難易度からの得意・苦手の意識が受ける影響

教材や課題の難易度が上がるとその科目への苦手意識が膨らむのは容易に想像できますし、実際のデータでも確認できます。しかしながら、苦手意識の発生には様々な要因が絡み合っており、目標水準を引き上げたからといってそのまま苦手の拡大に直結するわけではありません。

以前の記事「活動性を高めて苦手意識を抑える」でデータを示してお伝えした通り、授業内活動には苦手意識の発生を抑える効果があります。教え合いや学び合いを通じて、互いの足りない知識を補ったり、解決法を一緒に考えたりすることで、「なんとかなりそうだ」との認識を持てることも影響していると思われます。

2017/03/27 公開の記事をアップデートしました。


❏ 難易度をあげても、活発なやり取りがあれば

意識姿勢(得意か苦手か)を縦軸に、課題の難易度と授業内活動とをそれぞれ横軸において散布図を作ると、以下のようなグラフになります。

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中学1年1学期の国社数理英(n = 102)

近似線の傾きを表す「回帰係数」は、課題難易度が-0.65、授業内活動は+0.43という結果でした。

回帰係数のプラスが大きければ、説明変数(=横軸)がプラスになるほど意識姿勢も大きくプラスに向かい、マイナスが大きければ、グラフは右下がりの傾斜を大きくするということです。


❏ 意識姿勢への影響度は学年を追って変化する

上のグラフは中学1年生1学期のものですが、高校卒業まで学年・学期ごとに同様の解析を行ってみると下図に示すような結果になりました。

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完全中高一貫校でのデータ(n = 765)

授業内活動が意識姿勢に与える影響は、でこぼこは見られますが、学年で平均を取り直してみると6ヵ年を通して緩やかな変化に見えます。

一方、課題難易度からの影響は一定の傾向をもって変化しています。

中学に入学して間もないうちマイナスはそれほど大きくありませんが、徐々にマイナスが大きく膨らんでいきます。

難化からのネガティブな影響は中間学年(特に中学から高校への接続の時期)で最大となり、その後、高2の後半あたりから回復を見せ、最終学年の後半ではプラスに転じています。

難易度と学習効果の相関がプラスということは、しっかりと負荷がかかった方が伸びている実感が持てるということですので、まさに受験期を迎えて進路希望の実現に努力する最上級生の姿を彷彿させます。


❏ 入学前のやり方はやがて通用しなくなる

中学に入学して間もない頃は、学習内容もそれほど高度化していないこともあってか、中学受験を通じて身につけていた学習方法でもある程度までは通用するのかもしれません。

生徒が身につけていたそれまでのやり方で対処できる範囲であれば、課題が多少難しくても「チャレンジする意欲」を維持できるのでしょう。入学当初の高い意欲も下支えしているものと思われます。

その後、学習内容が高度し、また事象の捉え方にも中学・高校らしいものが求められるようになり、それまでの方法では通用しないことが増えると状況はしだいに変わっていきます。

教え合い・学び合いなどを通じて、足りない知識や発想を補うことができなければ、先のグラフで示した活動性からの「プラス側への補完」が効かなくなるので、事態はさらに深刻になると予想されます。

教室での学びに協働の要素を設けて、早いうちから教え合い・学び合いの習慣と土壌を作り、それを学習内容が難しくなる時期まできちんと維持することが大切です。

入学当初は活発に話し合いができていたクラスでも、そうした場を継続的に持たないと、少し間が空くだけでふるまい方を忘れるのか、授業内の対話が活性化しにくくなる傾向があります。


❏ 学習方法を確立できない科目は「切って」しまう

最終学年を迎えて難易度からのマイナスの影響が小さくなるのは、選択科目が中心になることも影響しているはずです。

進路希望実現の必要性から「難しくても苦手とか言っていられない」ということもあるでしょうが、それ以上に「それまでの学習を通じて学び方を獲得していた科目しか選択していない」という事情によるところが大きいと思います。

学び方が身に付かなかった科目を「切った」ことが、集団として捉えたときの回帰係数のマイナスを見かけの上で小さくしたということです。

学習方策を確立できなかった科目には、学び続ける意欲を持てず、結果的に受験に使おうとは思わないのは、想像に難くありません。

履修するかどうかは別として、受験で使わない科目でも、学び方を身につけさせ、学び続ける意欲を持たせ続けたいものです。

 ■ 認知の網の広げ方~5教科7科目をきちんと学ぶ
 ■ 5教科7科目に挑ませることの意味


❏ 学習内容を理解することを通して学び方を学ぶ

不明が生じたときにどうすれば良いかを考える習慣と、難題に出会ったときに「わからない」とあきらめるのではなく手持ちの知識を動員して何とかするという姿勢を育むことが必要です。

丁寧に一つひとつ教えるだけでは、如上の習慣や姿勢は育めません。

目先の課題を解決しようと自力で工夫を重ねる中で自分なりのスタイルを作らせれば、負荷耐性 も高まります。

与えられたものをこなしているだけの間は、自立的学習方策の獲得が進まず、教材難化の影響をもろに受けてしまいがちです。

生徒が苦手とする発想法や物ごとの捉え方を避けるように説明法を工夫して、当座の目標である「単元内容の理解」を達成させることはできるでしょうが、そのアプローチだけでは「できないことを克服する」ことはできません。難局を克服するすべを学ばせるのも教室です。

学習内容を理解させることを手段に、学び方を学ばせていくには、
  • できるようにさせたいことはどんどんやらせる。
  • やるべきことを与えたら、やり方は考えさせる。
ということを指導者の側が常に強く意識しておくべきだと思います。


❏ 学習内容や学び方の変化を踏まえたガイダンス

学習内容が変われば、当然ながら、それまでの学び方そのものも変えて行かなければなりません。

単元ごとの目標(=知識の獲得、理解の形成など)を達成すると同時に、次のステージに進んだ時に必要になる学び方(学習方策)を獲得させていくことにも、しっかり注力したいところです。

新しい学年を迎えたときや、学期の切り替わり、新単元に進むときなどの要所では、新たなステージが求めている学び方をきちんと伝え、生徒の学びに正しい方向を与えていくことも必要です。

日々の授業でも、半年後、1年後の学びをイメージさせて、今のうちにどんな姿勢と方策を獲得しておく必要があるのか、生徒自身に考えさせていくことも大切だと思います。

 ■ 次のステージに向かう準備は整っているか
 ■ 授業開き/オリエンテーション(全4編)


教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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