学力向上感、得意・苦手に成績が及ぼす影響は?

授業を受けて学力の向上や自分の進歩があったかどうか、あるいはその科目が得意か苦手かを生徒が判断するとき、定期考査や模擬試験の点数が生徒の意識にどの程度まで影響を与えているかというご質問をいただくことが時々あります。

結論から言えば、成績という数字の影響は確かにありますが、他の要素からの影響も決して小さくありません。振り返りによるメタ認知の形成や学習方策の獲得などを通した「学習者としての自立」が進むにつれ、点数によって自己認識が左右される度合いは下がってくるようです。

2016/12/02 公開の記事をアップデートしました。


❏ 成績と学習におけるメタ認知は別のもの

定期考査や模擬試験の成績(点数や順位)は、学力が伸びているか/得意なのか苦手なのかを、生徒が判断するときの材料の一つであることは間違いありませんが、それがすべてではありません。

もし、そうだとしたら、習熟度別展開授業において下位クラスにいる生徒は、全員が「自分は伸びていない、この科目は苦手だ」と答えるはずですが、決してそんなことはありません。

親御さんは成績表の数字しか判断材料を持たないかもしれませんが、生徒は学びの場に身を置いた実感を持っています。

実際、模試の科目成績が相対的に低い生徒でも、学力向上感意識姿勢 において肯定的な回答をするのは珍しくありませんし、これとは逆に、成績が伸びているにも拘らず根強い苦手意識を持ち、払しょくできないでいる生徒もいます。


❏ 学力向上感は、教える側の行動で大きく変えられる

学力向上感を持てるかどうかは、振り返りなどを通じた「学習の成果のたな卸し」がうまく機能しているかどうかに大きく左右されます。

できるようになったことは何か、残った課題は何で、どう取り組めばよいかをきちんと考えさせているかどうか、メタ認知を高める働きかけを指導者が行っているかどうかが問われるところです。

教えて/学ばせても、やりっぱなし、「あとは頑張れ!」では、生徒が学びの成果を実感できるとは思えません。

成果を確認できるアウトプットの機会を用意するのは、いうまでもなく教える側の仕事。生徒に任せる話ではありません。

目指していたものが何であるか(=学習目標)を正しく把握できていなければ、ゴールできたかどうかも確かめられません。解くべき課題を通じて、学習目標を理解させたり、観点別の評価規準を示して何ができるようになれば良いかを、しっかりと認識させたりすることが前提です。

当然ながら、目標未達が続けば学ぶ意欲も維持できません。

課題に挑ませる前にそこまでの理解を確かめるなど、不要な返り討ちに合わせない備えも必要です。失敗体験/できなかった記憶ばかりを積み上げさせないようにしましょう。


❏ 自力で何とかなったとの体験を積ませる

その科目が得意か苦手かという自己認識は、言い換えれば、「何とかなる」と思えるか、「無理!」と投げ出す気持ちになるかの違いです。

自分で工夫して課題を解決できた、失敗に再チャレンジしてリカバーできたという体験を重ねているなら、たとえ現時点での成績(点数)が振るわなかったとしても、如上の展望や可能性を見失いません。

その一方で、先生の説明を必死に聞き、良くわからないけどとりあえず覚えてしまおうという戦略で対応している生徒は、たとえ考査の成績に崩れがなくても、内心で苦手意識を膨らませていることもあります。

自力で何とかできたという自己効力感を持たず、教えてもらえなければわからないという状態では、常に学びに対して不安を抱いていたとしても不思議ではありません。

やらせてみて、多少の失敗をしても最終的には課題がクリアできた/クリアに近づけたという実感を持たせてこそ、学びへの自己効力感(=得意意識)を作っていけます。

失敗からのリカバリー、転んだ時の立ち上がり方を学ばせようとする指導者の姿勢が問われるところ、とお考え下さい。


❏ 点数に現れる成績を伸ばすことと同等に大切なこと

学力向上感や学習目標を達成できたという認識が、学習したことがらへの興味・関心にほぼ直結するのは、別稿 でも示した通りです。

学力向上感と興味の喚起.png
また、得意/苦手の意識は、成長への展望を持っているかどうかを示す指標です。得意寄りの意識をキープできれば、多少難しそうな課題にも挑む気持ちを持ち続けられます。

テストの点数に現れる成績を伸ばすことはもちろん大切ですが、興味関心を持ち、学ぶ意欲を維持・向上させるには、学力向上感や意識姿勢といった生徒の自己認識を高めることにも注力しなければなりません。

繰り返しで恐縮ですが、テストの点数に現れる学びの結果と、学びに向かう姿勢/各科目への自己有能感とはそれぞれ別のものです。

結果学力だけを追うのではなく、アンケートなどを通じて生徒が抱いている「学力向上感」や「科目への意識姿勢」を確かめつつ、高い水準に引き上げ、維持していくこともまた、指導者に求められる仕事です。



2015年の国際数学・理科教育動向調査(TIMSS)の結果では、平均点は小4、中2とも算数・数学と理科の両方で過去最高になったにも拘わらず、数学や理科が「楽しい」「得意だ」と答える中2の割合は国際平均を下回ったとのこと。その結果に触れて「学びへの関心や意欲をどう育てるかに課題が残った」との論評がなされています。本稿で扱った問題と根っこの部分は共通しているのではないでしょうか。


教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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