大きな分岐を前に整えるべき指導機会

進路を決定するまでのプロセスの中、生徒は大小様々な選択を経て自分の未来を拓いていきますが、ある場面で行った選択は、その後の選択肢の構成を変えてしまいます。

選択を間違えたとしても、後戻り/迂回して正しいルートに戻れますがそこには多大なエネルギーを費やすことになります。時間も巻き戻しはできませんので、進路決定までのタイムリミットを超えるリスクのある歩み直しや迂回は、できることなら避けたいのが正直なところです。

失敗を経験し、回り道をしたことで学んだことが、その後のキャリアにプラスになるのは多々あります。最短ルートを効率的に歩むことが必ずしも最善ではありませんが、先の選択肢を狭めた結果、生徒が各々の資質や志向にマッチする進路に出会えなくなる「誤った選択」がプラスに働くことはなさそうです。

また、進路選択は、生徒にとって「選択の力」を身につける、他に代えがたい貴重な体験です。判断に必要な情報を不足なく集め、自分の未来に向き合う姿勢と方法を身につけないと、卒業後に新たな道を歩む中でより良く生きる(=正しい選択を重ねる)のも難しくなります。

2016/09/12 公開の記事をアップデートしました。

❏ 将来を分ける選択の場は、至る所に存在している

最終的な進路を決定するまでに、生徒は大小様々な選択を重ねますが、その一つひとつで選んだことは、ことさら「選択」との意識を持たない小さなものであっても、先に進んだときの選択肢を別のものにします。

進路に関する選択というと、文系か理系か(この分け方も、もはや時代に合いませんが)を選んだり、履修科目を選んだりする場面が真っ先に思い浮かぶかと思いますが、オープンキャンパスの訪問先や探究活動のテーマを選ぶのだって、そこから先の「進路選択」に向けた分岐です。

実際に見に行った大学で経験したことは、興味・関心の起点になりますが、行かないことを選択した大学でなら経験できたことは、学びや気づきからすっぽり抜け落ちます。知らないものは選べません。

探究活動を通して向き合い、考え尽くした課題の中には、自分の未来と社会の接点を見つけることも往々にしてあるはずですが、いい加減な気持ちで/面白半分に道楽まがいのテーマを選んだら、「未来の自分との出会い」はあまり期待できないように思います。

 ■ 探究活動の目的から考えるテーマ選び
 ■ 調べたことの先に~新たな知と当事者としての関わり

また、進路希望調査の用紙を配られ、アンケートに答えるようなつもりで記入欄を埋めるのだって、一つの選択になり得ます。

考え尽くした結果でなくても、何かの意思表明をすると、それが所与のもの/既定の路線のように思えてきてしまうこともありますし、回答を見た周囲の大人も「この生徒はこういう希望」と認識し、その先の指導も、それに沿ったものになってしまいます。

文理選択や履修科目選択といった「選択」という意識を強く持つ場面以外でも、選択には慎重に、且つ十分な準備をして臨ませるべきです。


❏ 正しい選択をさせると同時に「選択の力」を養う

様々な選択の機会(分岐)を経験させるたびに大切なことは、正しい選択をすることだけではありません。選択をするまでにきちんと踏むべき手順を踏み、より良い選択をするための方法を学ぶことも重要です。

選択の結果だけなら、与えられた時間の中(受験なら願書を出すまで、卒業後なら隠居するまで)にリカバーできる/満足のいく別のルートを歩めるのであれば、別に問題はありません。むしろプラスになるかも。

それに対して、結果オーライで良い選択をしたとしても、選択までのプロセスを学んでいなければ、その先の選択の場にリスクを持ち越すことになってしまいます。プロセスの誤りを結果の成功が隠しては、次の機会にも同じことを繰り返します。次も結果オーライとは限りません。

正しいプロセスをしっかり踏んだ選択ならば、その結果にも向き合い、自分が出した答えとして納得もいくのではないでしょうか。

調べるべきことを出来る限り調べ尽くしたのか、他の選択肢を選んだ場合との間で生じる違いを考慮したかなど、最終的な選択をする前に一つひとつ点検し、不足があれば、補ったりやり直したりさせることで、選択の力をしっかりと養っていきましょう。

進路指導を通じて目指すべきことには、「選択の場に正対して臨む姿勢を育むこと」「できるだけ正しい選択をする(=より良く生きる)ために必要な方法を学ぶこと」の2つも含まれます。

