不要な苦手意識を抱かせない(前編)

小学校入学以来の学びの経験の中で、苦手意識を膨らませてしまっている生徒は少なくありません。中には、実際には成績も悪くないし、授業には問題なくついて来られるのに、その科目が得意か苦手かと訊かれると「苦手」と答える生徒も思いのほか多くいます。

苦手意識を抱えたままでは、与えられたことを超えて積極的に挑もうとする意欲を持てなかったり、少しでもわからないことがあるとそこで立ち止まってしまったりします。学びを押し広げる行動も起こりにくく、消去法での進路選択に拍車がかかるなど好ましくないこと多々です。

できることなら、不要な苦手意識は持たせないようにしたいもの。苦手意識の原因に立ち返り、教室で何ができるか探ってみたいと思います。

2017/08/21 公開の記事をアップデートしました。


❏ 苦手意識抑制のために難易度を下げることの弊害

授業の内容や教材が難しかったり、自分が伸びている実感を持てなかったりでは、苦手意識を感じるのは直感的に予測できることですが、授業評価アンケートのデータでもその傾向は確認できます。

下表に示すのは、授業や課題に対して感じる難易度と、その科目への得意/苦手の意識とのクロス集計表の残差分析の結果です。有意なプラスが確認できるセルに網掛を施しました。

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確かに、難易度を下げて「易しい」と答られるようにすれば、苦手と答える生徒を一定程度は減らせる可能性はありそうです。

しかしながら、瞬間ごとの段差を小さく抑えれば、その積み上げの結果である最終的に到達できる地点も低くなってしまいますし、理解しよう/課題をクリアしようとする努力で身につくものが小さくなる結果、いつまでたっても「易しく抑える」以外の手立てが打てなくなります。


❏ 新たにできるようになったことのたな卸し

一方、下表は授業を受けての学力向上感と得意/苦手意識とのクロス集計の結果です。学力の向上や自分の進歩を実感できると「明確に」答えている場合、得意と答える生徒が有意に増加しますが、答えが一段階弱含みになるだけで、苦手と答える生徒が混じり始めています。

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このデータが示唆するのは、深く確かな学びを実現することの必要性は当然として、その上で「学びを通して新たにできるようになったこと」のたな卸しを生徒にしっかりと行わせることが苦手意識の抑制に不可欠だといということです。

先生が丁寧に説明することで、疑問を残さず単元の学びを無事に終えたとしても、それだけで生徒は「新しくできることが増えた」こと(=学力の向上や自分の進歩)を自覚できるとは限りません。

学び終えたときに改めて(学び始める前にトライしたときはできなかった)課題に生徒自身が取り組んでみて、納得のいく答えを自力で導けるようになっていたことに気づく機会、より良い答えが導けるようになったことを確認できる仕掛けが必要です。


❏ 本気で取り組むには「学ぶことへの自分の理由」

冒頭でも触れましたが、苦手意識に強く支配されると、学習活動への取り組みが消極的になり、その結果「できるようになるチャンス」を逃してしまいがちです。

適切な課題を用意し、挑ませるまでに周到な手順を講じても、生徒が一生懸命に取り組んでくれないことには「やっぱりできなかった」という望まぬ結果になることもあり得ます。

如何にして本気を出してもらうかが勝負の分かれ目ということです。

何をやろうとしているのか、ピンとこないままに授業を受けていたり、学ぶことへの自分の理由を見出していなかったりすれば、本気を出してくれるわけはありません。

まずは、しっかり本時の学びが目標とするところを認識させましょう。学習目標を伝えるのに単元名を並べても効果はありません。まだ学んでいないことだけに、何を学ぶのかイメージすることすら困難です。

別稿でも申し上げた通り、「学習目標は解くべき課題で示す」のが鉄則です。学びを通して答えが導けるようになる問いを見れば、何のために学ぶのかも想像しやすくなります。

如上の問いや課題を与えられて答えを考えてみて、「一体なんだろう、どうなるんだろう」と疑問が浮かべば、その解消への欲求も生まれます。その欲求こそが「学ぶことへの自分の理由」だと思います。

学ぶことへの自分の理由もはっきりしないところに、小難しい話を聞かされた上、覚えないと叱られるという経験は、それだけで科目への嫌悪感(苦手意識の別形態)の原因として十分なものでしょう。


❏ 課題を与えた以上、確実にクリアさせる必要

課題を与えた以上、達成まで着実に導かないと「できるようになった」どころか「やっぱりできなかった」という認識を持たせるばかりです。

生徒に与える課題を吟味し、課題が要求している知識や理解、解法立案に必要な発想といった「必要なパーツ」を把握した上で、そのひとつひとつをどんな学習活動を通じて確保させるか、周到な計画が必要です。

既習事項の定着度がカギになる箇所なら、別稿「既習内容の確認は、問い掛けで」でご提案した方法が有効に作用するはずです。

新たに学ぶ単元の内容でも、先生の説明が最もわかりやすいとは限らず、生徒同士の教え合いや学び合いも十分に活用したいところです。

 ■ 活動性が苦手意識を抑制する機能とその限界


❏ 参照型教材を使いこなせる状態に導く

また、周囲に先生や友達がいないと小さな不明すら自力で解消できないのでは、苦手意識を振り払えないのも当然のことです。自力で教科書や副教材を読んでそこに書いてあることを理解する練習も、日々の授業の中でじっくり、繰り返して積ませるべきでしょう。

参照型教材を徹底して使い倒す中で、「たとえわからないことがあってもこれを調べれば大丈夫」と思えるところまで到達すれば、わからないから立ち止まるといった事態は確実に減ってくるはずです。

別稿「自力で学ぶ力を育むのに重要な、最初に選ぶ”対話の相手”」で申し上げた通り、生徒が自力で調べることもしないうちに、先生が先回りして教えてしまったり、すぐに回りに訊ねさせていたりするだけでは、学習者としての自立は遠のくばかりです。

まずは、ご自身の日々の授業で教科書をきちんと読ませることが徹底できているか、点検してみましょう。繰り返しになりますが、やらせないことにはできるようになりません。


❏ 失敗しても次に向けた課題が形成できれば

如上の策を講じてもなお、課題をクリアできなかったときも、振り返りを通して、「どうすれば解けたか/より良い答えや成果を得られたか」を考えつくことができれば、「ダメだった」では終わりません。

こうやったら次は上手く行きそうだ/上手く行くかもしれないとの展望が持てれば、自分の可能性を低く見積もって「どうせまたできない」というネガティブな自己認識(苦手意識)に縛られることはないはず。

生徒が作った答案や導き出した解を採点して、正否の判断を返すだけでなく、生徒自身にきちんと振り返りをさせ、次に向けた課題形成ができるように導いていくことも大切な指導目標の一つです。

ある日の授業だけでこれを実現しようとしても、上手く行くわけがありません。「振り返りを通じた成果のたな卸しと次への目標設定」は日々の授業で繰り返し経験させることで身に付くスキルですので、一定期間に亘る継続的な指導の積み重ねを必要とします。

 ■ 言語化を通じて育む「振り返りのための相対化スキル」

後編に続く。(未更新)

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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