教科書をきちんと読ませる

昨年のニュースで、「検定教科書の内容を中高生の半数近くが読み取れていない、内容を正確に理解できない可能性がある」 という研究結果が発表されて大きな話題になったのは記憶に新しいところです。教育現場では、言語能力の向上に様々な取り組みをしてきただけにちょっとショックな結果です。


❏ 日頃の学習で、教科書をきちんと読ませているか

学校の教室をお訪ねして授業を参観していると、教科書とは別にプリントが用意され、先生が丁寧に説明しながら空所を埋めていく場面をよく目にします。

プリントを使っていなくても、教科書などにかかれたことを先生が解きほぐしながら板書に展開して、生徒が一生懸命にノートに書きとっているのもごく普通の光景です。

でも、生徒が自力で教科書や資料集を読み、必要な情報を拾い上げて、自分なりに整理をつけていく姿はあまり見かけません。

生徒の手元を除くと、教科書はずっと机上に閉じられたまま。3学期になっても新品同様というのは一体どういうことなのか、改めて考えさせられました。


❏ 先生が肩代わりして、読解力をつける機会がない?

読解とは、文章などの連続型テキストや図表のような非連続型テキストから、必要な情報を拾い上げ、関連付けていくことですが、如上の風景のなかでは、そのプロセスを先生が肩代わりしてしまってはいないでしょうか。

教科書の内容を読み、わからないことがあれば参照型副教材(参考書)で調べ、自力で理解を形成していく訓練は、きちんと教室の中で積み上げさせたいものです。

生徒が卒業するまでは、丁寧に教えてあげることも、難しいところを肩代わりしてあげることもできますが、卒業と同時に「じゃあ、あとは頑張って」 では、生徒も困ってしまいます。

そもそも、自分が読めていない(=読解力がない)ことに気づいていないのかもしれません。


❏ 問題は、解き方に習熟すれば、読めずとも解けることが…

定期考査や模擬試験では、問題文が読めているから大丈夫だろうと考えるのは、ちょっと危険な気がします。

テストでは、問題の解き方に習熟していれば、正解できてしまうことも少なくありません。

解き方や単元の内容は先生が教えてくれたもので、関連知識もプリントで与えられ覚えていたら、「自力で読み解き、知識を体系づけて、内容を理解する」 という経験はあまりないはず。

出題範囲が限られたテストなら、「たとえ、読解の工程に未習熟でも、問題を解くことはできる」 というのも、あながち極論ではありません。

ときには、本文が何を言っているかわからなくても、問いや選択肢を手掛かりにして本文の内容にあたりをつけて正解できてしまうことだってありますよね。


❏ 教材を自力で読み解く機会を不用意に奪わない

そもそも、テストという「特殊な環境」 以外では、問いやそれに対する選択肢は与えられていません。読み解くための手がかりは本文だけ、ということです。

こうした、日常的に経験する普通の場面での読解力は、生きていくためにも欠かせないもの。

その貴重で有意なトレーニングの機会を、「丁寧な説明」「作り込まれたプリント」 で肩代わりしてしまうことには大きなリスクもありそうです。

誤解を招かないよう確認しておきますが、説明すべきところは丁寧に行うべきですし、プリントでの拡充や整理を否定しているわけでもありません。

生徒が自力で教科書や資料集、参考書を読んで理解すべき場面を奪わないようにしましょう、ということです。


❏ 能動的な読みに向かわせる実践例

読解力を高める機会は、すべての教科の学習活動、授業の中にあると思います。

最初は自力で読めない生徒もいるでしょうが、読めないからといってずっと肩代わりしていては、いつまでたっても読めるようになりません。
  1. 解くべき課題を先に与えておき、仮の答えを作らせてから、教科書、資料を自力で読ませる。
    目的意識さえ刺激しておけば、自分で読んで理解する力も補われます。聞かせるより読ませた方が早いし、返り読みもできます。できることはどんどんやらせる~生徒の邪魔をしないことが、単位時間あたりの学びの量を増やす上でも望ましいのは言うまでもない。
  2. 地歴公民や理科でも、教科書の音読を経て、プリントの空所に埋める作業は自力で行わせる。
    生徒全員で教科書を音読する場面が繰り返されており、そこでは「目で見て、声を出し、耳で聞く」 という複数の感覚器を同時に使う活動が、内容の定着に非常に有利に働いている。音読後に行う解説の中では、ポイントになる箇所を、先生からの指示ではなく、問い掛けの形で拾い上げさせている場面も印象的であった。
  3. 英語や国語では、「問いを立てる/設問を起こす」 というタスクを与えて本文を読ませる。
    他人が作った問いは、たとえどれだけ洗練されたものであったとしても、生徒にしてみれば「んなこと、どうでもいいじゃん?」という場合もあります。「正解は何?」「それを覚えておけばいいんでしょ?」という姿勢にも、無理からぬものを感じます。ところが、文章や資料の中にポイントになりそうなところを探させ、問いに仕上げなければならなくなったら話は違います。
  4. 例題の解説は、基本的には生徒自身に読ませ、わからなかったら相互に教え合わせる。

