優れた実践を見て言語化する(見取り稽古)

剣道や合気道では「見取り稽古」というのがあります。ほかの人の稽古や試合を見てその技術を学ぶことですが、単に上手な人の技術を真似るだけではありません。上手な人のやっていることを基準に、今の自分の技術を相対化して、より良くなるための課題を明確にすることで今後の練習に方向性や目標を見出すのが、この稽古が目的とするところです。

先生方が授業改善への取り組みの中で行う「相互参観」は、言うならば教科学習指導における見取り稽古ということになりそうです。

2017/04/27 公開の記事をアップデートしました。

❏ 他の先生のやり方を見て、学ばせ方の発想を広げる

別稿でも書きましたが、学年教科で共通の指導案を作り、それに沿って指導をしているのに、その成果(学力伸長の度合いなど)に小さからぬ差が生じることがあります。

生徒への目配り、発問や指示のタイミング、発言の拾い上げ方やそこでのフィードバックといった、指導案に表現されない部分での技術の違いがそうした差を生じていることが少なくありません。

また、生徒の理解度や能力に応じて、指導案の解釈や具体化の方法をアレンジすることで、効果を高めているケースもよく見かけます。

ましてや、共通指導案を持たない場合、どんなデザインの授業で、どう生徒に学ばせているかは、先生ごとに大きく違っているはずです。

こうした指導における違いの中には、教科会での実践報告などを通じて伝えられる部分もありますが、実際の教室に足を運んで現場を観察してみないとわからないところも少なくありません。

常に自分なりにベストと考える方法で指導に当たっていても、そこで出来るのはあくまでも自分の知識と経験から生まれる発想の範囲内です。他の先生のやり方を目にして、発想の及ぶ範囲を広げていきましょう。


❏ 参観すべきは、優れた指導成果を出している授業

授業の参観は、授業動画を使ってもできますが、実際に教室に足を運んでの参観は、生徒のノートを覗き込んでみたり、生徒同士のやり取りに耳を傾けたりする中で、気づけることがグンと増えます。

とは言え、ただでさえ多忙を極める校務の中、他の先生の授業を参観に行く時間を作るのは容易なことではありません。せっかく時間を割いて教室に足を運んだのに、得るものがあまりなかったというのでは、参観で学ぶことへの意欲も維持できません。

確実な「実り」が期待できそうな授業を選ぶのも大切ということです。

まずは、模試や考査の成績や授業評価アンケートの結果などを使い、倣うべき点がありそうな優れた結果を出している授業を探しましょう。

共通指導案を使って複数の先生が授業をなさっている場合なら、定期考査の成績をクラスごとに比べてみるだけでも「優良実践」は探せます。

参観に訪ねた教室でも、漫然と観察するより、データで見つけたそのクラスの強み(例:成績下位者が少ない、上位が良く伸びている、板書の評価が高い)を意識しておくと、学ぶべき点を見つけやすくなります。


❏ 優れた点を見つけたら、理由とともに良さを言語化

目にしたものを自分のものにするには、「言語化」というステップが必要です。言語化を試みることで、倣うべき手法/学ぶべき点をより深く考え、具体的に捉えることができます。

その手法が、なぜ/どうして学力形成という成果に繋がっているのか、言葉で説明できるところまで突き詰めておきたいところ。理由もわからないままでは、自信をもって担当クラスの指導に応用できません。

初めて目にして「すごい!」と思った工夫は、理由までは往々にして上手く説明できないものです。その良さを客体化できていない段階ということですので、形だけ真似ても、表面的な模倣に止まってしまいます。

相互参観を終えたら、「どんな工夫があり、どんな効果を得ていたか」を授業を観ていない人にも伝えられるところまで、しっかりと整理してこそ、参観の成果が得られるのではないでしょうか。

どういう点でその工夫が優れているのか説明できるようになるところが相互参観を行う中で最初に目指す「目的地/中継点」だと思います。

参観で学んだことをそのまま自分の授業に取り込んでは、授業全体の流れがちぐはぐなものになったり、前提条件が一致せず効果を得なかったりします。新たな手法を採り入れるのに、これまでの自分の授業をどうアレンジすれば良いかも、じっくりと考えたいところです。


❏ 互いの観察を持ち寄って、授業観をブラッシュアップ

授業を参観し、せっかく言語化した「良さとその理由」は、できることなら、他の先生方とも積極的にシェアしたいところです。

複数の先生で同じ授業を観ていると、着目したポイントや得られた気づきが、それぞれ違ったものになっているのはよくあることです。それを互いに交換すれば、気づきはさらに拡張し、学びは深まります。

授業参観週間などでは、様々なデータを使って探し出した「優良実践」を対象に、教科の先生方が揃って参観し、「良さを言語化する」というタスクに協働で取り組むのも面白いのではないでしょうか。

良さをどのように説明するかにも、それぞれの先生の持ち味のようなものがあり、そうしたやり取りを周囲で聞くだけでも勉強になります。

同じ時間に参観が設定できないのなら、観察出来るポイントがやや減ってしまいますが、時間が合わない先生には授業の動画を観てもらう手も
あります。足りないところは、他の先生の観察&言語化の成果に触れてある程度までは補えるはずです。


❏ 改善の方法を考えることの中にも大きな学び

様々な授業を観に行っていると、生徒がうまく動いてくれないとき、説明が伝わっていないときなど、授業者の意図がうまく実現できていない場面にも出くわします。

そんなときも、「なぜうまく行かないのか」を論理的に考え、修正の方法を考えるようにすると、自分の授業をより良くする新たな発想や手札が得られることも少なくありません。

上手く回らなかったパートはカットして、他の活動に置き換える方法もありますが、準備フェイズをちょっと工夫したり、活動の配列を変えてみたりする修正案で対処可能な場合もあります。

他の先生の失敗/ご苦労の中にも、より良い授業デザイン/学ばせ方へのヒントがあるということです。参観して考えた結果を言語化しておけば、授業者の先生に伝えてあげることもできるのではないでしょうか。

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気づきのシェアという「対話」の場を持つことは、指導観/授業間を揃えていくことにも繋がり、学校として謳える「指導像」の確立に近づく好機です。先生ではなく学校を選んで入学してきた生徒にとって、担当先生が違っても同じ方向で学ぶことができ、その成果(結果学力)にも違いが生じないというのは、望ましいことだと思います。

また、優れた実践を見つけて言語化することが、指導観を磨き、更なる改善に向けた土台を作るのは、教科学習指導に限ったことではありません。進路や探究の指導でも同じです。一つ上の学年での指導機会に足を運び、そこにある良さと改めるべき点を捉えて言語化を試みることから自分の学年の指導への準備が始まるのだと思います。参観を終えたら、一緒に見ていた先生方と所感を交わす機会も持ちたいものです。


教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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