ひとつの教材を扱う中で4技能を養う(その2)

前稿に引き続き、高大接続改革でこれまで以上に重視される「思考力・判断力・表現力」の育成と、「4技能の向上」という2つのミッションを同時に達成し、さらには「自学を可能にする学習方策の獲得」も目指した授業を、限られた指導機会/時間の中でどのように実現すべきか考えてみたいと思います。

言うまでもありませんが、文法や構文の体系的理解や、運用語彙・認識語彙の形成にもきちんと取り組まないと、先に進んで躓いたり、どこかで技能の伸長にストップがかかるリスクが高まります。


❏ 読んで理解したことを表現する力はリテリングで

読んで理解したことをまとめて表現する力を養うのに最適な練習法のひとつはリテリング(retelling)です。

読み取ったことを別の形で伝えるには、どの情報をピックアップし何に焦点を当てるかという判断も必要となりますので、その過程には思考の要素も含まれます。

レシテーション(暗唱)も学習内容の定着に効果的ですが、考えて自分なりにまとめ直すリテリングの方がより実践的です。本文の内容や生徒の状況によって2つを使い分けるのが好適です。

指名した生徒に発表させるだけでは他の39人が傍観者になります。ペアやグループでの活動も併用しましょう。

練習の様子を観察しながら、誰に発表させるか決めていけば、そのとき頑張った生徒に「認められる場」を与えることができます。

ちなみに、宿題にして発表者を予め指名しておくのだけは避けるのが賢明です。当たっていない生徒は取り組みさえしなくなっては「勉強するな」と言っているようなものです。


❏ リテリングをベースに意見構築に展開

生徒がリテリングに慣れてきたら、自分の考えや主張を一文加えるところからはじめて徐々に活動を拡張していきましょう。

意見や主張には、当然ながら理由と根拠を求められますが、最初から複雑なことを求めても躓きがちです。まずは「本文の内容に対して自分はどう思うか、賛成か反対か」というシンプルなところから開始するのが授業にとりいれるときのコツです。

スタートにした賛否や、シンプルな意見・主張に対して、
  • どうしてそう考えたのか
  • 根拠となる事実は何か
  • どんな反対意見が予想されるか
  • その意見に反対する人はどう考えているのか
  • その人たちに納得させるにはどうしたら良いか
といった具合に、問いを重ねながら最初の発言を段階的に拡張していけば、最終的には「読んで理解したことをもとに考えて表現する」という課題のクリアに近づいていくことができるはずです。

プレゼンテーションで仕上げさせることも、エッセイライティングを最終目標とする練習機会とすることもできるのではないでしょうか。


❏ ワンステップずつ拡張していくことのメリット

上のように問いを重ねながら話すこと/書くことを拡張していく方法であれば、それぞれの生徒の英語力や活動への習熟度に見合った課題や到達目標を設定することができます。

第二段階をクリアできた生徒には、第三段階の問いを与え、それもクリアできたら第四段階と進めましょう。

いずれかの段階で躓いたら、そこで中断して、その段階のクリアを目標に、家庭学習で再チャレンジさせましょう。

その日の宿題にして次の授業までに書いて提出させれば、授業の中で到達できた一歩先に家庭学習を通じて進ませることができます。

これに対して、如上の段階を踏まずいきなり「本文を読み〇語以上の英語で意見をまとめなさい」とした場合は、最初の何段階かがクリアできたとしても、残る印象は「課題を達成できなかった」だけですよね。


❏ 仕上げた答案は公開添削や相互評価の材料に

宿題にして仕上げてきた答案は、先生が点検した上で公開添削に使ったり、相互評価の材料にすることで、思考の欠落や表現の不備を解消する方策を学ばせる機会としましょう。

採点基準を示して自己採点/自己添削を行わせる必要もあります。従来型の学ばせ方が、自己答案を客観的に評価する力を十分に養っていない可能性は、別稿"新共通テストの採点基準~正しく適用できる力"でご指摘した通りです。

先のリテリングやペア/グループワークがうまく行っても、そこで学習活動を止めてしまっては、学習の成果を確かなものにはできません。

仕上げたものを点検して、次のステージを目指すには何が必要か課題形成をしっかり行うことが大切です。

限られた指導機会/授業時間で最大成果を得るカギは、「やりっぱなしにしない」ことではないでしょうか。


❏ 他教科の学習におけるインプット/アウトプットにも

夏休みなどの長期休業期間の課題としてサイドリーダーを与えたり、普段の多読指導で副教材を使ったりするケースも多いかと思います。

しかしながら自学自習できちんと英語が学べているかは疑問が残るところです。「読まされている」というやらされ感が前面にでたら、かえって主体的に読書に向かおうとする気持ち(読むことへの意欲)を弱めてしまうかもしれません。

こうした弊害を避けるには、もともと興味のあるものを生徒自身に選ばせるのが好適です。

総合的な学習の時間で、理科や社会の内容と関わるテーマを選ばせたら、調べ学習や先行研究の調査に際し、英語で書かれたソースにも当たらせてみたらどうでしょう。


❏ 読むべき英文を自力で探させて文献検索の練習

インターネット上で英語の記事を探して読ませ、その要約をレポートに加えさせてみるのも面白いと思います。

特に、研究開発大学への進学を目指す生徒には、探究スキルのひとつとして「文献検索」を経験させておくのは好適です。

先生が選んだ作品をサイドリーダーとして指定して全員に同じものを読ませるより、生徒が自分の興味や関心を満たそうとして読むものを選ぶ方が、積極的で主体的な学びに近づきやすいはずです。

英文中にわからないところがあれば、自分でも調べようとするでしょうし、手詰まりになれば職員室を訪ねて先生に訊けば良い話です。



一つの教材で多角的に学びを深めることと、科目の重なりを利用することは、カリキュラムマネジメントの中核をなす発想です。

知識の定着を図るにしても、いっぺんに厚塗りするよりも、間を空けながら漆を塗るように薄く何度も重ねていく方が、ひび割れや剥がれもないふっくらと光沢に優れた仕上がりになるのではないでしょうか。


教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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