正解がひとつに決まらない問題

先日の記事で取り上げてみた「学習型問題」と並んで「答えが一つに決まらない問題」も出題の増加が見込まれるとされています。

正解が一つに決まらないと言っても、答えがない/解決不能ということではありませんよね。

解決へのアプローチに様々な切り口が考えられる問題や、賛否などの立場によって異なる議論が成立する問題などのことを指します。


❏ 多様なアプローチが取れる問題

与えられた課題に様々なアプローチがある場合、出題者が意図した解法を選ばなければ合格答案として認められないということはありません。

賛否についても、出題者と同じサイドに立たないと採点してもらえないというような不条理もないはずです。

結論が明確にされ、それをサポートする論拠が揃い、反対意見をきちんと予測している「答え」であれば、正解として扱われ、応分の/正当な点数が与えられます。

こうした問題に対応するために必要な準備は、
  • 一つの課題にも多様な解法(考え方)があることを知り、別のアプローチがないか常に探ろうとする姿勢をもつこと
  • 自分の主張が、他者にとって理解・共感し得るものか客観的に評価でき、欠けているものがあればそれを見つけて補えること
という2つを満たすことを目指したものになるのではないでしょうか。


❏ 答案や解法の比較評価の場を作る

それぞれの生徒/グループが考案した解答案を教室でシェアすることが、こうした指導の場面になるはずです。

優れている点はどこで、その理由は何かを考えたり、突っ込みどころを探し、どのような手当をすれば穴を埋められるか考えたりする機会を通して、生徒に必要な力を身につけさせていきましょう。

答えが一つに決まる「解内在型の問題」を扱うときのように、先生が用意した「模範解答」を示すだけでは、如上の場面は作れません。

提示された解き方や答えが唯一のものと誤解してしまったり、「その答えを覚えておけばいいんですね」という誤った態度を取らせてしまっては何にもなりません。


❏ 答案をシェアする前に先生の目で精選しておく

ICTの導入で、全生徒の答案を瞬時にシェアするのも簡単になりましたが、40人分の答案をいっぺんに目の前に並べられても、一つひとつ答案を熟読して評価できません。

あらかじめ提出させたものを、先生の目で精選し、シェアすべきものをピックアップしておくという授業準備が必要であることは申し上げるまでもありません。

選び出すべき答案は、拾い上げるべき良さを持っているものと、陥りがちな罠にうまいことはまってくれている答案ということになるのではないでしょうか。


❏ 答案を点検するときのチェックポイントを示す

答案を並べてみても、それらが必要な論理性を備えているかどうか点検するときのチェックポイントを知らないことには、書かれたものを客観的に比較・評価することはできません。

ここでいうチェックポイントは、答案を採点するときに先生方が基準としているものと同じはずです。

採点基準がブラックボックス化されていては、どのように答案を書くべきなのか、生徒は学ぶ機会を失ってしまいます。

拙稿「表現力を高める指導」でもお伝えした通り、普段の授業の中でも、「自分の答案を点検するときのチェックポイント」を示して、生徒自身にも自分の答案に適用させていく必要があるということです。


❏ 学びを重ねる中で採点基準を作り上げていく

最初から完成版のチェックリスト(採点基準)を示してしまう方法もありますが、一つひとつ学習を進める中で、基準を一つひとつ示し、リストに加えていく提示方もあるはずです。

いっぺんに示されても、ぴんと来ないものが残るだけかもしれません。

ある日の「答案比較」の中で、チェックポイントに加えるべき観点を得たら、生徒自身が成否判断できる表現を与えてリストに書き加えていきましょう。

自分たちで実際に評価、検討してみた具体的な答案と結びついた、「採点基準の理解」を徐々に形成していくことを目指しましょう。


❏ 授業や考査で具体的な設問を扱う中で汎用基準を作る

汎用的な採点基準を先行して作ろうとしても、実際の問題と結びつかないと、合理的で整合性のある基準にはならないことも予想されます。

授業準備と別に採点基準の研究と開発を進める余裕も多忙の中に見つけにくいはずです。

採点基準(採点ルーブリック)作りは、普段の授業や定期考査の問題作りの中で具体的な課題/設問を扱いながら、生徒と一緒に進めていくのも悪くないような気がします。

まずは組み込むべきパーツ(観点と規準)の候補をピックアップして集めておかないことには、整理・統合の段階には進めません。


教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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