活動性と学びの成果を繋ぐ鍵~課題を通じた目標理解

昨日の記事に書いた通り、授業時間内における学習者の活動性は昨今大きく高まっていますが、せっかくの活動性が学びの成果につながっていないように見受けられるケースも少なくありません。

各地で授業を拝見させていただきながら、非常によく設計された授業で、生徒の反応も申し分なく、実に楽しそうに勉強している様子に感銘を受けますが、学びの目的はあくまでもコンピテンシーの増大。

授業をどう設計するか、視点を少し遠くにおいて冷静に実践を見なければとも強く感じます。手元にあるデータをつかって、少し考察してみたいと思います。


❏ 目標理解、活用機会、授業内活動は学習効果と高相関

まずは、目標理解、活用機会、授業内活動、学習効果の4項目の間には、以下のような相関が確認できました。(n=10,448)
画像

学習効果(授業を通じた学力や技能の向上や自分の成長を実感するかどうか)と最も高い相関を示したのは、目標理解(到達すべき状態や今やろうとしていることへの認識)です。


❏ 重回帰分析で影響度を探ると“学習目標の理解”が最上位

もう少し詳しく見るために、学習効果を目的変数とする重回帰分析を行ってみました。結果は下表に示す通りです。
画像

目的変数に対する影響度を推し量る“t 値”を見ても、やはり目的理解が最も大きな部分を占めていると考えられます。

下の円グラフは、t 値を元に作成したものですが、学習効果を左右する要素として4割以上が目的理解で占められています。
画像



❏ 生徒は解くべき課題を通じて学習目標を認識する

学習目標は、単元名を並べたところで生徒には伝わりません。

まだ習っていないことだけに何を学ぶかもわからなければ、何ができるようになれば良いのかもイメージできません。

以前の記事で申し上げた通り、生徒は「解くべき課題を通じてはじめて学習目標を認識します。下図はそのエビデンスの一つになり得ると思われます。
画像

活用機会(習ったことを用いた課題解決を体験しているか)が低位であるほど、目標理解が不十分であるのは明白です。

表中にそれぞれ75ポイント(否定的な回答が概ね10%未満となる水準)で境界を太く描いてみましたが、第四象限には分布が非常に薄いことにお気づきいただけると思います。


❏ アウトプットを通じて“自分の課題を設定させる”

授業内での活動性を高めることは、主体的・積極的な学びを介した理解や定着の促進が期待できますが、活動性だけを高めても十分ではないということがこれらのデータからうかがい知れます。

生徒はアウトプットを通じてインプットの不備を知ります。

言い方を変えると、適切な課題を解決することを通じて、「理解できていたこと/できていたこと」 と「まだできていないこと」 の切り分けをしているかどうかが、学びの成果を大きく変えるということのようです。

課題解決の機会がなければ振り返りも形だけです。生徒一人ひとりが自分の学びに課題を設定することはできないと考えるべきではないでしょうか。

活動性の高さが学習効果に直結しない場合に、最初に疑ってみるべきは「適切なアウトプット」 がきちんと授業に組み込まれているかどうかと考えることができそうです。


❏ 課題解決学習と能動的・協働的学習を組み合わせる

インプットの不備を検知できる十分なアウトプットの機会を整え、活動や協働を経て身につけた理解を、課題を仕上げること/言語化することで固定する機会をしっかり用意することが、せっかくの活動を学びの成果に結びつけていくと考える必要がありそうです。

以前の記事でご紹介した、
  • 課題を与えて仮の答えを作らせてから、
  • (話を聞かせるばかりでなく)
     自力で教科書を読んだり、
     話し合わせて互いに疑問を解消し合い、
     理解したことを共有する“能動的・協働的な学び”を経て
  • より良い答えを作り直す“仕上げ”に個人のタスクとして取り組ませる
という授業設計が、汎用性も高く、如上のデータが示す「あるべき授業像」 を実現する近道の一つであると考えます。
画像

目的意識さえ刺激しておけば、自分で読んで理解する力も補われます。聞かせるより読ませた方が早いし、返り読みもできます。できることはどんどんやらせる~生徒の邪魔をしないことが、単位時間あたりの学びの量を増やす上でも望ましいのは言うまでもありません。



関連記事をピックアップしてみました。お時間の許すときに合わせてご高覧をいただければ光栄です。

活動を配列するときに考えるべきこと
振り返りを経てこそ次への課題形成
課題の仕上げは個人のタスクに(前編)(後編)
ひとつの課題から複線的なハードルを作る
振り返りのためのアウトプット
学習方策は課題解決を通して身につく


教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

この記事へのトラックバック

  • 生徒がみな一斉に反応できていることに感じた違和感

    Excerpt: この数年、高校に限らず機会があれば小中学校の授業も参観させていただいています。素晴らしい実践、実に様々な工夫を拝見して、大いに刺激されます。生徒や児童の活動性を高める工夫が随所に凝らされ、「おおっ、こ.. Weblog: 現場で頑張る先生方を応援します! racked: 2016-10-25 07:34
  • 生徒を活動させることの意味を考える(記事まとめ)

    Excerpt: 各地で行われる研究授業を拝見する中、協働学習やアクティビティなど授業内での生徒の活動性が以前とは比べようもないほど高まっていることを実感します。その一方で、活動性が、「深い学び、対話的な学び、主体的な.. Weblog: 現場で頑張る先生方を応援します! racked: 2016-10-31 07:33
  • 学力向上感、得意・苦手に成績が及ぼす影響は?

