点に行うことが多く、そのやり方にぬぐいきれない疑問を少々感じています。

もちろん成果をあげているケースもあると拝察しますが、どのような意識の変化を目指した体験なのかは一度しっかり考えてみる必要があろうと思いますし、私の知る狭い範囲では、その成果か検証がなされているのはむしろ少数派のようにも感じます。


❏ 自らのゴールをしっかりと見据える?

"2011年度にアメリカの小学校に入学した子どもたちの65%は、大学卒業時に今は存在していない職業に就くだろう" との研究が発表されて以降、社会の変化、技術の進歩はさらに加速しているように感じます。

将来の職業をゴールにおいて逆算的にルートを設計する方法だけでは、ゴール自体が存在しなくなったときに困ったことも起きるはずです。

以前の記事で申し上げた通り、キャリアは選ぶものではなく重ねるもの と考えるべきではないでしょうか。


❏ やりきった中に生まれる興味と自信

目の前にある課題に対し、真剣に取り組み、やりきることで、達成した中に興味が生まれます。

教科学習指導でも問題意識を刺激する(学びのウォーミングアップ)が十分に機能していれば、学びの結果が興味の発現に繋がります。

当然ながら、そこには「やりきらせる責任」が存在します。

どれほど活動が盛り上がろうと、仕上げ切らないで放置することに得るものはありません。やりきってこそ、自分を肯定的に捉えられるようになります。


❏ 志望校を母校にする前に…

「進路希望の実現」という言葉も、あらゆる場面で耳目に触れるものですが、難関を目指して合格する(させる)こととは、本質的に意味が異なるはずです。

「進路希望を作ること」と、「(正しく作った)進路希望を実現させること」が順序をもって配列されていると理解すべきことでしょう。

職業調べを行い、大学を訪問するという「目標を作らせる指導」に過度に依存していないか、改めて振り返ってみる必要があるのではないでしょうか。


❏ 目標が頑張りを引き出すという論法が抱える矛盾

目指すべき目標として「進路希望」を作らせて、頑張りを引き出すという戦略は、うっかりすると「とりあえずの選択」(進路指導で育む“選択の力” をご参照ください)を助長するだけかもしれません。

確かに目標が決まれば、それだけ頑張れます。でも、頑張るために目標を作るというのは無理があるのではないでしょうか。

如上のロジックには、「目標が決まらない限り、頑張りは引き出せない」という落とし穴が待っています。


❏ 消極的な態度は、やりきった経験の不足が作るもの

興味は、努力して達成した中に生まれますし、やりきったという自己認識とそこから生まれる自己肯定感や自信は、場面が変わっても「積極的に挑む姿勢」を持たせることにもなるはずです。

「真面目だけど消極的」とみられる行動も、性格によるものばかりではなく、如上の背景から生まれていることも少なくないのではないでしょうか。

また、難局に臨み、「逃げる/回避する」という解決策で、当座はうまくいってしまうと、それが誤った成功体験となり、その後も選択を迫られるたびに同じような行動を繰り返しかねません。


❏ 頑張りきらせることが、未来を拓く力になる

このように考えてくると、進路希望を作ることにばかり意識を向けずに、勉強(授業と家庭学習)、部活動、生徒会、学校行事、地域参加といった日々の学校生活の中で、「頑張りきらせる」ことに注力すべきと考えられます。
  1. 頑張きることで自分を信頼する気持ちを作り、
  2. 頑張る中で積み上げる達成の中に興味を見出し、
  3. さらに調べを進め 「興味を接点とする社会への関わり方」を考える
という手順こそが、キャリア教育の充実を図る中でも重要になるのではないでしょうか。


❏ 選択を繰り返し、しなやかに転進を重ねる

3年間しかない高校生活の中で、そんなに悠長なことは言ってはいられないとの反論もあろうかと思います。しかしながら、18歳時点での選択にその後の人生をしばられる必要はどこにもないはずです。

しっかりとした理由をもって進路希望を語れるようになった生徒には、その実現にむけて一心不乱に頑張らせれば良い話です。

そうでない生徒にも同じことを無理に求める必要があるのか、という問題提起をさせていただいています。

変化を恐れず、いとわないことは、環境の変化に対応することに通じます。変わることへの覚悟が、生き方を強くするはずです。

中途半端にしたまま次々につまみ食いをするのとは根本的にちがいます。やりきって突き詰めた先に次の光を見つけることとお考え下さい。

社会が大きく激しく変化する中で、目標としていた職業が、10年、20年という時間の経過の中、ロボットにとって代わられる可能性はどんな仕事でも否定できません。

努力して達成した中に興味を見出し、新たな努力の方向にするという「しなやかな選択の連続」こそが、これからの時代を歩く子供たちにとっての「生きる力」となるはずです。


❏ 見出した興味を深めて広げる場としての探究活動

見出した興味をそのままにせず、深めて広げていく場を用意するのも、学校に求められる機能の一つ。すでに探究を軸に教育課程の設計がなされている学校も多くありますが、この趨勢にストップがかかるとは思えません。

中高一貫ではない高校3年間だけの学校では、十分な時間を探究や課題研究に充てるのは容易でありませんが、中学での経験を踏まえて考える「高校での探究活動」という視点が加わることで、より効果的な教育課程を作り上げられそうです。

また、高大連携や進路関連のイベント も単発で閉じてしまうのではなく、相互の役割を設計の中で繋ぐという発想が求められます。




なお、大学訪問などは、ある程度の興味が芽生えた段階、しいて言うなら、上記の2.から3.に移行する段階を待って行わないと、効果が著しく損なわれることが分かってきました。

限られた時間で、2~3の大学に出向いたところで、分厚いカタログのほんの数ページを開いて、そこから買うものを選ぶようなものです。

興味を持った事柄はどこで学ぶことができるのかを、書籍やネットで調べ、進路ワークショップで考えてから、「そこまでに自分が考えたことが正しいのか、見落としをしていることはないか」を実際に足を運んで自分の目で確かめる、という使い方が本来のものだと思います。


教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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