これらはいずれも、様々な学校で拝見した授業実践です。教科の特性や単元の内容に応じて、アレンジしながら使ってみれば、もっと良い方法も生まれてきそうな気がします。

プリントの枚数が増えて、教科書を読まなくなるのでは、何か矛盾したものを感じます。副教材もボロボロになるまで使い込んでこそ、自分のものになるのではないでしょうか。


教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

この記事へのトラックバック

  • 活動性を高める方法と効果

    Excerpt: 1 活動性を高め、成果を可視化する1.1 アクティビティと学習効果 1.2 活動の成果を可視化する 1.3 できることはどんどんやらせる~生徒の邪魔をしない 1.4 積極的に学ぶ姿勢(記事まとめ.. Weblog: 現場で頑張る先生方を応援します! racked: 2017-02-14 10:10
  • 学ぶ理由/自立した学習者

    Excerpt: 1 学び続けられる生徒を育てる1.1 教室は、興味が生まれる瞬間を体験して学ばせる場 1.2 5教科7科目に挑ませることの意味 1.3 学び続けられる生徒を育てる 2 学び方を身につけさせる2... Weblog: 現場で頑張る先生方を応援します! racked: 2017-03-13 08:36
  • 学ぶ理由/自立した学習者(まとめページ)

    Excerpt: ジャンル別インデックス「学ぶ理由/自立した学習者」 に新しいセクションを設け、記事へのリンクを追加しました。 Weblog: 現場で頑張る先生方を応援します! racked: 2017-03-13 09:11
  • チャイムから生徒が活動を始めるまで何分かかる?

    Excerpt: 授業開始のチャイムが鳴ってから、生徒が最初に活動するときまでの時間を計測したことはありますか。何校かのご厚意を得て、観察をさせていただいたところ、最短はチャイムが鳴り終わるのと同時ですが、5分以上たっ.. Weblog: 現場で頑張る先生方を応援します! racked: 2017-03-21 07:42
  • 入試問題を授業の教材に使うときに

    Excerpt: 大学入試問題は、大学が求める学力(アドミッションポリシーの一部)を表明する手段です。受験生にどんな学力を身につけてきてもらいたいかが、そこには端的に表現されているはず。 Weblog: 現場で頑張る先生方を応援します! racked: 2017-04-18 08:18
  • "学ぶことへの自分の理由"と"自ら学べる土台"

    Excerpt: 「学ぶことへの自分の理由」 という表現を、当ブログのあちこちで使ってきました。"自分"の反対は"他人"です。他人の理由で学ばされる状態と、自分から進んで「知りたい」「わかりたい」「できるようになりたい.. Weblog: 現場で頑張る先生方を応援します! racked: 2017-05-25 08:01
  • 荷物を増やしても、学びが膨らむとは限らない

    Excerpt: 昨日、日本テレビの情報番組「スッキリ!!」 で東京近郊の公立中学校が通学でも持ち運ぶ通学カバンとバッグの重さの平均が8.6キロにも及び、その原因は脱ゆとり教育で副教材が増えたことが原因とのレポートがあ.. Weblog: 現場で頑張る先生方を応援します! racked: 2017-05-30 06:21
  • わかりやすい話し方(その4)

    Excerpt: 生徒の理解度に合わせようとしているのか、ゆっくり丁寧にという方向に心を砕いている授業も見られますが、その思惑とは裏腹に、やることがなくなって生徒が集中を欠いたり、教室がざわめき出したりすることも少なく.. Weblog: 現場で頑張る先生方を応援します! racked: 2017-06-06 08:30
  • 新しい学力観にそった、教え方の転換