こうした認識を学年団の先生方と、進路指導部(加えて探究活動を担当される先生方)が共有してこそ、進路指導は本来の目的を達することができるのではないでしょうか。


❏ 次に控える選択の機会をしっかり認識させることから

実際の指導に当たっては、進路指導計画の中で、次にどんな選択が待っているかを生徒に認識させ、それまでにどんな準備を行うかを示したり考えさせたりすることがスタートになります。

年間行事予定は配布して生徒の手元に持たせているはずですが、書かれていることは行事の名称だけだったりします。名称からある程度のところは生徒も推測がつくでしょうが、初めて経験することだけに、何を準備し、どう臨めばよいかは想像することすら難しいはずです。

選択の場に臨ませる前に、十分な準備期間を持てるタイミングで、その時までに仕上げておくべきワークシートを用意し、配布の際にしっかりガイダンスを行うぐらいのことは徹底したいところです。

別稿で「進路の手引きは冊子よりもファイリング形式で」と申し上げたのは、如上の指導機会を想定してのことでもあります。

ワークシートの記入欄に「自分の答え」を書かなければならないとなれば、それなりにしっかり考えるきっかけにはなるはずです。

加えて、「選択までに踏むべきプロセス」(1. 調べるべきこと、2. 考えるべきこと、3. 周囲と話し合ってみるべきこと、など)をリストにしてワークシート内に記載しておき、自己点検に活用させる手もあります。

必要な情報を余さず集めて整理すること、自分にとって大切なこと(やりたい事や譲れない価値は何か)を改めて考えること、保護者など周囲の大人の理解と応援を取り付けることなどが、リストに上るはずです。

1.~3. それぞれについて取り組んでみたことやその中で感じたことなどを、メモ書き程度でも構わないので言語化させてみると、現状での自分に欠けているところ/抜け落ちたところにも気づき始めたりします。


❏ 準備フェイズで言語化したことをもとに面談指導

後日の、最終的な選択の前に行う面談でも、ここで言語化したことは、生徒と先生の対話の貴重な材料になるのではないでしょうか。

選択の力を養う途中である以上、生徒に任せるだけでは、経験の乏しさからくる見落としや、考え方の偏りがあって当然です。それらを放置しては、如上の目的はいずれも達成できません。

面談までにあれこれと調べ、考えてきたとしても、見落としや偏りが残っているはず。それらの解消に向かう機会が先生との面談です。

面談を行うときに先生方が注意すべきは、「正しい答え」を安易に与えないことです。

生徒が「選択の力」を得る邪魔になるばかりか、自分で答えを出さない限り、選択の結果を受け止め、そこから先の世界に向き合えません。

生徒が見落としているところが明らかでも、ダイレクトに指摘するのでは、反発もあれば気づきにもなりにくいはず。直接・間接に尋ねてみることで、生徒が見落としに自ら気づくように仕向けるのが得策です。

 ■面談指導を成功させる(全4編)


❏ 幅広い選択肢に手が届く位置を維持させる

やりたいことがあっても、「無理かな、手が届きそうもないや」としか思えないことは、選択肢からどんどん外されてしまいます。

実際には、数年間の勉強の遅れなど、本気になって取り組めばそう長くはかからずにキャッチアップできますが、無理だと思い込んだ生徒は、努力に向かう前に諦めるというカードを切ってしまいがちです。

大きな分岐(選択の場)に臨ませるときに、最も重要なことの一つは、選びたいものを諦めずに済むだけの学力を身につけさせておくことではないでしょうか。

日々の勉強にまじめに取り組み、十分な力を身につけておくことは、自分の未来を選び出そうとするときにあきらめなくて良いものを増やすための準備であることを、生徒にはしっかりと認識させたいところです。

当然ながら、生徒一人ひとりが学力の向上や自分の成長をしっかりと実感できる授業を日々実践するのは、先生方のお仕事です。たとえ現状で苦手であっても「何とかなりそうだ」と思えれば、自分の未来を拓くための努力を、生徒はそう簡単には放棄しないはずです。

また、模試の結果を返却するときの指導の在り方でも、あきらめるか、挑み続けるかを大きく分けるのではないでしょうか。拙稿「模試受験後の指導~進路希望を維持させる~ 」も併せてご高覧ください。


■関連記事:
  1. 先に控える選択の機会をいつ認識させるか
  2. 進路指導で育む“選択の力” (その1)同(その2)
  3. 進路希望を作る指導[進路意識形成](まとめページ)


教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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