「正解ありき」で教えていないか?

問題の解き方などを説明するとき、当然ながら、先生方は答え/正解も知っていますし、そこに辿り着くのに最適なルートも分かっています。

そのため、うっかりすると「ここに補助線を引けば、〇〇の公式が使えます」「空所に〇〇を補えば、こういう構造ができて…」といった解説をしてしまうこともたびたびではないでしょうか。

このやり方では、スマートに問題を解いてみせることはできても、生徒が初見の問題に対して「見通しを立てて解法を考える」トレーニングにならないのは自明です。

2016/12/01 公開の記事をアップデートしました。

❏ 生徒がやるべきことを不用意に肩代わりしない

授業で扱ったのと同じ問題が定期考査で出題される場合なら、教えてもらった解法を「知識」として覚えてしまえばOKかもしれませんが、入試などで初めて目にする問題に対してこのアプローチは通用しません。

ましてや、社会に出て直面する「正解も解法も未確立の問題」には、理解する/解決を図るトレーニングを何も受けていないことになります。

初見の問題を目の前にしたとき、最初にやるべきことは、問題文に書かれていること(本文内容や設問条件など)を正しく読み取ることです。

このフェイズでも「正解ありき」で先生が解説に臨んでしまうと、生徒が自力で問題文を読み、そこに書かれていることを理解する力を獲得する機会を奪ってしまうリスクがあることを忘れないようにしましょう。

どんなことでも、他人に肩代わりされては、自分ひとりで同じことをできるようになる練習にならず、いつまでたっても力がつきません。


❏ 問題文を読み取る力は問い掛けで養う

まずは、生徒に問題文をきちんと読ませることを徹底しましょう。

文字やグラフ、図版が与えている情報を正しく理解しているか、書かれていることの背後にある/前提としていることが見えているかは、問い掛けによって確かめられます。

また、答えを選ぶ/作るのに根拠とすべき箇所がどこか、拾い上げるべき情報はどれかを生徒自身が見つけ出せているかも、問い掛けを重ねることで確認していきましょう。

問い掛けのたびに「指名→発言」という形式を取っては時間が足りなくなりますので、発問だけにとどめ、表情の観察で「大丈夫」と踏んだら次のステップに進んだり、不安を感じたら隣同士で話し合わせてみてやり取りに聞き耳を立ててみるなどの「時短策」の併用も必要です。

問題文に加えて、設問条件を正しく理解する必要があります。

答えに何が求められているかを把握しないことには、思考を積み上げていく方向を見つけ出せません。訊かれていないことをいくら熱心に答案上で論じても、点数をもらえません。

記述・論述式の問題では、設問文の一語一句に細心の注意を向ける必要がありますが、そうした姿勢を育むのも先生方からの問い掛けです。

先生からの問い掛けに答えられないことで、問題文の自分の理解に足りなかったところに気づき、次の機会でのチャレンジに活かしていくことの繰り返しが、このフェイズでの力(問題理解力)を高めます。

同じような問いが繰り返される中、生徒はその問いを真似ることで、観察や思考の型を手に入れます。最初は真似から入り、工夫を重ねる中で自分の思考スタイルを作りあげていく「守破離」を目指しましょう。


❏ 答えの求めをゴールに工程に見通しを立てる

問題を正しく理解したら、次は「見通しを立てて正解に至るルートを考える」ことになりますが、ここでも不用意な先回り/肩代わりはしないようにしたいところです。

うっかり、「導きたいものは〇〇だから、○○の公式が使えるようにすればいいよね」「答えは、こことここに書いてあるから、それを組み合わせていこう」などと先生が発言してしまったら、生徒は「ああ、そうなんだ」で思考を止めてしまいます。

導きたいものは何か、そのために使えそうな道具(既習事項など)は何か、何を根拠にすべきか、といった問いをクラス全体に投げかけ、まずは、生徒一人ひとりにしっかりと考えさせるようにすべきです。

生徒が十分に考えたタイミングで、隣同士で話し合わせたり、その結果を発言させたりすれば、それぞれが考えた様々なアプローチに触れて、気づきが拡充し、生徒の思考はより深く広いものになります。

中には、先生が想定していた「最適ルート」の斜め上を行くものを考え出す生徒だっているかもしれません。そうした可能性に不用意な先回りと肩代わりで「蓋」をすることのないようにしましょう。


❏ 思考の起点は「目に見えているもの」に置く

先生方はこれまでの豊富な経験の中で、多くの問題を解いてきました。

教科書などに出ている問題なら「初めて見る」ということはないはず。常に、「こういう手順を辿れば正解に行き着く」ことがわかっている、いわば頭の中に予め地図がセットされた状態です。

一方、生徒にはそうした「経験に基づくルート検索」はできません。多くの場合、初めて見る問題を目の前にして、そこに書かれているもの/目に見えているものを起点に思考を重ねていくしかありません。

先生が、頭の中の地図という「生徒の目には見えないもの」を辿ってしまえば、当座のゴール(その問題の正解)に到達できたとしても、生徒は自らゴールに至る(できれば効率的な)ルートを探したり、組んだりする練習はできず、力の獲得も進みません。

高大接続改革を経て出題が増えてきた「答えが一つに定まらない問題」や「学習型問題」でも、先生方は経験則などによって、どこがゴールかどうアプローチすれば良いかが「見えて」しまいます。

そのため、うっかりすると、経験に照らして想定した「正解」を起点にして、逆算的に解法を組み立ててしまいがちです。

ゴールやルートが見えてしまうこと自体が悪いことではなく、見えていないようでは満足な指導もできませんが、「生徒に見えていないもの」を起点に思考を積み上げて、その結果とプロセスを見せたところで、生徒にとってはあまり有益な学びにはならないことは銘記しましょう。

解法の説明を進めるときも、ワンステップごとに「生徒の目に現時点で見えているものはどこまでか」を常に意識して指示や説明を組み立てているか、時々は立ち止まって振り返ってみることが大切です。



解説をするときに目指すべきは、「正解であることを納得させること」 ではなく、目に見えているものを起点に観察と思考を重ねる姿勢と方法を獲得させることです。くれぐれも、問題の解説をするとき、「答えの解説」にすり替わっていないか注意したいもの。

正解を覚えておけば何とかなる場合なら、「正解を記憶する手掛かり」として、多少の意味はあるかもしれませんが、正解がひとつに決まらない問題が相手ではどうしようもありません。「問題文が存在する」という一点だけはどんな問題でも変わりませんので、それを目の前に置いて生徒が取るべき行動をしっかり考え、授業をデザインしましょう。

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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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