協働学習を"集団としての調和"で終わらせない

教室内での問答や討論などで実現される「対話的な学び」は、生徒が互いの知識や経験、発想を交換することで学びをより深いものにするのに加え、一人では解決できない課題に取り組むときにも欠かせないものです。

しかしながら、対話が盛り上がることと一人ひとりのうちに学びの成果が蓄積されているかどうかは別の話。集団としての活動が盛り上がっていることに目を奪われていると思わぬ落とし穴が待っています。


❏ 学習の目的は、コンピテンシーの増大

言うまでもないことですが、学習を通じて目指すのは、一人ひとりの生徒ができること(=コンピテンシー)の増大を図ることです。

グループやクラス、あるいは学校という学びのコミュニティを離れたあと、生徒はひとりで課題解決に臨んだり、他のコミュニティに参加して課題解決の場になんらかの貢献をしなければなりません。

他の生徒が主導して、目の前の課題に答えが導き出されても、その過程に自分が積極的・能動的に貢献できたという自覚がもてなければ、その答えは「なんとなく出来上がってしまったもの」に過ぎないのではないでしょうか。

その場で得られた気づきや、補ってもらえた知識を、復習するなり、別の問題で試すなりの方法で、「自分のものにさせる」ことが重要です。


❏ グループごとに答えを発表させることで終わらない

グループで導き出した答えを発表させて「完了!」 とするのでは、大切なものが欠けています。

他のグループの発表を見て、相互評価や先生からの補足を通して、「答えのブラッシュアップ」 の視点を得させたら、一人ひとりのタスクに戻して「自分なりの完成した答え」 に仕上げさせましょう。

記述・論述タイプの問題、特に答えが一つに決まらないタイプの問題ならば、仕上げを宿題にして、次の授業までに自力で完成させて提出を求めましょう。

次の授業では、それらを用いた公開添削や相互評価を行えば、さらに学びを深くさせることもできそうです。


❏ 答えが一つに決まる問題では、発展要素を含む別問題を

答えが一つに収束する問題では、自分なりの答えというより、他人の答えの複製でとどまってしまうことが多いため、類題に挑ませる必要があります。

類題といっても、単にパラメーターを置き換えたようなものでは、「他人が作ったプロセスをなぞっただけ」 ですから、発展的な思考を含む問題、既に学んだものを組み合わせることを求める問題が必要です。

そこまでの段階で、周りの生徒に引っ張ってもらっていただけの生徒が、発展的類題にそのまま挑んでも、返り討ちに合う可能性も少なくないはず。

類題を「宿題」にするだけでなく、教室を出る前に解き方を考えさせて、隣同士で説明し合わせるなどのワンステップを挟むことで、「挑んだときの達成可能性」 を高めることができます。


❏ フォーメーションの変更でフリーライダーを作らない

グループ学習だけで授業を進めていると、フリーライダー(他の生徒の活動にただ乗りする生徒)も出てきます。

上述のように、「個人で仕上げること」 が求められる場を定常的に用意しておかなければなおさらです。

また、個人、ペア、グループと場面ごとにフォーメーションを切り替えていくことも必要です。たとえ、島型に机を並べているときでも、個人を指名して発言させることはできるはずです。

予め決めておいた人数を連続で指名し、発言の正誤に依らず、自分が考えたこと/自分の意見を言葉にさせていくだけでも、一定の効果が見込めます。


❏ 自力で挑みたい/仕上げたいと考える生徒も

また、生徒の中には、周囲と助け合って答えを作ることに満足できず、自力で課題に挑みたいという欲求を強く持っている生徒もいます。

手空きの時間が生じたときに取り組める「挑戦課題」を用意しておき、そのような生徒の欲求を満たすとともに、伸びこぼしを生まないようにするべきです。

問題集を持たせて週末課題などで進めさせているのであれば、それを授業中に進めても良いというルールだって十分に合理的でしょう。

生徒の様子を見ながら、黒板の片隅に、チャレンジングな問題を書き出して、「余裕があったら解いてごらん。持ってきたら添削してあげるよ」というやり方もあるはずです。


❏ 知識・技能、思考・判断・表現の力は個の中に作られる

冒頭でも述べた通り、学習指導が目的とするところは、生徒一人ひとりのコンピテンシー増大です。

学校は、生徒を一定期間預かる場です。その中でのパフォーマンスではなく、送り出すときに何を身につけさせられたかで価値を問われるべきです。

身につけさせるべきものは、教科固有の知識・理解・技能だけではありません。思考力・判断力・表現力に加え、主体性・協働性・多様性も含まれます。

他人が作った答えを覚えて答案上に再現することを繰り返していても、思考力・判断力・表現力は身につきません。

主体性・協働性・多様性も、協働で挑む課題解決に参加してこそ、身につける機会を得られます。


❏ 生徒同士の関係性や互恵意識は、協働場面を作って育む

教え合いや学び合いなどを通して、互いに協力し合うことの価値や喜びを体感させることは、協働性を育む上でも大切です。

講義一辺倒の授業で、生徒同士の交流や対話を断ち切って、先生と生徒を一対一で結ぶような「扇形」 の関係だけを常態としている教室では、互いに協力し合う機運も生まれず、思いつきで協働場面を作っても、うまく行きません。

協働のやり方を生徒が身につけていなかったり、どのような行動なら許容されるか見極めができず、「何もせずに様子を見ている」 という雰囲気がありありと見て取れたりします。


■ご参考記事:
  1. 仕上げきる過程を省かない
  2. やりきらせる責任(全3編)
  3. 課題の仕上げは個人のタスクに(前編)(後編)
  4. 互恵意識で結ぶ学びのコミュニティ


教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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