"探究活動の作法"を学ぶ機会は整っているか
前稿"探究活動の課題~調べ学習との境界と進路への接点"でも申し上げましたが、調べ学習との違いを十分に認識していなかったり、自らの進路やこれからの学びとの接点が意識されないまま、カッコつきの「探究活動」に取り組んでいる生徒がいます。
ひとつには、探究活動の進め方や守るべき「作法」を学ぶ機会がなかったことが原因かもしれません。
❏ 探究の方法を常時参照できる副教材を持たせる
限られた指導時間で、探究の手法を授業スタイルで体系的に学ばせるのは極めて困難ですが、それらをまとめた参考書を持たせ、必要に応じて参照させることなら十分に可能です。
探究の方法を体系的に学ばせるのに週に一コマ程度を当てたところで、表面をなぞるのが精いっぱい。生徒もそこで学んだことを応用するには至らないのではないでしょうか。
それぐらいなら、実際の探究活動を進めながら場面ごとの必要に応じて参照させた方が「知識を使いながら覚える」ことに繋がり効率的です。
探究活動でも参照型の副教材を持たせておけば、指導に当たる先生方の間でも指導上のポイントを共有でき、目線を合わせた指導が行いやすくなりますし、生徒に個別指導を行うときも、書籍の該当箇所を参照しながら行えるので指導の意図が生徒によく伝わるはずです。
❏ フェイズをひとつ通過するたびに次の章を通読させる
頻繁に参照しなさいと推奨するだけでは、生徒が積極的にページを開いてくれるとは思えません。探究活動が次のフェイズに進むときに、一章ずつ通読させて「何がどこに書いてあるか」を把握させましょう。
授業スタイルで先生が解説しながらひとつひとつ理解させる必要はありませんし、そんな時間もないはずです。
生徒には「テクストを読んで理解し、必要に応じて適応する力」を身につけてもらわなければなりませんから、自力で読ませるのが正解です。
わからなければ聞きに来れば良い話ですし、友達同士でも教え合えます。わかっているかどうかは生徒が実際に進めている探究の様子を観察すれば把握できるはずです。
❏ 先輩が残した論文をモデル/反面教師に実践練習
探究活動の参考書で理論を学ばせても、実例の中で探究の方法の適否を具体的に確認しないことには腑に落ちないものが多いはずです。
生徒本人の探究活動に逐次修正助言をしてあげるのが一番でしょうが、ただでさえ忙しい生徒に「振り出しに戻る」ようなやり直しは酷です。
過年度の生徒が残した論文を教材に、「サンプル数の不足」「論理の飛躍」といった問題点を具体的に学ばせる機会を設けるべきです。
前段の「通読」を課す前後で、先輩の論文から問題を含む箇所をコピーして配り、「この論文のどこが問題なのか」を探させ、その理由を参考書での記述に準じて言語化させてみては如何でしょうか。
良さ悪さを言語化できることは、自分のやっていることを客体化する土台であるのは、表現力を高める指導と通じるものがあります。
❏ 図書室には探究方策に関する蔵書を揃えておく
探究活動についての参照型の副教材を持たせたとしても、もっと詳しく具体的なところまで調べたいという欲求に応えるには、図書室の蔵書を整備・充実させておく必要があります。
生徒に購入させられるのは、価格や持ち運びの利便からコンパクトなものになりがちで、記述に往々にして不足があります。
調査を行うときの留意点、実験の方法、データのとり方、統計処理の実例など、探究活動を進めていく上で必要な事柄のそれぞれを深く扱った書籍は図書室に揃えておきましょう。
生徒に買わせた副教材に紹介されている「参考文献」から、蔵書の候補をピックアップしても良いかもしれません。
❏ 論文集には「講評」も添えて、図書室に並べる
過年度生が残した論文は、後輩学年にとって探究の進め方、論文の書き方を学ぶ絶好の教材ですので図書室に何冊かずつ揃えておきましょう。
ただし、多くの学校で作成している論文集を見ると、単に提出された論文が集められているだけであり、成果発表会での講評者のコメントが参照できる作りにはなっていません。
成果発表会に選出された論文を抽出して講評を添えた「代表論文集」を編む必要はないでしょうか。
講評者は、研究が見落としていたことや別のアプローチの可能性、結論の中に残った「答えるべき問い」などを示唆したはずです。それを伝えなくして、学校の探究活動の発展的継続はあり得ません。
先輩の発見や残した問いを起点に探究のテーマを選んでいる事例はあまり見かけない理由もこの辺りにありそうです。
❏ ポスターセッションのパネル掲示に年度勝ち残り方式
ポスターセッション用につくったパネルを通年で掲示している学校は少なくありませんが、多くの場合、年度ごとにパネルを直近年度のものに入れ替えてしまいます。
年度をまたいだ「勝ち残り」形式にしてみてはいかがでしょうか。
先輩たちの実績を踏み越えなければ掲示されませんから、通年掲示という栄誉を得るためのハードルはぐんと高くなりますが、その分だけ後輩たちに伝えるものとしての価値は上がります。
