授業評価アンケートを行うときの最小要件

生徒による授業評価アンケートは、「より良い授業の実現/授業改善」を目的に、現状の把握と課題形成を図り、これまで重ねてきた改善行動の効果を測定するためのものです。喩えるならば、健康の維持と増進を目的とした場合の「定期健診」と同じような位置づけでしょうか。

この目的に照らして、アンケートの結果を有効に活用できるかどうかを分けるカギは「質問設計(評価項目と質問文)」と「集計方法」です。

2017年03月16日 公開の記事をアップデートしました。

❏ 評価項目(質問設計)と集計方法の再点検を

授業改善に向けた課題形成/効果測定に集計結果を役立てるには、目的変数となる「学力形成に資する授業か」などを尋ねる項目とそれを実現するのに必要となる要素を不足なくカバーした、説明変数となる項目群とで質問/評価項目が構成されている必要があります。

質問文を起こすことで、校内で共有される「実現を目指すべき授業のあり方」も明文化されますので、質問設計は、慎重に、かつ戦略的に行いたいものです。

 ■ 授業評価アンケート~正しい活用と質問設計

また、せっかく集めた回答データも、教科や学年で集計をひとまとめにしてしまっては、教科/学校全体で共有すべき優良実践が存在しても、その所在を特定することができなくなってしまいます。

担当・科目・クラスできちんと集計を分け、授業一つひとつについて項目ごとの評価結果(回答分布など)をきちんと把握できてこそ、個々の授業の改善課題を捉えることが可能になります。

質問設計と集計方法のそれぞれで「満たすべき最小要件」を整理して、チェックリストの形にまとめてみました。これまで行ってきた授業評価アンケートがこれらの要件を満たしているか点検してみましょう。

もし、現状で満たせていない要件があるなら、新年度に向けて、質問の構成と文言をどう変更し、集まった回答をどのように集計していくか、年度末までにしっかりと検討を進めていく必要があるはずです。

特に、質問設計は「授業を評価するときの観点と規準」とも言えるものです。新年度の授業が始まるときには校内のすべての先生方にその内容を知っておいてもらえるよう、年度末までに新しい質問設計を調えて、校内に周知を図るべきだと思います。


❏ 質問設計(評価項目と質問文)について

  • 生徒側での伸びている実感を尋ねていますか?

    伸びている実感は、興味の発現やその先にある進路意識の形成にも繋がります。一方、模試などの成績は悪くないのに、生徒が「伸びている」「何とかなりそうだ」との実感を欠くと、その科目を学び続ける意欲が維持できません。

    模試や考査の成績や、行動評価の結果に加えて、学びに対する生徒の意識(≒科目への自己効力感)もしっかり把握が必要です。伸びている実感を欠いて志望を切り下げたり、受験科目から外したりすれば、進路希望は実現できなくなりますし、認知の網をしっかり張るのも難しくなります。

     ■ 授業評価アンケートにおける目的変数は学力向上感

  • 学習効果を左右する要素が評価項目に不足なく含まれますか?

    学力の伸びを実感できるかどうかは、獲得した知識を活用する(=知識理解を生きて働かせる)場が十分に備わっているか、対話などの活動を通して充足感が得られているかの2つで大きな部分が決まることがこれまでに蓄積してきたデータの解析でわかっています。

    また、教材や教具の使い方などが拙く、説明や指示がわかりにくいと、理解の形成が妨げられるだけでなく、知識の活用や対話などの活動に当てられる時間が減ってしまいます。

    学力の向上や学習者としての成長・進歩を妨げているボトルネックをきちんと探し出せるよう、説明変数を正しく設定しましょう。

  • 生徒に尋ねるべきでない項目を含んでいませんか?

    先生方の授業準備が十分かなどを尋ねても、生徒は学習指導の専門家ではありませんので、正しい判定はできません。また、宿題の履行率などは、生徒にわざわざ訊くまでもなく、先生方が把握できているはずです。

    生徒が正しく判定できないこと、他の機会を通して把握できていることは、評価項目から切り離して、すっきりとした質問設計にしましょう。生徒に尋ねる質問は、生徒が答えられること、生徒に訊かなければわからないことに限定するのが鉄則です。

    余計な質問を残していては、回答の負担が上がるばかり。面倒くさくなった生徒がいい加減に回答するきっかけにもなりかねません。

  • 生徒に訊かないと判らないことが質問から漏れていませんか?

