学習型問題への対応力を養う

2020年に向けてということもあり、近年"学習型問題"をよく見かけるようになりました。

教科書では扱われていない、つまりは生徒がそれまで馴染みのない事柄について、説明文や資料を読ませ、そこで得た理解をもとに考えや意見をまとめて論述させるというものです。

これまでは一部の大学に出題が限られましたので、個別指導で対応できましたが、出題が一般化してくるとなると、授業のあり方そのものにも転換が求められそうです。


❏ 短期集中型の対策より、普段の授業の中での経験を

ある意味で「特殊な問題形式」ではありますので、集中的な演習の場を持つことで受験対策とするという作戦をお考えになるかもしれませんが、本当にそれだけで充分でしょうか?

どう見ても、短期的に身につく能力ではありませんし、なにより、如上の"作戦"では経験の場が少なすぎて、「その手の問題を体験した」というレベルに止まるような気がします。

短期集中型の対策に、そもそも向かないタイプの問題と考えた方がよさそうです。

普段の授業から、同じような"学び方"を経験させていく授業デザインができれば、様々な教科・科目での学習を通じて、どんな場面でも発揮できる能力を培うことができそうな気がします。


❏ 学習型授業デザインは問いを与えるところから

授業の流れとしては、冒頭の導入フェイズで問いを提示するところから始まります。

資料を読ませたり、説明を聞かせるときも、問いあるからこそ焦点を持てますし、必要な情報をピックアップするときの判断もできます。

同じ資料を読んでも、問いが違えば拾い上げる情報は違いますよね。

逆の見方をすれば、同じ資料/説明に対して、異なるいくつかの問いを与えておけば、多角的な学びを同時に行うことができるはずです。

生徒が漠然とした理解で「環境問題」とひとくくりにしてしまうような問題でも、経済学的な視点や法整備からのアプローチ、コミュニティや個人の生活からの解決策、科学技術的な考察など、様々な切り口がありえます。


❏ 生徒自身に採点基準を作らせてみる

答えが一つに決まる問題ならば、生徒自身に「答案に盛り込むべき項目」をピックアップさせながら、資料を読ませ、話を聞かせましょう。

答えが出来上がってから、先生が用意しておいた模範解答とつき合わせても、自分の答えを棄却して先生の答えを覚えるだけの学びに戻ってしまうことがあります。

これに対して、生徒自身で意識的に「拾上げるべき情報」をピックアップさせることで、資料や説明から能動的に情報を拾い上げる方法と姿勢を学習させられます。

もちろん、答えを書きあげた後は、「答案に盛り込むべき事柄」(≒採点基準)を先生の側から示す必要があります。

自分で作った答えに満足しているだけでは、学びは広がりも深まりもしません。

基準に照らして自分の答案をブラッシュアップしていくことは、表現力を高める指導で書いた通り、より良い答案を書き上げる練習として最適なものの一つです。


❏ 多様な意見に触れて、判断の軸を作らせる

一方で、「答えが一つに決まらない問題」では、授業デザインにもう一つ別の要素を組み込む必要があります。

多様な意見に触れて、発想を拡充したり、判断の軸を定めることです。

一人ひとりの生徒が、問いに向き合う視点を定められない、論じるときの軸足を決められないようなら、生徒同士のプレディスカッションを行うのが効果的です。時間がないときは先生との問答で置き換えることも可能です。

生徒同士が意見のやり取りをする中で、発想が広がり、見落としを解消していきます。多様な考えに触れる中で、自分の中にあった独りよがりな考えから離れることもでき、判断力を高めることになります。

この段階で止めてしまっては、協働学習を"集団としての調和"で終わらせるだけですので、ここからが学びの本番ということになります。


❏ 観点別の答案評価基準を適用できるように

多様な答えが正解となり得る場合、書き上げた答案を照らし合わせる基準は、「書き込むべき要素」を並べるだけでは完成しませんよね。

答えが一つに決まらないということは、書き込むべき要素も一義に決められないからです。

主張が明確か、サポートとなる論拠は十分か、矛盾を含んでいないか、反論を十分に予想しているかなどの観点を設けて、答案を評価させなければなりません。

それぞれの観点について、満点を与えられる状態、軽微な減点で済む状態、大きく減点される状態、まったく点数を与えられない状態を、生徒にもわかる表現で書き出しておく必要があります。

いわゆる採点ルーブリックですが、3ヵ年/6ヵ年を通して共通したものを使うのが好適です。

もちろん、初期の段階では「ここまで求めなくても良い」というものは適切な時期まで外しておくという判断もありですが、大枠がぐらぐらしては生徒は戸惑うばかりです。

できれば、教科・科目を跨いだものが出来れば申し分ありませんが、これは少し先の話になりそうです。


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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一


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