実技実習の授業に「振り返り」がもたらす効果

実技実習系に限らず、どの教科でも学び終えた段階できちんと「振り返り」を行うことは、生徒一人ひとりの学びに様々な効果をもちます。

自分の取り組みやパフォーマンスを振り返る中で、授業を通じて新たにできるようになったことの「たな卸し」ができれば科目への自己効力感が高まりますし、今日の自分に足りなかったことを捉えれば「次に向けた課題形成」ができて、学びに目的が生まれます。

2016/08/25 公開の記事をアップデートしました。


❏ 振り返りの最たる効果~学びを通した進歩の実感

日々の授業で行う「振り返り」がもたらす効果の最たるものは、知識や技能の獲得や自分の進歩を強く実感できることです。

下図は、共通の質問設計で行った様々な学校での授業評価アンケートの集計結果をマージして作成したものです。

横軸【振り返り】振り返りや先生からの助言を通じ、次に向けた課題が意識できる。
縦軸【学習効果】授業を受けて、知識や技能が身につき、自分の進歩を実感できる。

振り返りと学習効果.png
振り返り】と【学習効果】の相関の強固さは、グラフをご覧いただければ一目瞭然ですが、相関係数も 0.853 という非常に大きな値です。

回帰係数(=近似線の傾き)は 0.83ですので、単純計算ではⅥ振り返りを10ポイント改善すると、Ⅶ学習効果は実に 8 ポイント強も高まることが期待できることになります。


❏ 主体的な学びの姿勢を作るのも振り返り

振り返りをしっかり行わせ、ポートフォリオに生徒が残したリフレクション・ログに、きちんとフィードバックを行い、成果のたな卸しと次に向けた課題形成を支援することがもたらす効果はこれに止まりません。

データからは、如上の質問設計に含まれる【目標理解】「作業や練習の目的や到達目標を先生ははっきりと示してくれる」や【目的意識】「私は、自分なりの課題や目的を持って日々の授業に臨んでいる」の改善にも大きく貢献する様子が見て取れます。

振り返りと目標理解や目的意識.png
さらに、【学習方策】「私は、この科目の学び方や取り組み方が身についたと思う」との間にも有意な正の相関(後掲)が確認できています。

目的意識を持って、学び方・取り組み方を身につけて授業に臨んでいるということは、まさに「主体的な学び」の実現ではないでしょうか。

主体的・積極的に授業に取り組みなさいと繰り返しても中々生徒の言動に見て取れるようにならない主体的に学ぶ姿勢が、きちんと振り返りを行わせることで生まれ、且つ、科目固有の知識・技能の獲得が進むのであれば、これはもう日々の授業で注力するしかありませんよね。


❏ 振り返らせているのに課題形成ができない?

様々な効果が検証されている振り返りですが、リフレクション・シートを用意し授業毎に振り返りをさせているのに、アンケートでは思いの外否定的な回答が多い(=点数が低い)というケースもあります。

上掲の通り、【振り返り】の質問文のメインパートは「次に向けた課題が意識できる」です。機械的にリフレクション・シートへの記入を求めても、それが課題形成につながらないことは多々あります。

振り返りは、メタ認知を用いた高度な知的活動ですから、最初からすべての生徒が正しくできるわけではありません。

例えば、「今日はうまくいった」「いつもより集中できた」「次は頑張ろう」といった漠然とした感想しか残せていないリフレクション・ログを放置しては振り返りに必要なメタ認知の形成にはつながりません。

正しい振り返りに必要な相対化スキルを獲得させる指導を重ねていく必要があります。先生からのログへの朱入れ(フィードバック)だけでなく、生徒間の相互啓発を働かせることにも注力しましょう。

良いパフォーマンス/作品とそうでもないものとを比較させる中で、良さとその理由を言語化させたり、他の生徒の成果に触れて自分のそれを客観化させたりする機会を、どれだけ整えられるかが問われます。

 ■ 言語化を通じて育む「振り返りのための相対化スキル」

当然ながら、他の生徒のパフォーマンス/作品に触れる場の確保も必要です。実際、【発表の場】「自分の努力や取り組みの成果を示せる発表の機会が整っている」と【振り返り】の間にも有意な相関があります。

振り返り、発表の場、学習方策.png
しかしながら、上左図は分散が大きめであるのは見ての通り。発表の場をただ作れば良いというものではなさそうです。「彼我の相対化」という目的をしっかり持ち、観点の明確な自己/相互評価をできるように導く指導を心掛ける必要があります。

 ■ 進歩を止めさせない自己評価の在り方
 ■ 自己評価、相互評価を行わせるときの工夫

また、前述の通り、振り返りは【学習方策】とも有意な相関を持ちますが、こちらもやはり上右図に見ての通り、分散が大きめに出ています。

幅を付けて描いた近似線(座表面を斜めに通すグレーの帯)の下側に位置する場合、振り返りが自己目的化しており、自分の学び方をより良いものにするための活動であるとの意識を、生徒にしっかり持たせることができていない可能性があります。

ちなみに上掲の[Ⅴ振り返り×Ⅹ目的意識]の散布図でも、グレーの帯の下にはみ出した授業が結構な数に上ります。該当する場合、振り返りが自己目的化しているか、科目を学ぶことの目的を「知識・技能の獲得」に限定して狭く生徒が捉えているのかのいずれかかもしれません。

ときには、何のためにこの科目を学ぶのか(=科目を学ぶことを通して、自分はどんな能力や資質を獲得できるのか)を、生徒が考える機会も作ってみるのも悪くないと思います。


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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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