振り返りを経てこそ次への課題形成

実技実習を中心とする教科・科目では、「授業を通じた自分の学びを振り返ること」が、学習目標の理解を高め、得意/苦手の意識にも好ましい変化をもたらします。


❏ 学びの成果のたな卸し&次に向けた方略立案

何ができるようになったか「たな卸し」をきちんと行えば、「工夫と努力で進歩できる」ことの実感が強化され、不要な苦手意識に縛られることもなくなります。

また、もう一歩先を目指すには何をすれば良いかを考えれば、次の機会に向けた課題形成もできます。

苦手意識の原因には、様々なものがありますが、その筆頭は「どうすれば良いかわからない」か「何を目指しているのか理解できない」のいずれかです。

振り返りなしに、ただ指示に従い、言われたことをやっているだけでは、苦手の原因を取り払うチャンスは得られません。

「言われたとおりに練習したけど…」 という漠然とした印象だけでは、もともとの意識姿勢(得意/苦手の自己評価)を確認・強化するだけの結果になるのは想像に難くありません。


❏ 振り返りを通じて苦手意識を抑制する

下のグラフは、授業評価アンケートの集計結果(n=1,628)から作成したものです。

横軸と縦軸はそれぞれ、【振り返り】(振り返りや先生からの助言を通じ、次に向けた課題が意識できる)と【意識姿勢】(この科目は、あなたにとって、{とても得意~かなり苦手})での得点化です。

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近似線を見ての通り、横軸方向に右に行くほど意識姿勢は得意寄りの分布を強めています。グラフは緩やかながらも右上がりです。


❏ 成功体験と自己効力感で苦手意識を上書き

同じデータで箱ひげ図を作ってみると、その効果は一目瞭然です。
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振り返りが75ポイント(否定的な回答が10%未満程度)を超えれば、意識姿勢の箱の下端は、得意と苦手が拮抗する±0を超えてきます。

実技系の授業では、小学校以来の積み重ねで、得意/苦手の意識はかなり固定化が進んでいるはずですが、授業デザインに振り返りの場面を組み込めば、それをひっくり返すことができるとデータは示します。

振り返りを通じて、生徒は「自分が新たにできるようになったこと」 が何かを認識し、それが蓄積していく中で、苦手意識が自己効力感に上書きされ、やがて得意意識に転じていくのだと思われます。


❏ 漠然とした感想では、次に向けた目標が設定できない

上の散布図では、【目標理解】(作業や練習の目的や到達目標を先生ははっきりと示してくれる)の得点で、上位25%、中位50%、下位25%に分けて、それぞれマーカーを変えて表示しました。

目標理解が十分なクラスは、振り返りが一定以上の数値となるエリアにしか存在していません。

授業を通じて目指すところは、生徒自身の振り返りによってのみ認識させることができるということではないでしょうか。

実技科目では、個々の生徒の技量やパフォーマンスに比較的大きな差がありますので、一律の目標を先生が示したところで、生徒が「自分に合った目標」「挑みがいのある/ちゃんと手が届きそうなハードル」 を設定できるとは限りません。

振り返りを通じて、「自分の目標」を設定させることの重要性を、如上のデータは示しています。


❏ 振り返りができるようにしていくのも大切な指導目標

学習者としてのステージが初期段階に止まる間は、生徒自身による振り返りが上手にできないことも想定されます。

不用意に振り返りをさせると、「反省」 という言葉のイメージから、悪いところばかりに目が行ってしまうこともあり得ます。

自己肯定感を高めたり、次の挑戦に目を向けたりする以前に、苦手意識を固定させては何にもなりません。

先生からの適切な声掛け/フィードバックにより、上手に振り返りができるよう徐々に導いていくこともまた段階的な指導目標の一つだと考えます。

授業の導入フェイズで、練習や作業のポイントを明確に示して置き、そこで聞いた話を、生徒自身(あるいはグループ)でチェックリストにまとめさせて、授業終了時の振り返りに利用するのも効果的です。

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■関連記事: 授業評価項目[実技系]⑤ 振り返りを通じた課題形成


教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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