自ら学び続けられる生徒を育てる

科学の進歩や社会の変化で、新しい知識がどんどん生み出され、古いものは更新されていきます。学び続けていかなければ、正しい判断を重ねていく(=よりよく生きる)のを、古い知識・常識が妨げます。

卒業後にも自ら学び続けていけるように生徒を育てる/導くことは、各教科に固有の知識・技能を身につけさせたり、進路希望を実現させたりすることに劣らず、最優先して取り組むべきことだと思います。

誰の周囲にも解決すべき問題がありますが、それを見過ごしたり、解決を図らず問題に埋もれて過ごしたりする態度は、「学ぶことで解決策を見つけ出した/作り出した体験」で上書きしていきたいところです。

2018/08/09 公開の記事をアップデートしました。

❏ 自ら学び続けるための土台

まずは、自ら学び続けられるのに何が必要なのか、しっかりと整理しておく必要があろうかと思います。この整理が曖昧だと、日々の教育活動を設計するときに方向性を見失いかねません。

何かを学ぶ上で不可欠なものの一つに学ぶことへの自分の理由がありますが、これは自分事として解決すべき問題に向き合う中で生まれます。

学ぶことへの自分の理由があっても、学ぶための方法が身についていなければ学びようもありません。知識・理解を獲得させると同時に、学習方策も身につけさせていく必要があります。

また、広く偏りなく張られた認知の網がなければ、学ぶべきことがそこにあっても気づけません(認識を素通りします)し、問いを立てる力がなければ、解決を図るべき問題があっても、「当たり前のこと」としてスルーしてしまいます。


❏ 学ぶことへの自分の理由

学ぶことへの自分の理由は、自分事としての問題を前にして生まれるものです。ふとしたことで抱いた興味をそのままにせず、掘り下げていくことで「より深く学んでみたいこと」から「学んだことを通じて実現したいこと」に具体化が進んでいきます。

自分が獲得した知識や技能を用いて、社会にどんな接点を持つか/どう貢献するかまで行きつけば、「持続可能な未来への責任」(21世紀型能力の「実戦力」の構成要素の一つです)も自覚できているはずです。

日々の授業の中で不明の所在に気づけば、それを解き明かしたいとの欲求が生まれるのは、別稿で書いた通りです。ひとつの疑念の余地も残さず、きれいに説明を尽くすだけの授業では、この要件は満たしません。

問い掛けることで生徒の頭に疑問符を浮かべさせることから始めれば、教室の中で「興味が生まれる瞬間」を体験させることもできるはず。

小・中学校での横断的/体験的な総合的な学習の時間を経て、高校で取り組ませる探究活動、課題研究は、教科固有の知識を獲得する中で身につけたものを統合すると同時に、大学に進んで学びたいこと、学んだことを通した社会とのつながりといった、「次のステージで学ぶことへの自分の理由」(=志望理由)を見つけるための場です。

日々の授業の中で、探究から進路へのきっかけを作るプラスα の一問を用意できるかどうかで、学ぶことへの自分の理由を生徒が見つけ出せるかどうかを大きく分けるのではないでしょうか。


❏ 単元内容を学ぶことを手段に獲得する学習方策

生徒は、各教科の授業や探究活動に取り組む中で、学び方そのものを身につけていきます。当然ながら、最も多くの時間を日常的に割り当てる授業がその主な舞台です。

教わったことを覚えることだって、覚え方を覚える(=「覚える力」を獲得する)大事な機会ですが、それを身につけるだけでは不十分です。

テクスト/資料を読んで理解する力は、あらゆる場面で不可欠ですが、その力を養う機会は全教科の学びの中に存在します。教科書をきちんと読ませることもなく先生が説明して済ませては、読む力は育ちません。

わからないことがあったときに、どうやればそれを解消できるかも、生徒は自ら学んで身につける必要があります。質問に答えて不明を解消してあげる前にやるべきことがあるということです。

こうした力を身につけないまま大学に進学しては学修に支障が生じるのは明らか。社会に出ても、ややこしい資料やマニュアルにはお手上げというのでは仕事を発展させていくのもままならないはずです。