    Excerpt: 高大接続改革以降の入試では、「テクストを読み、そこで理解したことをもとに思考し、その結果を表現する力」 が重要視されます。教科書や資料に書かれていることを理解する場面で先生が不用意に肩代わりしてはいけ.. Weblog: 現場で頑張る先生方を応援します! racked: 2017-07-10 07:14
  • 分業で行う出題研究のフィルタリング(その2)

    Excerpt: 生徒が進路希望を抱く先の大学群から引いた出題例を授業内外の課題とすることには、前稿 で書いたように様々な効果が期待できますが、ただ持ち込んでも弊害ばかりが大きくなるリスクもあります。課題として教室に持.. Weblog: 現場で頑張る先生方を応援します! racked: 2017-07-12 08:23
  • 学び方そのものを学ばせる

    Excerpt: 教科学習指導の目標は、教科・科目に固有の知識や技能を身につけさせることが第一であるのは言うまでもありませんが、それを優先させるあまり、学び方を身につけさせたり、学ぶことへの自分の理由 を作らせたりする.. Weblog: 現場で頑張る先生方を応援します! racked: 2017-07-25 07:08
  • 高大接続改革に備えて"授業と予・復習のサイクル"の見直し

    Excerpt: 新しいことを学ぶ授業に備えて下調べをする予習と、習ったことをしっかり覚えるための復習という学習サイクルは、正確な理解と再生というニーズを満たすには十分だったかもしれませんが、高大接続改革で求められる".. Weblog: 現場で頑張る先生方を応援します! racked: 2017-11-24 06:22
  • 生徒に問いを立てさせる

    Excerpt: "主体的、対話的な深い学び"は、次期学習指導要領のキーワードのひとつですが、その実現のカギをにぎるのは生徒に自ら問いを立てさせることだと思います。 Weblog: 現場で頑張る先生方を応援します! racked: 2017-11-30 06:56
  • 知識の拡充 vs 情報整理手法の獲得(その1)

    Excerpt: 知識の整理と拡充を図る場面でよく用いられている方法に、蛍光ペンでマークアップさせたり、サブノート式のプリントを用意したりといったものがあります。 Weblog: 現場で頑張る先生方を応援します! racked: 2018-03-27 07:56
  • 知識の拡充 vs 情報整理手法の獲得(その3)

    Excerpt: 蛍光ペンでマークアップやサブノート式のプリントに頼る手法が抱える問題点とその悪影響を抑えるための工夫について考えた前稿、前々稿に引き続き、今回は「問い掛けで気づきを促しつつ、黒板上で情報を構造化してい.. Weblog: 現場で頑張る先生方を応援します! racked: 2018-03-29 07:37
  • 機械翻訳がここまで進歩すると…

    Excerpt: 連休中にスマホを新調したついでに、Google翻訳アプリをインストールしてみました。久しぶりに使ってみると、音声認識の性能も各段に改善されていますし、翻訳の精度も初期のバージョンとは雲泥の差です。 Weblog: 現場で頑張る先生方を応援します! racked: 2018-05-08 07:17
  • 教科学習指導と探究活動の重ね合わせ

    Excerpt: 探究活動にしっかり取り組ませるには様々な土台が必要です。探究の方策を学ばせる機会も作らなければなりませんし、「読んで理解したことを元に考える力」や「質問を立てる力」も育まなければなりません。これらを探.. Weblog: 現場で頑張る先生方を応援します! racked: 2018-06-14 07:49
  • 授業評価項目⑨ 授業内活動を通した達成感・充足感

    Excerpt: 思考力・判断力・表現力を養うために主体的、対話的で深い学びが求められています。後掲のデータも、練習や討論といった授業内での活動に充足を見出せる授業ほど学力向上感が高まる様子を示しています。 Weblog: 現場で頑張る先生方を応援します! racked: 2018-06-25 06:52
  • できない? やらない? やらせてない?

