入試問題を授業の教材に使うときに

新課程への移行に先駆け、新しい学力観を取り入れた出題も、意欲的な大学・学部では既に見られるようになっています。いよいよ新テストも始まりますので、これから暫くは、大学入試問題ウォッチに例年以上の力を入れて、新しい学力観の下での学ばせ方を模索しましょう。

出題研究を通して"問い方"を学ぶ ことは、先生方ご自身の持つ学力観を更新するのに代えがたい機会のひとつですし、「問いの立て方とその使い方」は、生徒の学びをどこまで深められるかを大きく左右します。

出題研究を通して良問を見つけたら、どのタイミング/場面でその問題を「ターゲット設問」にするか考え、指導カレンダーに予め組み込んでしまいましょう。ある時点までの目標を立てたことになり、そこまでに何を学ばせ、どんな力を養っておくか計画が具体的に立てられます。


2017/04/18 公開の記事をアップデートしました。

❏ 出題研究は、教科観・学力観の更新機会

大学が求める学力、ひいてはその背後にある「生徒が身につけなければならない学力は何か」を真っ先に知る必要があるのは、授業の設計に当たり、学ばせ方を考える先生方にほかなりません。

生徒は、先生方の指導についていく中、授業を受けたり考査問題を解いたりしながら、先生方が持つ教科間・学力観を、経験的・直感的に受け止め、自らのうちに再構成していきます。

生徒の側で、自分が身につけつつある学力観・教科観が妥当かどうかを検証するのは困難です。そんなことができる生徒は多くありません。

先生が正しい教科観・学力観を持っていなければ、授業や考査問題を通して、生徒はその学力観を無防備に受け入れてしまいかねず、結果的には、求められているのと違う方向に学びを進めしまうことになります。

学習指導要領を読み込み、新しい教科書などをじっくり研究することももちろん大事ですが、問い方を学ぶには、意欲的な大学の入試に現れる新しいタイプの問題が有力な「教材」になるのではないでしょうか。


❏ 出題研究の成果は、授業内課題の形で生徒に還元

出題研究を通じて、どんな学力を身につけることが期待されているか、認識を日々更新していきましょう。出題研究を行っていると、授業中に課題として取り上げたい「良問」 も手元のストックに増えてきます。

授業中に取り上げれば、実際の問題を解く中で、生徒は「今学んでいることは、どのように問われるのか」「どんな学力を身につけることが求められているのか」 を具体的に知ることになり、自分の学び方が正しいのか確かめる機会にもなります。

しかしながら、良問を見つけたと思って気持ちが高ぶり、そのままポンと印刷して生徒に配って挑ませると、あらぬことが起きます。

大学入試問題を授業での教材に使うのは、「問題の評価」をきちんと行い、「教材としての最適化」を図ってからです。


❏ 出題ミスだってゼロではない

合否判定をやり直すような決定的な出題ミスもあります。そんな問題を生徒に解かせるのは好ましくありませんよね。

(そうした出題を敢えて選び、誤りを見つけて改修案を考えたり、出題ミス防止策を考えたりするのは、先生方の研修会のネタとしては面白いかもしれませんが…。)

また、出題ミスとまでは言い切れずとも、教材として使うにはちょっと手直しをした方が良い問題も少なからず存在します。

難問がすべて悪問ではありませんが、解かせて生徒に戸惑いや迷いばかりを持たせるような部分が含まれているようなら、該当部分を削除するか手直ししてから授業で使うべきだと思います。

教材として用いるのにはちょっと、という問題にはいくつかパターンがあります。それぞれについて、仕立て直しの方法を考えてみましょう。


❏ あいまいな条件設定や情報の不足

正解が一つに決まらない問題学習型問題はまた別の話になりますが、一般に、出題が最小限満たすべき要件は、問題文と「受験生が当然に所持を期待される知識」だけで正解を一義に決められることです。

後者は、教科書に載っているかどうかが一つの基準です。

ちなみに、大学で入試問題を作るときは、いろんな学校でそれぞれ違った教科書を使って勉強してきた高校生が受験するだけに、メジャーな教科書に載っているからOKというわけにはいきません。複数の教科書を調べて典拠を書き出し、点検するという作業をします。