なぜそのポスターが勝ち残ったのか、選考理由をポスターに添えておけば、後輩学年の生徒たちに探究に取り組むときの指針も示せます。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一
ひとつには、探究活動の進め方や守るべき「作法」を学ぶ機会がなかったことが原因かもしれません。
❏ 探究の方法を常時参照できる副教材を持たせる
限られた指導時間で、探究の手法を授業スタイルで体系的に学ばせるのは極めて困難ですが、それらをまとめた参考書を持たせ、必要に応じて参照させることなら十分に可能です。
探究の方法を体系的に学ばせるのに週に一コマ程度を当てたところで、表面をなぞるのが精いっぱい。生徒もそこで学んだことを応用するには至らないのではないでしょうか。
それぐらいなら、実際の探究活動を進めながら場面ごとの必要に応じて参照させた方が「知識を使いながら覚える」ことに繋がり効率的です。
探究活動でも参照型の副教材を持たせておけば、指導に当たる先生方の間でも指導上のポイントを共有でき、目線を合わせた指導が行いやすくなりますし、生徒に個別指導を行うときも、書籍の該当箇所を参照しながら行えるので指導の意図が生徒によく伝わるはずです。
❏ フェイズをひとつ通過するたびに次の章を通読させる
頻繁に参照しなさいと推奨するだけでは、生徒が積極的にページを開いてくれるとは思えません。探究活動が次のフェイズに進むときに、一章ずつ通読させて「何がどこに書いてあるか」を把握させましょう。
授業スタイルで先生が解説しながらひとつひとつ理解させる必要はありませんし、そんな時間もないはずです。
生徒には「テクストを読んで理解し、必要に応じて適応する力」を身につけてもらわなければなりませんから、自力で読ませるのが正解です。
わからなければ聞きに来れば良い話ですし、友達同士でも教え合えます。わかっているかどうかは生徒が実際に進めている探究の様子を観察すれば把握できるはずです。
❏ 先輩が残した論文をモデル/反面教師に実践練習
探究活動の参考書で理論を学ばせても、実例の中で探究の方法の適否を具体的に確認しないことには腑に落ちないものが多いはずです。
生徒本人の探究活動に逐次修正助言をしてあげるのが一番でしょうが、ただでさえ忙しい生徒に「振り出しに戻る」ようなやり直しは酷です。
過年度の生徒が残した論文を教材に、「サンプル数の不足」「論理の飛躍」といった問題点を具体的に学ばせる機会を設けるべきです。
前段の「通読」を課す前後で、先輩の論文から問題を含む箇所をコピーして配り、「この論文のどこが問題なのか」を探させ、その理由を参考書での記述に準じて言語化させてみては如何でしょうか。
良さ悪さを言語化できることは、自分のやっていることを客体化する土台であるのは、表現力を高める指導と通じるものがあります。
❏ 図書室には探究方策に関する蔵書を揃えておく
探究活動についての参照型の副教材を持たせたとしても、もっと詳しく具体的なところまで調べたいという欲求に応えるには、図書室の蔵書を整備・充実させておく必要があります。
生徒に購入させられるのは、価格や持ち運びの利便からコンパクトなものになりがちで、記述に往々にして不足があります。
調査を行うときの留意点、実験の方法、データのとり方、統計処理の実例など、探究活動を進めていく上で必要な事柄のそれぞれを深く扱った書籍は図書室に揃えておきましょう。
生徒に買わせた副教材に紹介されている「参考文献」から、蔵書の候補をピックアップしても良いかもしれません。
❏ 論文集には「講評」も添えて、図書室に並べる
過年度生が残した論文は、後輩学年にとって探究の進め方、論文の書き方を学ぶ絶好の教材ですので図書室に何冊かずつ揃えておきましょう。
ただし、多くの学校で作成している論文集を見ると、単に提出された論文が集められているだけであり、成果発表会での講評者のコメントが参照できる作りにはなっていません。
成果発表会に選出された論文を抽出して講評を添えた「代表論文集」を編む必要はないでしょうか。
講評者は、研究が見落としていたことや別のアプローチの可能性、結論の中に残った「答えるべき問い」などを示唆したはずです。それを伝えなくして、学校の探究活動の発展的継続はあり得ません。
先輩の発見や残した問いを起点に探究のテーマを選んでいる事例はあまり見かけない理由もこの辺りにありそうです。
❏ ポスターセッションのパネル掲示に年度勝ち残り方式
ポスターセッション用につくったパネルを通年で掲示している学校は少なくありませんが、多くの場合、年度ごとにパネルを直近年度のものに入れ替えてしまいます。
年度をまたいだ「勝ち残り」形式にしてみてはいかがでしょうか。
先輩たちの実績を踏み越えなければ掲示されませんから、通年掲示という栄誉を得るためのハードルはぐんと高くなりますが、その分だけ後輩たちに伝えるものとしての価値は上がります。
なぜそのポスターが勝ち残ったのか、選考理由をポスターに添えておけば、後輩学年の生徒たちに探究に取り組むときの指針も示せます。