    Excerpt: 生徒が自分の学習を振り返り、学力の向上や自分の進歩があったかどうか、あるいはその科目が得意か苦手かを判断するときに、定期考査や模擬試験の点数がどの程度まで影響を与えるか、というご質問をいただきました。.. Weblog: 現場で頑張る先生方を応援します! racked: 2016-12-02 05:45
  • 目標の示し方、導入の工夫

    Excerpt: 1 学習目標の示し方1.0 学習目標の示し方(序) 1.1 学習目標の示し方(その1) 1.2 学習目標の示し方(その2) 1.3 学習目標の示し方(その3) 2 解くべき課題を通した目標理解.. Weblog: 現場で頑張る先生方を応援します! racked: 2016-12-19 06:07
  • 教科書をきちんと読ませる

    Excerpt: 昨年のニュースで、検定教科書の内容を中高生の半数近くが読み取れていない、内容を正確に理解できないという研究結果が発表されて大きな話題になったのは記憶に新しいところです。教育現場では、言語能力の向上に様.. Weblog: 現場で頑張る先生方を応援します! racked: 2017-01-24 07:06
  • 新しい学力観にそった、教え方の転換

    Excerpt: 高大接続改革以降の入試では、「テクストを読み、そこで理解したことをもとに思考し、その結果を表現する力」 が重要視されます。教科書や資料に書かれていることを理解する場面で先生が不用意に肩代わりしてはいけ.. Weblog: 現場で頑張る先生方を応援します! racked: 2017-07-10 07:14
  • 生徒にYESと答えてもらいたい質問

    Excerpt: 指導目標の達成により大きく近づいた指導(=付加価値)の大きな指導を特定して共有を進めることで、組織的な授業改善が進みます。一人ひとりがより良い指導を目指して試行錯誤を繰り返すことは大切ですが、その段階.. Weblog: 現場で頑張る先生方を応援します! racked: 2017-09-19 07:51
  • 導入フェイズの目的と方法

    Excerpt: 授業の冒頭や新しい単元に入るときに行う「導入」ですが、そこでの目的には何があるかをはっきりさせておかないと、工夫して作り上げた方法が目的にかなっているか/成果を挙げているかの判断がつかなくなってしまい.. Weblog: 現場で頑張る先生方を応援します! racked: 2017-09-27 05:25
  • 授業改善行動の実効性を高めるために

    Excerpt: 継続的に授業改善を進めていくには、現況把握に基づく課題形成、改善プランの策定、改善行動の効果検証からなる、いわゆるPDCAサイクルを着実に回すことが欠かせませんが、様々な学校での実態を拝見すると、きち.. Weblog: 現場で頑張る先生方を応援します! racked: 2017-10-11 07:28
  • 目標理解と活用機会を整える授業デザイン

    Excerpt: 生徒が学習目標を正しく認識し、習ったことを課題解決に用いる機会が整えられていることで、生徒は学びの効果(=学力の向上や自分の成長)を実感し、これに十分な活動性が加われば学習効果がより確実になるのは別稿.. Weblog: 現場で頑張る先生方を応援します! racked: 2017-11-02 08:53
  • 5分間アウトプットの費用対効果

    Excerpt: 学力の向上や自分の成長や進歩を実感するには、学習を通じて達成すべきこと(=学習目標)の把握教え合い・学び合い、対話を通じた学びの深まりという2つの要素に加えて、習ったことを課題解決に活用する機会が欠か.. Weblog: 現場で頑張る先生方を応援します! racked: 2017-12-07 08:09
  • 散布図中の位置から改善課題を探る

    Excerpt: 学習評価を行うとき、模試や考査の成績にしろ、授業評価アンケートにしろ、ある評価項目における集計結果を単独で見ているだけで改善課題が見つけられるとは限りません。要素ごとに集計を分けて、散布図を描いてみる.. Weblog: 現場で頑張る先生方を応援します! racked: 2017-12-18 07:30
  • 授業評価項目⑨ 授業内活動を通した達成感・充足感

    Excerpt: 思考力・判断力・表現力を養うために主体的、対話的で深い学びが求められています。後掲のデータも、練習や討論といった授業内での活動に充足を見出せる授業ほど学力向上感が高まる様子を示しています。 Weblog: 現場で頑張る先生方を応援します! racked: 2018-06-25 06:52
  • 主体的・対話的で深い学びをデータから考える

    Excerpt: 高大接続改革とその先に控える本丸たる次期学習指導要領では、「主体的・対話的で深い学び」がキーワードであり、授業内での対話(生徒同士の討論、教え合い・学び合い、課題解決に向けた協働に加えて、問答を通じた.. Weblog: 現場で頑張る先生方を応援します! racked: 2018-07-24 04:57
  • 先端研究で得られた知見を活かして授業改善

    Excerpt: 先週、「授業に集中してる? 生徒の脳、活動量をセンサーで計測」という記事を朝日新聞で見つけました。東京大学と横須賀の三浦学苑高校が協働で行なっている実証実験です。脳の司令塔と言われる前頭前野の活動量を.. Weblog: 現場で頑張る先生方を応援します! racked: 2019-06-03 08:42