ルーブリック評価の作成と運用

ポートフォリオと並び、次期学習指導要領で導入が検討されている評価手法の一つが「ルーブリック」です。基本形は、観点ごとに段階的な到達状況を配置したマトリクスに各々の規準を書き込んだものであり、目標準拠評価(絶対評価)の一つです。

あまり馴染みのないせいか、導入を終えて本格的な運用に踏み込んだ学校はまだ少数派。今からスタートして実運用を経てブラッシュアップしておけば、2020年には他校への大きなアドバンテージになりそうです。

何のために導入されるのか、作成にどんな工程を踏むべきか、また運用場面ではどう使うのか、ポイントを整理しておきたいと思います。


❏ ルーブリックの基本的な形態(おさらい)

こちらからご欄いただける"リサーチ場面でのコモンルーブリック"で仕上がりをイメージしてください。だいぶ前の中教審の配布資料です。

見ての通り、観点別に段階的な評価規準を設けて、生徒の行動やその結果を評価することで、質的評価を定量化する仕組みです。

上記の例は大学用ということもあり、6段階評価とかなり本格的なものですが、中高で用いるなら4段階の方が、運用のしやすさに勝ります。

ルーブリックは、目標準拠評価(絶対評価)ですので、「目標を達成した/要求を満たしている」をA評価とします。

目標に対して少し足りないのがB評価、かなり遠い状態をC評価とし、要求を超えたパフォーマンスにはS評価を与えることになります。


❏ 目標達成に学習者を後押しするためのツール

ルーブリックの導入によって目指すのは、生徒が自分の学習を客観的に捉え、成長するための材料を与えることです。
  1. 何がどこまで出来るようになったか明らかにする(自己肯定感)
  2. 足りないものに気づき、それをどう補うか立案する(課題形成)
といったことを通じて、「こうすれば成長できるとの見込みの中で、生徒自身に目標への接近を図らせるツール」 ということができそうです。

もちろん、先生方の側でも、一人ひとりの生徒の行動を観察するときにその状態を客観的に解釈できるため、必要な指導をより正確に特定できるというメリットがあります。


❏ コモンルーブリックから教科・学年のルーブリックに

教科学習指導は、各教科に固有の知識・技能を獲得させると同時に、より上位にある学校の教育目的を達成するために行うものです。

各教科・各学年の指導目標には、通底する部分があって当然ですが、その達成を検証する評価規準が教科や学年ごとにバラバラ、フォーマットも全く別というのはおかしな話です。

作成の手間を考えても、教科、あるいは学年教科がそれぞれにフォーマットを一から考案していくのも効率的とは言えません。

まずは、教科を跨いで共通する「学習行動」 について観点と段階的評価規準を考え、その後に各教科、各学年用にアレンジするのが、合理的で且つ効率的です。


❏ ベースを揃え、各教科の指導成果を相乗的に高める

コモンルーブリックを先行して作成し、各教科・学年はそれをアレンジして作成することの最大のメリットは、各教科の指導成果に互いが乗っかり合うことで、シナジーを作り出せることです。

 ひとつの教育目的の達成に各教科がその特性を生かして貢献し、
 そこで形成された生徒の資質やスキルを自教科の学習に活かす

という相補的な関係を築くためにも、教科別ルーブリックを作る前に、底本となるコモンルーブリックを先に作るべきとお考え下さい。

課題解決行動は、突き詰めれば情報の分解と再構築を行うことです。

ある学年での学習行動は次の学年でもより高度化した内容に対して同じことを繰り返すのが普通です。

となれば、評価規準そのものは複数の学年で共用するのが、作成の手間を減らす意味でも妥当ではないでしょうか。


❏ 可視学力はテストで、行動評価はルーブリックで

以前の記事「教科学習指導における数値目標のあり方」でも書きましたが、教科学習指導を通じて養うべき能力・資質には、成果を定量化する方法において
  • 達成検証にルーブリック評価を用いるべきもの
  • テストの結果をそのまま用いることができるもの
という2つのタイプに大別できます。

