正解がひとつに決まらない問題

別稿で取り上げた「学習型問題」と並び、近年の入試で出題が見られるようになったものに「答えが一つに決まらない問題」があります。

答えが一つに決まらないのと「答えが存在しない/解答不能」は全くの別物です。論理的に(=理屈で考えれば)成立する様々な答えがあり得る/一つに限られないというだけのことです。

社会に出れば、こういったタイプの問題に多く遭遇しますので、様々な答え/アプローチを考え、それらが論理的に成立するのか評価したり、それぞれのメリット・デメリットから、優劣や妥当性を判断したりする力は、「社会を生き抜く力」の重要な一部をなすはずです。

そうした力を身につけているか、身につけられるような学び方をしてきたかを試そうというのが、このタイプの問題を課す意図でしょう。

2017/08/25 公開の記事をアップデートしました。

❏ 正解が一つに決まらない問題で何を学ばせるか

同じ状況にあっても、立場によって何を優先するか/どこに価値を置くかが違う以上、「好ましい結果」はそれぞれ。自ずとその結果を得るのに「最適な選択」(=答え)も異なり、選択への賛否も分かれます。

自分の立場だけで解決策を考え、異なる利害や価値観を持つ人のことを考慮しなければ、分断や対立が生まれるだけだと学ばせるにも、答えが一つに決まらない問題に取り組ませる機会が必要です。

同じ社会に様々な立場の人々が暮らしている以上、考えの相違は至る所に生まれ、それぞれが「正解」と考えることも異なり、そこには往々にして競合や対立も起きます。そんなときに互いが許容できる「納得解」を見つけ出せるか/作り出せるかは、まさに「生きる力」の一部です。

独善的な考えしかできないようでは、協働性が身についているとは思えませんし、21世紀型能力の「実践力」の構成要素である人間関係形成力や社会参画力も十分な水準に達しているとは思えません。

広い視野で多くのことを考慮に入れた上で、しっかりと(=根拠を持って)判断の軸を作れるようになること、「多様性」や「判断力」を獲得することもまた、あらゆる教育機会を通して狙うべきことの一つです。

賛否が分かれたり、解決に複数のアプローチが考えられたりする「答えが一つに決まらない問題」を教室で扱うことの意義は、正にここにあるのだと思います。そのような学びを高校でしっかり経験させてこそ、社会に出て/大学に進んで必要となる能力・資質が身につくはずです。


❏ 複数の答え/アプローチから最適なものを選ぶ力

ある問題(社会が抱える問題、証明が必要な事柄など)を解決するのに考え出されたアプローチにも、実現可能性や費用対効果、どれだけ多くの当事者の納得を得られるかなどで、答えには「優劣」が存在します。

考え得る複数の答え/解決策の中から、より良いもの/最適なものを選び出すための思考と手順を身につけさせるにも、正解が一つに限らない問題を教材とした学びの場は不可欠です。

何かを証明しようとする場合でも、やり方は幾つもあるはず。例えば、今年(2022年度)の大学入学共通テストの物理基礎では、純金と偽って銀を混ぜた細工師の不正を暴こうと、あの手この手で証明を試みる(劇中の)王女が第3問に登場しています。

比熱を使った証明では、「誤差ではないか」と反論され、密度の実験で相手を黙らせ、電気抵抗を測定してとうとう観念(逃亡)させます。

ちなみに、最後の実験は、証明のためとは言え、純金のスプーンを針金に加工してしまうのは費用対効果の上で果たしてどうなの?と思わなくもありませんでしたが、不正を暴くことを優先するとの判断の下では、きっとこれが「論理的に妥当な結論」なのでしょう。

この問題は、「正解が一つに決まらない問題」ではありませんが、様々な角度から問題へのアプローチを考える場面を高校での教室でも作って欲しい、との出題者の意図/願いが見て取れるような気がします。


❏ 答えがひとつでない問題に日々の授業で挑ませる

答えが一つに決まらない問題は、各教科の至る所に作れるはずです。

教科書や資料を読ませて「しばりの緩い問題」を与えて自由に答えを考えさせることもできますし、証明や検証の方法を考えさせれば、様々な答えができます。答えが一つの問題でも別単元の知識を使って別の解法を考えさせることも可能です。

生徒が様々な答えを作ってからが、指導の本番です。好き勝手に作った答えをすべてOKとしては、答えの妥当性を確かめたり、より良い答えに作り替えたりする方法を生徒は学べません。

それぞれの生徒/グループが考案した解答案を教室でシェアするところから、学びを先に進めていきましょう。

 ■ 生徒の答案をシェアして作る学び(相互啓発)


❏ 他の生徒の答案を通して知る多様なアプローチ

複数の答案を前に、それらを比較する中で、多様なアプローチがあることを生徒は改めて具体的に知るでしょうし、優れている点や改めるべき点を探し出して、それぞれの理由や手当の方法を考え、言語化することで、最適解に近づく姿勢と方法が身についてきます。

ここでは、先生が用意した「模範解答」を不用意に示さないことが大切なのは言うまでもありません。提示された解き方や答えを覚えれば良いという誤解をする生徒もいるでしょうし、正解が一つに決まらない問題を扱うことの意義を大きく損ねてしまいます。

なお、答案をシェアするときは、前もって先生の目でどの答案を対象にするか精選しておくことも大切です。ICTの普及で、全生徒の答案を瞬時にシェアするのも簡単になりましたが、40人分の答案をいっぺんに目の前に並べられても、一つひとつ答案を熟読して評価できません。

選び出すべき答案は、それぞれ違った観点から組み上げられているものや、拾い上げるべき良さを持っているもの、生徒が陥りがちな「罠」にうまいこと嵌ってくれている答案などが好適だと思います。


❏ 設問条件を加えて、問いをアレンジしていく中で

生徒の答案をシェアし、話し合いや問答を通じて「最適解」らしきものが作れたら、そこからもう一歩先に踏み込んでいきたいところです。

新たな条件が加われば、最適解も変わります。入試問題でも、設問条件を変えたり、新たなデータや資料を加えたりすることで、それを論理的に思考に組み込めるかどうかを試すものが見られます。

どのデータに着目するか、どの立場を取るかを選択させて、それぞれから論理的に帰着する結論を正しく選べるかを試すという、ちょっと手の込んだ問題も見かけることがありますが、意図しているのは同じです。

日々の授業でも、一度出来上がった答えに対して、「条件をこう変えたら」「このデータも考慮にいれたら」と問いをアレンジしていくことで一つの問題にも見落としていた観点や、状況が少し変わっただけで考え直さなければならなくなることもあるのだと学ばせていきましょう。


教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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