設問ごとに出題の妥当性を確かめる

設問ごとに出題の妥当性を確かめるには、得点データを用いた定量的なアプローチと、内容に基づく定性的なアプローチがあります。

前者を用いて本格的に設問の妥当性を検証しようとすると、別稿「試行テストの分析で用いられた出題評価の手法」でご紹介するような手法を導入する必要がありますが、日々の教科学習指導の中ではコスパを優先して、もう少し手軽な方法から始めるのが好適です。

後者の定性的アプローチでは、詳細は別稿「高大接続改革に備えて考査問題も新しいスタイルに」に譲りますが、いわゆる出題ミス(設定の誤りや選択肢の不備による、正当なし/複数正解の存在など)の有無だけでなく、新しい学力観に沿った出題になっているか、測定項目ごとの配点バランスは適正かなども視点に加えて、専門家たる先生方の目で設問を一つひとつチェックすることになります。

2017/03/22 公開の記事をアップデートしました。

❏ 正答率が極端に低い問題は出さない

テスト問題を話題にするときによく使う言葉のひとつに「硬軟取り混ぜて」というのがあります。成績上位者の間でも得点差が出るように難しめの問題も配列し、且つ赤点が続出しては困るので真面目にやった生徒は確実に正解できる問題も一定割合で含めておくという意味でしょう。

しかしながら、誰でも確実に解ける問題や正答率がゼロに近い問題を課すことが望ましい/妥当なのかは、冷静に考える必要があります。

公的な資格試験などでは、正答率が極端に低い問題や識別指数が一定未満の問題は、採点集計から除外されることがあります。

学校の定期考査で、こうした措置を取るのは現実的には無理だと思いますし、その必要もないでしょうが、採点をしながら「誰でもできている問題」「ほとんどが不正解の問題」を特定しておき、次の考査では出題しないようにすることは十分に可能だと思います。

生徒に答案を返却するときに「講評」を書面や口頭で伝えているなら、既に上記の観点で設問チェックは行われているはずです。

できるはずだ/できて欲しいという思いで出題しながら正答率が極端に低かったなら、次学年の指導において指導法の改善でリベンジを図っても良いかもしれませんが、そうでないなら、その時期の考査に出題するのは好適ではなかったと判断すべきだと思います。

 ■ご参考記事: 正答率の予測ができれば授業設計も最適化


❏ 得点の実効スケールが小さくなることにも問題あり

極端に易しい問題や難しい問題が混在する、いわゆる「硬軟を取り交ぜた出題」のデメリットはほかのところにも現れます。

ほとんどの生徒が正解できない問題を入れ込むことで90点以上の高得点者がいなくなり、易しい問題を並べることで30点未満も皆無となると、形式上は100点満点でも、実際は60点満点のテストをしているのと同じことになってしまいます。

狭い範囲にギュッとつまった得点分布では、点数の違いで生徒の理解度や定着度、習熟度を把握しようとしたときの「解像度(分解能)」 が下がってしまいます。得点レンジを目一杯つかって、解像度をできるだけ高く維持するようにしましょう。

まして、単元内容ごとに、あるいは学力要素ごとの集計で到達状態を把握しようしても、ほんの数点という小さな目盛りの中に全員が含まれてしまい、これまでの指導がどれくらい成果をあげたか判然としなくなります。これは指導者にとっては大きな痛手ではないでしょうか。

生徒の側でも、頑張った成果/さぼった結果が点数の動きに現れにくいため、成果のたな卸しがはっきりできなくなる上、次に向けた課題形成にも材料が乏しくなるというデメリットが生じます。


❏ 「ちゃんとやればできる問題」も何をやるのかが問題

生徒に学びへの意欲を維持してもらうために、「ちゃんとやっておけば解ける問題」を一定の割合で出すという考え方には肯定できる部分もあります。確かに、どんなに頑張っても全然点数が取れないというのでは気持ちも折れるというものです。

しかしながら、何をちゃんとやるかの設定を誤ると、出題そのものが妥当性を失い、結果的に生徒の学習観を歪ませる可能性があります。

授業中に教えたことを素直に覚えて答案に再現できるようになることだけで得点できるような問題では、生徒の勤勉さと記憶力を試しているだけであり、獲得した知識が「生きて働いている」かどうか把握できないことは言うまでもありません。

生徒はテストに合わせて勉強しますので、「きちんと理解していなくても取りあえず覚えてしまえばOK」という態度で臨んでも何の問題も生じない(=点数が取れる)とうい状態に置かれたら、生徒は自分の学び方が本当に正しいのか自問しなくなるのではないでしょうか。

単体の知識をそのまま覚えたとしても、それを使ってできること(コンピテンシー)が増えるとは思えません。学力観はパフォーマンスモデルからコンピテンシーモデルへの転換が進んでいます。

読んで理解したことをもとに考える力、考えた結果を他者の理解と共感を得られるように表現する力なども、しっかり測定できる問題を課してこそ、生徒の学びに正しい方向付けができます。

高大接続改革以降の大学入試では、学習型問題も増えるはずです。

これらの変化に対応し、新しい学力観の要請をきちんと満たすには、生徒にとって初見の問題を考査でも課していくか、それに準じる代替策を講じる必要があるはずです。

 ■ ノート持ち込み可の定期考査がもたらすもの
 ■ 学力観の変化は良問と悪問の分け方を変える
 ■ 考査問題に使う初見材料をどこから調達するか


❏ 訓練すれば正しく適用できる採点基準か

テスト問題の妥当性を考えるときに、もう一つ視点に置く必要があるのは、採点基準のあり方です。

採点基準は、採点者(基本的には先生方)が答案に記述された事柄を正しく点数に換算しようとするときの道具ですが、同時に、生徒が自分の答案に向き合い、どこは出来ていて、どこに不足があったかを認識するためのものでもあります。

自分が書いた答案を、きちんと作られた採点基準に当てはめて、正しく採点できるようになれば、より良い答案を作るのにどうすれば良いかを考えて行くことができます。学習者としての自立に近づいたという言い方もできると思います。

大前提となるのは、先生方が用意する採点基準が、相応の訓練を積めば誰でも正しく答案に適用できるようになっているかどうかです。

主観的な記述で曖昧にされている箇所が多々あるようでは、恣意的な解釈が入り込んでしまいます。基準に照らした採点のトレーニングをどれだけ積んでも担当者間で採点結果にばらつきが出るようでは、生徒による「基準に照らした答案の相対化」など夢のまた夢でしょう。

なお、今後の大学入試で登場の頻度が高まるであろう「正解が一つに定まらない問題では、従来型の「模範解答との異同」での減点法は使えません。観点別に段階的な規準を設定した採点ルーブリックの導入も、そろそろ本格的に考えないといけないように感じます。

次稿「試行テストの分析で用いられた出題評価の手法」に続く。

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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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