学力の三要素のうち、「知識・技能」は当然ながら後者に含まれるでしょうし、「協働性・多様性・主体性」は前者に分類されます。

「思考力・判断力・表現力」は、基本的にはテストで測定可能ですが、それらをきちんと測定できる出題内容と採点方法が必要になります。

正解が一つに定まらない問題、学習型問題などの"新しい学力観に沿った考査問題"が求められ、採点でも答えが一つに定まらない問題では、採点ルーブリックの導入が必要になります。

この辺りについては、"考査問題で何をどう測るか"の各記事をご参照いただければ幸甚です。


❏ テストの結果だけでは評価と育成のチャンスを逃す

主体性・多様性・協働性などに加え、「学ぶ意欲」や「学びの方策(≒学習能力)」なども、ルーブリックを用いて質的評価を行うべきです。

他人に教えてもらえれば理解できるし、それを覚えてテストで点数を取ることに長けている生徒も、未知の課題に対して自力で対処ができるかどうかは、その場面を作って観察してみないとわかりません。

テストは、その時点でどんな知識・技能を身につけていたかは測定できますが、どうやってそれらを獲得したか(=獲得するための方策を身につけているかどうか)は点数を見てもわからない、ということです。

また、グループとしての発表がどれほど優れたものであったとしても、メンバーの一人ひとりがコミュニティにどう貢献したのか、協働での課題解決の場面に相応しい行動をとっていたかは、別の評価が必要です。

中には、自分は何の役割も引き受けないままのフリーライダーがいたかもしれません。発表だけは抜群にうまくても、自力で課題を見つけその解決法を考えるのはからっきしという生徒も少なくありません。


❏ 観察・評価のためには活動させる必要がある

スクール形式の教室で、先生の話を黙って聞いているだけでは、生徒の頭の中で何が起きているかはわかりません。

ルーブリックなどを用いた行動評価は欠かせない、でも活動させないと観察ができない、となれば、教え方そのもの/授業スタイルも変えていく必要があるということです。

話し合いをさせれば、聞き耳を立てることで発言の内容や、思考の過程を確かめられます。課題を与えてノートに解かせればのぞき込めます。

教科書や資料集を参照させて、プリントの空欄を埋めさせるだけでも、情報をピックアップできているかどうかは見て取れます。先生が最初から全部板書しているようでは、観察・評価のチャンスを失います。

 ■活動させるのは観察のため


❏ 評価は、一定期間を跨いで継続的に行う

すべての授業で、全観点に対応する活動を用意できるわけではありません。また、40人全員を同時にみるのは現実的には難しいでしょう。

数週間などの一定期間を通して観察をつづけ、気づいたことをその都度メモに書き起こしておくような形で評価を行うことになります。

一人ひとりの生徒について、当期は平均的に見てこの到達度という評価を行います。また、それを蓄積していくことで、前タームとの差分(=進歩、成長)での評価も併せて行います。

繰り返しになりますが、一つの授業の中で観点別に詳細な形成的評価はできませんし、行うべきものでもありません。

将来的には、タブレット経由で共有した回答を自然言語レベルやグラフ等の非言語でも解析できるソフトや、教室内に設置されたマイクで発言の解析ができるようになるかもしれませんが、それはまだ先の話です。


❏ 生徒自身にも評価をさせてメタ認知を高める

冒頭に述べた通り、ルーブリックを用いた評価では、生徒自身が自分の位置とこれから進むべき方向・距離を知らなければ意味がありません。

授業毎に自分の学習を振り返らせ、一定期間が経過したら、それらを見直して自分の進歩や今後の課題に気づかせることも大切です。

頭の中だけで考えさせても、捉え方が漠然としすぎます。きちんと言葉に起こさせる(言語化させる)ことで、メタ認知をより確かにさせていきましょう。

生徒の自評が先生の目で見たものと大きくかけ離れているようなら、本人との対話を通して自評と他評の乖離を解消するきっかけを作ってあげることも必要でしょう。

より客観的で正確な自評は、それ自体が学習者としての成長です。それまで気づかないでいた自分の可能性に気付くチャンスでもあります。ネガティブな部分にばかり目を向けず、対話を通じてポジティブな自己認識を作らせていきましょう。


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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一






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