信頼できるソースを選び出し、きちんと読んで必要な情報を的確に拾い出し、「必要な知に編む」練習はしっかりと積ませていきたいところ。

文字で与えられた情報を図に起こして構造化(モデル化)したり、数的に処理できる形に変換したりする方法を学ばせれば、扱える問題の範囲は劇的に広がるかもしれません。

別稿「教科固有の知識・技能を学ぶ中で」で申し上げたように、教科固有の知識や技能を学ぶことはそれ自体が「目的」であると同時に、学び方・考え方を身につけるための「手段」でもあると捉えるべきです。

・探究活動を通して学習方策のブラッシュアップ

各教科で身につけた学習方策(読む力や不明を解消する方策など)は、探究活動などで統合的に活用する場を持てます。

一つの事柄(各教科の学習内容)を学んだ時の方法が別の事柄(探究の対象)を扱うときに応用できてこそ、「汎用性のある学習方策」が獲得できたということになります。

探究活動の指導にあたる先生は、各教科で生徒が身につけているはずの言語、数量、情報の各スキルや思考力などを把握・想定した上で、生徒がそれらをきちんと活用できているか観察し、不足があるようなら指導を通じて補完を図る責任があるのではないでしょうか。


❏ 広く偏りなく張られた認知の網

別稿「認知の網の広げ方~5教科7科目をきちんと学ばせる」でも書きましたが、人の脳は、知っていることやその周辺しか認識しません。

自分の生き方を変えるような重要な情報に触れても、それまでの学びがカバーせず「認知の網」が形成されていない領域では、その価値や意味を捉えることができず、情報を捕えて利することすらできないということです。新たな知が生み出されるスピードがどんどん上がる中、様々なところに分散する知識を必要に応じて集めて利用するにも、広く張られた認知の網が重要な意味を持ちます。

だからこそ、すべての科目で確かな学びを実現して、教科固有の知識を着実にものにする(確かな学びを実現する)必要があります。

日々の授業を受ける中、学力の向上や自分の進歩を実感できなければ、それ以上学び続ける意欲は維持できません。学びを止めてしまえば、認知の網をそれ以上に広げることができなくなってしまいます。

その先を学ぶことで獲得できたかもしれない能力・資質も、身につけるチャンスを持てずに終わってしまうのではないでしょうか。

これからの社会が直面する様々な問題を解決するには、発想の大きな転換や新たなアイデアが必要なのは明らか。「イノベーションをもたらす認知の網と偶然との出会い」から、未来を生きる生徒を遠ざけないよう出来る限りのことはしたいところです。


❏ 問いを立てて考えてみる力

当たり前に見えること/教科書に書いてあるから真実に違いないと思えることにも、「どうしてこう言えるのか」「なぜこうなっているのか」と疑ってみることから、より深い理解や新たな発見が生まれます。

 ■ 学びの深さ~どれだけ問いを重ねたか

日々の授業の中で、どれだけ生徒に問いを立てさせることができているかは、いつも意識しておきたいことの一つではないでしょうか。

社会の変化が加速し、誰も解決したことがない課題が次々に生まれる中で、習ったことだけで対処できることは極めて限定的でしょうし、真偽の入り混じる膨大な情報の中で、正しい判断を行うのに土台とすべきものを選び出せるかどうかが、死活を分けることもありそうです。

"正解を言って欲しい"と言う生徒は、自分たちが生きていく世界が、今の知識で解決できない課題に満ちていることを想像できていないのかもしれません。

探究活動にしても、他人の答えを辿っているだけなら「調べ学習」の領域です。目指すべきは、未知の課題を解決する方策を考え、新たな知を生み出すことにはなりません。指導に当たる際は、探究活動の課題~調べ学習との境界と進路への接点をしっかりと意識しておくべきです。



別稿「どこに進学させたかよりも、どんな人に育ったか」でご紹介したビジネス誌の記事では、『大学の画一化と高校の多様化で、「出身高校こそ人材を見抜く鍵」との声が高まっている』との指摘がありました。人の土台を作る高校時代で何を学ばせ、何を身につけさせるかはこれから先、さらに重要になるはずです。

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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