    授業内容や課題の難しさなどは、生徒一人ひとりで感じ方が違います。同じ教材で同じように教えていても、前提学力や学習方策の獲得状況によって、回答の分布はクラスごとにも違います。

    前年度まであまり負荷を掛けていなかったのに、急に「難しい」と感じる場面が増えたら、躓きのリスクが高まります。定点観測を行い3年間/6年間の指導に連続性と段階性を整えていくことが大切です。難易度を生徒がどう感じているかこまめに把握しましょう。

    学習目標の理解だって、同じように導入を行い目標提示を行っていても、生徒/クラスによってその反応はまちまちです。いざ尋ねてみたら予想していたのと全く違う結果に驚くこともしばしばです。


❏ 回答の集計方法(データの保存と加工)について

  • クラスごとの集計値が比較できていますか?

    同じ学年、同じ科目であっても、教え方/学ばせ方が違えば、個々の項目の回答分布は大きく異なります。高い評価を得た授業と、改善課題を多く抱える授業の評価結果を「混ぜて」しまっては、現状を間違って捉えてしまいます。

    高い評価を得ている授業の所在を知るにも、クラスごとの集計結果を比較できる状態にしておく必要があります。先生方がそれぞれに最善と考える方法で指導に当たり、最も大きな成果を得ている実践を選び出し、それを土台に協働でブラッシュアップに取り組んでいくことが、教科/学校全体での着実な授業改善に繋がります。

    また、同じ先生が同じように教えても、生徒側のレディネスの違いで反応も異なります。生徒の特性に合わせた教え方・学ばせ方のアジャストのためにも活用できる形にデータを調えていきましょう。

  • クラス、科目、教科、学年の各集計単位で推移を辿れますか?

    前回からの集計値の変化には、新たな工夫の成果(ときにマイナスとなることもあります)を表します。新しい取り組みが、どれだけプラスに作用したか、試行が生徒の学びにどんな影響を及ぼしたかは、常に把握しておく必要があります。

    有意なプラスが観測されていたら、それを他の先生方にも伝えていくべきです。(効果測定は、理解者と賛同者を増やすために行うものです。)また、新たな取り組みを始めるときにも、効果(=生徒に生じた変化)をしっかり確かめないと、恣意的な試行錯誤に生徒を巻き込んでしまいます。

    また、ある学年の指導で抱えた問題が、前年度までの指導に起因することもあり、そうした問題の究明に、同一集団を追跡したデータの蓄積が役立つこともしばしばです。

  • 項目間でのクロス集計など「解析」ができるデータですか?

    項目ごとの評価結果だけを見ても、改善に向けた課題形成ができるとは限りません。それが十分な水準にあるのかどうか判定がつかないことも少なくないはずです。

    クロス集計表を作って残差分析をしてみたり、回帰式の有意性を検定してみたりする必要もあるでしょうし、散布図を描き、座表面上での相対的な位置を捉えてようやく、その授業が抱える問題を推定できることもあります。

     ■ 散布図中の位置取りから授業改善の課題を探る

    集計作業を終えてローデータが廃棄(紛失?)されてしまい、集計結果(平均値などの統計量や、回答分布グラフなど)だけしか残っていないケースも多々あるようです。これでは詳しい解析が必要になったときに対処のしようがありません。クリーニング済みの回答データはしっかり保存し、所在も明らかにしておきましょう。



せっかく手間暇をかけて、実施する授業評価アンケート。有効に活用できる形での運用を心がけたいものです。如上の質問8つすべてにYESと答えられるようなら、「最小限の要件」は十分に満たしていることになるはずです。授業評価アンケートの結果をさらに活かすためには「授業改善への教員協働の体制」を整えるところにも注力が必要です。

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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一


授業評価&生徒意識アンケート

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