閑話休題。教室での教材にする場合に問題となるのは、「問題文に与えられた情報」の不備や不足です。

問題が扱っている事象について、状況を左右しえる条件やパラメータが十分に且つ正しく表示されていない場合(多くは、出題者が見落としています)もあり得ます。

そのような条件やパラメータは考慮しなくて良い、という但し書きを添えれば解決するという問題ではありません。場当たり的に過ぎます。

生徒は、どんな場合はそれらを考慮すべきで、どんな場合は不要なのか判断がつかず、そこで生じた違和感は積もり積もってその科目を嫌いにする遠因にもなり得ることを教える側は十分に知るべきです。


❏ 良問だが、現時点で挑ませるには知識量が足りない

難関大学を受験する高校生を想定するのであれば「よく練れた良問」でも、受験期を迎える前の生徒、受験科目としない生徒にとっては、問題が要求する知識が多すぎる/細かすぎるというケースもあります。

この場合は、注釈をつけたり、設問を一部カットしたりする方法も広く採られていますが、必要な情報を含む資料を提示し、生徒自身にその場で読ませ、調べさせた方がはるかに教育的ではないでしょうか。

そもそも、大学入試は、先に述べた通り、設問が与える情報と教科書や資料集に記載されている事柄から正解が一義に導ける(あるいは十分に考えることができる)ように作られています。

教科書レベルの文章を正確に読めない中高生が少なからず存在する、という研究結果は教育界に衝撃を与えましたが、状況は今も同じです。

読めるようにさせたいのだから、きちんと読ませるべきであり、如上の場面は、知識の拡大を図らせるというよりも、教科書レベルの文章をきちんと読めるようにさせるための絶好の機会と考えましょう。

読書活動推進週間を設けて「書物に親しませる」 という取り組みより、よほど大きな効果が期待できそうな気がします。

何らかの論点を取り上げ、賛否を表明したうえで、その根拠などを論述させるタイプの出題も増えつつあります。

そうした出題を授業で取り上げる場合も、異なる立場から書かれた複数の文章を資料として与え、読ませる/話し合わせるという学習活動に繋げれば、多様性や判断力を高める指導機会にもなり得るはずです。


❏ 問いが大きすぎて扱いきれないときは

問いが大き過ぎて、現時点の生徒には切り口が整理できない場合は、問いを分割して、小さな問いの組み合わせに再構成しましょう。

 ■ 大きな問いは分割してから挑ませる

小さな問いに再構成する工程は、教室に臨む前に先生が済ませておいた方が、授業時間を効率的に使えますが、時には、教室の中で生徒と問答を重ねながら、問いを分割/再構成する工程を生徒の目の前で展開して見せてあげたいもの。生徒にとっても貴重な学びになりそうです。

また、論述に用いる用語をリストで示して「いくつ以上使うこと」という条件を設問に加えるだけでも、視点を絞っていくことができます。

賛否が分かれる問題を扱うなら、説明を聞かせたり答えを作らせたりする前に、生徒同士のプレディスカッションを挟むようにすれば、論点の整理ができ、問題に取り組む糸口を見つけさせられます。

これらとは逆に、消去法でしか答えが選べず、学びが膨らみにくい選択式の問題でも、生徒に学ばせたい大事な概念を扱っているなら、選択肢を取っ払って記述式の問題に仕立て直してみてはどうでしょう。問いの視点を広げ、学びのフォーカスを大きく構え直すことができます。



追記: 入試問題は、学校が求める学力(アドミッション・ポリシーの一部)を表明する手段ですから、学校が本気で教育改革に取り組み、次世代を育てる姿勢(覚悟と実力)があるかどうか、選抜試験の出題内容から想像してみるのも、あながち間違いではないと思います。

新課程や高大接続改革に先駆けて、以前から問題意識をもって入試改革に取り組んでいた大学もありますので、2020年の入試に変化がないからダメ、という単純なものではありません。

出題がどうみても新しい学力観に沿っているように思えないようなら、大事な教え子の大切な4年間をその大学で過ごさせて良いものか、冷静になって考え直してみる必要があるような気もいたします。

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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