    Excerpt: これまでの授業を振り返り、生徒にやらせずに先生が肩代わりしていたことがないか、洗い出してみることも時には必要だと思います。生徒にはできないと思い込んでいたことも試しにやらせてみたら思いもかけず良くこな.. Weblog: 現場で頑張る先生方を応援します! racked: 2018-06-27 07:36
  • 大学入学共通テストにおける問題作成の方向性から

    Excerpt: 先月の中旬に、大学入試センターから「大学入学共通テスト」における問題作成の方向性等と本年11月に実施する試行調査(プレテスト)の趣旨についてとの発表がありました。 Weblog: 現場で頑張る先生方を応援します! racked: 2018-07-03 06:10
  • 活動性が苦手意識を抑制する機能の限界

    Excerpt: 以前の記事でも書いた通り、ある程度までなら授業や課題の難易度を高めても、活動性を高めて苦手意識を抑えることができます。教え合い・学び合いが知識や理解の不足を補い、課題解決の可能性を高めることは想像に難.. Weblog: 現場で頑張る先生方を応援します! racked: 2018-07-27 07:51
  • 対話により思考の拡張を図り、観察の窓を開く

    Excerpt: 授業内に生徒が活動する場を作るのは、解くべき課題を与えることで発動させた思考を「対話を通じた知識や発想の交換」で拡張させることに加え、生徒の頭の中で何が起きているかを把握するための「観察の窓」を開くた.. Weblog: 現場で頑張る先生方を応援します! racked: 2018-08-10 04:38
  • 学ばせたことは、きちんと教科書に落とし込む

    Excerpt: 教室での学びをきちんと教科書に落とし込むことの重要性は方々でよく言われていることながら、実際の授業で着実に行うのは容易ではないようです。学ばせたことを教科書に落とし込むことを徹底すれば、学習内容を全体.. Weblog: 現場で頑張る先生方を応援します! racked: 2018-10-22 08:32
  • 大学入学共通テストで求められる読解力

    Excerpt: 週末に大学入学共通テストの試行調査(プレテスト)が行われました。新聞などで報道が出ていますが、出題内容や記述問題の採点基準は、早めに目を通しておきたいところです。求められる学力観の変化を捉えて教室での.. Weblog: 現場で頑張る先生方を応援します! racked: 2018-11-12 06:15
  • 知識の獲得は個人の活動を通じて

    Excerpt: 授業デザインを考えるとき、生徒が個人の活動でも取り組めるものと、集団の中での協働でしか学ばせられないものとを区別しておかないと、扱うべき学習内容を限られた授業時間と指導回数の中に納めきれなくなってしま.. Weblog: 現場で頑張る先生方を応援します! racked: 2018-11-26 07:36
  • 新しいことに生徒が戸惑いを見せても

    Excerpt: 生徒をそれまでやらせたことがないことに挑ませれば、最初の戸惑いは当たり前のこと。例えば、拙稿"教科書をきちんと読ませる"や"質問を引き出す"でご提案したような活動でも、教室に初めて持ち込んでみたときか.. Weblog: 現場で頑張る先生方を応援します! racked: 2018-12-19 06:05
  • 理解したことをきちんと覚えることの先に

    Excerpt: いよいよ2年後に迫った新テストは、これまでの2回に亘る試行テストを経て、出題の方向性がはっきりと見えてきました。共通一次試験やセンターテストは、高校現場での教育をできるだけ邪魔しないようにという配慮の.. Weblog: 現場で頑張る先生方を応援します! racked: 2019-01-28 07:38
  • 対話と協働による気づきと学びの深まり

    Excerpt: 授業内における学習者の活動性が高まることで、授業を受けて学力や技能の向上をより強く実感できたり、苦手意識の発生や増大を抑制できたりといった効果があることは、既にデータで確かめられています。授業内活動を.. Weblog: 現場で頑張る先生方を応援します! racked: 2019-04-04 07:13
  • 科目の学び方や取り組み方の獲得

    Excerpt: 主体的に学んでいると言えるには、生徒本人が「学ぶことへの自分の理由」を持っていることに加え、自ら学び進められるだけの学習方策を獲得している必要があります。誰かに教えてもらわなければ勉強が進められない状.. Weblog: 現場で頑張る先生方を応援します! racked: 2019-04-05 06:47
  • 新しい学力観にそった授業と家庭学習の再設計

    Excerpt: 高大接続改革や新課程への移行で学力観も新しいものに更新を図る必要があります。学ばせ方の転換で、家庭学習の充実が求められることは拙稿でもお伝えしました。しかしながら、授業外学習時間の延伸という課題には、.. Weblog: 現場で頑張る先生方を応援します! racked: 2019-05-24 05:45